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手のひらの京

"京都の空はどうも柔らかい。頭上に広がる淡い水色に、綿菓子をちぎった雲の一片がふわふわと浮いている。鴨川から眺める空は清々しくも甘い気配に満ちている。"2016年発表の本書は京都生まれの著者が谷崎潤一郎『細雪』に影響を受けて描いた三姉妹の日常に彩られた京都の春夏秋冬物語。

個人的には、京都を舞台にした作品を手あたり次第に読む中で、本書に出会いました。

さて、そんな本書は奥沢家の三姉妹、図書館司書として勤めるも内心、結婚に焦りを感じ始めている長女の綾香。自分のモテに対して絶対的な自信があるも、それがもとで恋愛ざたと同性の"いけず"撃退に忙しい次女の羽依。大学院に進むも『好きやからこそ一旦離れたい』と、家族からの反対を押しきって京都から離れようとする三女の凛。の【三者三様の日常】が、京都の四季の移り変わりを後景に描かれているわけですが。

率直に言って、著者の本は『インストール』『蹴りたい背中』と読んできて、あまり印象に残らなかったので、久しぶりの三冊目として何となく手にとったのですが。人物描写、京都の描き方が【とても巧い!】と、ちょっと驚きました。(すいません)

また、著者自身が述べているように。どうしても谷崎潤一郎の『細雪』。そして京都が舞台と言うわけで、川端康成の『古都』(もっとも、こちらは物語自体より"エキゾチック京都"が前景ですが)と比較して語られがちかもしれませんが。

それこそ本書曰く"バリアを覆って離さない気がする"京都の(祝いと裏腹な)呪いみたいなもので【京都を脇に置いても充分に】本書は20代から30代の女性の心情が多くの人に【共感できるであろう等身大な姿で】魅力的に描かれている作品だと思いました。

京都好きはもちろん、若い女性たちの日常を描いた作品が好きな方に。また漫画・映画『海街diary』とか好きな人にもオススメ。

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