福岡ソフトバンクホークスの今

2023年の福岡ソフトバンクホークスのレギュラーシーズンが終わりました。
応援している多くの人にとって歯痒い1年だったのではないかと思います。
ここでは今シーズン(というより昨シーズン終了後から)のホークスについて個人的な考えを残しておこうと思います。


去年の最終戦終了後、上の様なツイートをしました。
個人的には、これが全てだと思います。
結果として、昨シーズンはリーグ優勝できなかったことをもって「失敗」と評価されてしまいました。その後繰り広げられた大補強は皆さん御存知の通りです。

去年は本来「育成」のシーズンのはずでした。
チームに多くの栄光をもたらした工藤公康監督が久しぶりのBクラスとなった2021年シーズンの責任を取る形で退任。
新たに就任した藤本博史監督は1軍打撃コーチの経験はあるものの、前の3年間は3軍・2軍の監督を務めており世代交代の意図をもっての起用と(少なくとも自分には)思われました。
秋山幸二監督2年目でリーグ優勝をした2010年から工藤政権にかけての約10年間のホークスは栄華を極めました。リーグ優勝6回、日本一7回を果たし、2010年代のNPBはホークスの時代と評して差し支えないでしょう。
もちろんその隆盛も永遠ではなく、数年前から世代交代の必要性は指摘されていました。怪我による不在などはあれど、野手の中心選手が盤石であったため若手につけ入る隙が少なく、また工藤監督も基本的にはそのシーズンを優勝する最善手を打ち、リソースを消費するタイプの監督であったため次世代の主力育成はチームの課題となっていました。

大前提として「勝利」と「育成」はトレードオフです。
2010年代のホークスはおそらくチームの、さらにはNPB歴史に残る黄金期であり、逆に言えば次なる世代の育成を並行して行うのが困難であるのは至極当然です。
加えて、強い時期の選手というのは多くのファンが思い入れを抱くものです。内川や松田がホークスで引退しなかったことに対して不満を抱いた人は少なくないでしょう。
チームの成績・チームを支えてくれたベテランの扱い・次の世代の育成、これらすべてを理想的に行えるほどNPBの世界は簡単ではありません。
当たり前といえばそこまでですが、現場はこの問題にしっかりと向き合ってきたと思っています。
工藤政権終盤にかけて、チームの功労者に引導を渡して人員整理を行ってきました。そして2021年のBクラスを再編期の号令とし、2022年に藤本監督を昇格人事で起用します。王・秋山・工藤というレジェンドたちが率いてきたことを考えると「地味」な選考に思えます。
そして2軍監督には小久保裕紀を配置転換します。小久保は言わずとしれたホークスの象徴、天性のリーダーです。いずれは1軍監督、軌道に乗れば長期政権を任せたいという思惑は間違いなくあるでしょう。
ただ長期化しかねない再編期を当初から小久保に任せると勝てない不満が監督に集中してしまうリスクがあるため、2軍で育てた選手とともにチーム力を整えて昇格するのが理想的だと首脳陣は考えていたと思います。

客観的に見て、当時の藤本博史がホークス以外で、ホークスであったとしてもあのタイミング以外で、NPBの1軍監督のオファーが来た可能性は非常に低いでしょう。年齢を考えるとラストチャンスといえます。
当時は戦力的にも、特に若手先発投手の層が薄く、さらには2022年にはFAで千賀滉大が抜けることが既定路線でした。
契約期間の2年間、「地味」な藤本監督に「育成」するシーズンの泥を被ってもらう、監督自身もおそらくそれを理解した上で自身にとって最後のチャンスであろうオファーを受けたのではないでしょうか。

そして迎えた2022年、藤本監督は自らの仕事を全うしました。
たしかに采配においては今の時代にアップデート出来ていない部分は散見されながらも、小久保2軍監督が推薦した選手を速やかに1軍に上げ起用するという、少なくとも工藤政権ではほとんど見られなかった若手の積極起用を行いました。
多くの選手がチャンスを得て1軍にしがみつき、チームに数年漂っていた閉塞感が少しずつ解かれていくような、長くファンをしている人間としても非常に楽しみが多いシーズンとなりました。
チームは終盤まで優勝争いをし、そして非常に劇的で、残酷な形で優勝を逃しました。
あの山口の打球が千葉の夜空に上がった瞬間、「ああ、まだなんだな」と感じたのを覚えています。この若いチームが優勝するのはまだ少しだけ早いんだよと、野球の神様が試練を与えたのだと、この悔しさを経験した選手たちが次の時代のホークスを引っ張っていくのだと清々しい思いで試合を見つめていました。
そして試合終了直後の上記のツイートにつながったというわけです。

