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女の一生

"いいえ、そんなことはありません。誰が選んでくれたのでない、自分で選んで歩きだした道ですもの。間違いと知ったら自分で間違いのないようにしなくちゃ"沖縄戦の最中、大和沈没の直後、1945年に初演を迎えた本作は、布引けいの半生の歩みに近代日本の姿を重ね合わせた文学座不朽の名作戯曲。

個人的には運営しているお店がある大阪・中津には著者の出生地ということで、記念した石碑が公園に置かれている事から興味を持って手にとりました。

さて、そんな本書は(戦後版は)プロローグとエピローグで終戦後の東京、焼け野原となった町の一角で過ごす60代、主人公の布引けいの姿を描き、間に【枠物語として挟み込まれるような形で】過去。日露戦争における旅順陥落で日本中が熱狂している様子から、米軍の空襲で焼け野原となるまで。つまり【大日本帝国の栄光から没落まで】を、戦争で財をなした貿易商、堤家に迷い込んだ孤児の少女けいがやがて、商いの才能を認められて長男と結婚、女実業家として【献身するも、やがて傾いていく】半生と重ね合わせて描いているのですが。

まず、文学座の名女優として布引けいを947回演じた杉村春子について勉強不足だし、現在もバージョンアップを重ねて上演されている劇自体も残念ながら未鑑賞なので【そういった部分では語れない】のですが。それでも敗戦濃厚とはいえ検閲がまだ行われていた時代、また演者も観客も【いつ死ぬかわからない状況下で】本作が【6日間、12回公演された】という事実に、何とも時代を超えて【戦中文化人、文化を愛する人たちの意地が感じられて】胸をうたれます。

また、フランスのモーパッサンの同じ名前の作品では主人公の女性ジャンヌには現代感覚で読むと受け身で自立しておらず、私には(描写の美しさとは別として)率直に言えば共感しにくかったのですが。本作は【重たい歴史的・社会的背景を抜きにしても】主人公の布引けいは対照的に、名セリフ『自分で選んで』に代表されるように(本当は言葉どおり。。ではなくても)少女時代から【活き活きと逞しく描写されていて】共感はもちろん、現代でも充分に魅力的だと感じました。(うーん。舞台。やっぱり観に行こうかな)

文学座や杉村春子のファンはもちろん、戦前から戦後と上演され続けている名作戯曲として、また主人公のいとの姿に自分を重ね合わせたい人生午後世代にもオススメ。

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