見出し画像

村上春樹の『螢』・オーウェルの『一九八四年』

"この二作が一冊になったのは偶然だ。しかしどこか必然を感じるのはもちろん村上さんの作品に『1Q84』があるからだが、それだけではない。"2019年発刊の本書は"水で描き、墨を落とす"独特の技法で知られる漫画家が呈示する傑作小説のコミック化作品。


個人的にはオンライン読書会で他の参加者にすすめられて手にとってみました。

さて、そんな本書は『文藝』に2015年に掲載された『1984年』に発刊、ノルウェイの森のもとになった村上春樹の恋愛短編『螢』そして描き下ろしとして、全体主義国家によって監視社会になった世界を描いたG・オーウェルのディストピアSF小説『1984年』の二作がコミック化されて収録されているわけですが。

著者の他作品は拝見したことがないのですが。柴田元幸が本書に対する解説で【原作への『踏み込み方』に慎みが見える気がする】と書いているように、二冊のそれぞれの小説家が書いた作品に自分なりの解釈を加えたり、コミックという媒体に合わせてアレンジしたりせず、小説は『小説』として、繊細かつ慎重に【そのまま再現している】印象があって、二冊品とも既読かつ好きな私にとっては大満足でした。

また、作者には発表時期的にその意図はなかったと思いますが。まさに国家により『個人の行動に制約が課せられ、文化が奪われたり』良くも悪くも『身近な人と向き合わされる』現在、村上春樹の『螢』の主人公の抱える【もてあますほどの孤独】に自分自身を。そしてG・オーウェルの『1984年』で描かれる【過去すら改変する国家』に、招致が決まったとたんに復興の文字が削除されたオリンピックを重ね合わせて、ズドンと打ちのめされる感覚でした。

村上春樹、G・オーウェル好きはもちろん、今の緊急事態宣言下での自宅読書のお供にぜひ。オススメします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?