しかし、2023年のホークスでグラウンドに立てたのは、必ずしもその悔しさを糧にした選手たちではありませんでした。
「育成」のシーズンの評価が、優勝できなかったという「結果」のみによってされました。しかも残り2試合を負けたことで優勝を逃したという印象に引っ張られた結果、明らかな落胆と失望を込めた大型補強に走りました。
今シーズンの嶺井の起用法(甲斐とのツープラトンでもない中途半端さ)一つを見ても、現場が要求した補強でなかったことは明らかでしょう。
かくして育成の2年目であったはずのシーズンは「優勝を義務付けられた」シーズンとなってしまいました。
育てながら勝つにあと一歩届かなかった1年目に失敗の烙印を押され、2年目の藤本監督はキャンプ・オープン戦の時点から既に余裕がない采配を繰り返し迷走していきます。そもそも采配力を期待されて就任した監督ではないのですから当然ともいえます。
若い選手には昨年と起用の基準が変わったことも、そもそもチームの実権を握っている人間が選手の成長を待つ気持ちなど全くないということも間違いなく伝わったことでしょう。
昨シーズン確かにあった世代交代の風は完全になくなりました。

たしかに近藤・有原・オスナ(彼やバウアーがNPBで当たり前のようにプレイしていることについても思うことはありますが、本旨とは逸れるのでここでは触れません)らの実力は傑出しており、戦力的には間違いなく上積みだったと思います。
しかし昨年同率・直接対決の勝敗でギリギリ優勝を逃したチームにその上積みがあったにも関わらず王者オリックスに大差をつけられる結果となりました。
工藤政権下の中継ぎ偏重(もちろんそれで結果を残したので批判の対象ではない)が続いたことによる先発の薄さは埋め難く、千賀のマイナスを有原・ガンケルで埋めることは到底出来ませんでした。
予想された戦力的なアンバランスの中、黄金期の主力の底力と新戦力に頼るしか術がないチームは徐々にジリ貧になり、そしてあの12連敗によりシーズン終盤を待たずして優勝戦線から脱落。

去年とは対称的に今年レギュラーの足がかりを掴んだ選手は投打ともにほぼ皆無(強いてあげるなら田浦・大津くらいでしょうが、その起用法も最後まで固まらないままでした)。
戦力の育成という観点からは失われた1年となってしまいました。
そして、失われたのは1年だけではありません。
今後誰が率いるにしても、どの様な現場の体制を組んだとしても、「2022年シーズンに上層部が納得せずチームのバイオリズムを無視した補強がされた」という過去は消すことが出来ません。世代交代のために1年間すら待ってもらえない可能性を常に念頭に置きながら選手の育成・起用を行う必要があります。中長期の計画はおろか、2,3年の短期スパンの計画すら許容されないことを前提にしてのチーム作りなど不可能でしょう。

ここまで1年間に対する考えをなんとか言語化してきましたが、そもそも当初から分析・整理が出来ていたわけではありません。
2022年シーズン、あのプロ野球の面白さが詰まったような優勝争いを世代交代中のチームが戦ったことに対して、上層部も、そしてファンも、前向きに捉えられていない雰囲気。直感で「まずいな」と感じていました。

自分も20年以上チームを観てきています。
オーナーのチームに対する愛情を理解していますし、ホークスが福岡のチームであり続けている理由が彼にあることも理解しているつもりです。
補強すること自体が悪いわけではありません。補強無しで勝てる程NPBは甘くありません。
そしてファンが優勝を求めるのも、それが叶えられなかった時に批判をするのも当たり前だと思います。

ただチームの現状に対して自分が最も辛いと思っているのは、現場が少しずつ準備を進めていた未来への道筋を思わぬ介入によって変えざるを得なかったことです。今年を育成に当てていればバラ色の黄金期が再来したなどとは思っていませんが、ここまでの閉塞感は漂っていなかったのではないでしょうか。

長期間の低迷はファンにとって辛いだけでなく、その期間レギュラーを張った選手たちに優勝や優勝争いを経験してもらえないという辛さも伴います。
今年引退した松田宣浩という選手は2000本安打にも届いていないし、打撃タイトルも取っていないしベストナインも1回(しかも全盛期を過ぎた後)と記録の面で傑出していたわけではありません。しかし強いチームの先頭に立ち続けたことが、マッチをホークスファンにとって特別な存在にしているのです。もしその間ずっとチームが低迷していたとしたら彼の評価は変わっているのではないでしょうか。
その松田のルーキーイヤーは、打率 .221,3本塁打,OPS .582、サードを守らせればエラーを連発という有様でした。それでも当時のチームはその選手に200打席を越える機会を与えています。もし今のホークスに松田が入団したとして、果たしてレギュラーになれているでしょうか。

強いチームが弱くなる時、それは常に「勝つことを当たり前だと勘違いし始めた時」だと思うのです。現在のホークスを取り巻く環境には少なからずその「勘違い」が見え隠れしています。

去年の「まずいな」という直感は残念ながら見事に当たってしまいました。
今年のチームをみて、率直に長い低迷を予感しています。
疑問符がつく采配も多くあったことは事実です。それでも不信の原因を藤本監督一人に押し付けるような風潮が強まれば、予感はさらに強くなることでしょう。

チームがどのような状況にあっても応援すること気持ちに変わりはありません。時代もありSNS上で誹謗中傷を繰り返すファンが少なくないのも理解は出来ます。それでも、ファンを信じて腰を据えたチーム作りをして欲しいと思います。
数年後、「あの時の直感は、的外れだったな」と思えることを願っています。


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