オートマタ:ゴールデン・エイジ

 ぼたり。タール混じりの黒い雨が落ち、甲板の街を濡らす。今日の予定ではもう少しあとから降らせるはずだったかと思ったが……周りの兵士たちも予定外の雨に驚いて雨宿りに屋根の下、建物へと避難する。
私も雨宿りにと手近の人形屋へ入る。扉を閉めると、その音は聞こえなくなった。

「…………お客さんですか?」

奥から出てきた店主が私を見るなり言った。私はただ黙って首を振る。すると店主は私の手に目を落として言う。

「傘をお忘れでしたか」

私は何も答えず俯く。

店主もそれ以上は何も言わなかった。

そして私は気づいた。

捻じれた金装飾の施された丸いメガネ。サラリとした黒髪は後ろで束ねられてて、細い首筋が露わになっている。

「……………………」

その光景に──私は見覚えがあるのだ。

「いらっしゃいませ」

 店主は微笑む。
そうだ! あの時と同じだ! 私は店主に駆け寄る。店主は目を丸くして驚く。しかし私が何かを言う前に、店主が口を開いた。

「あなたはもう来ないと思ってましたよ」

ぼたり──激痛。低品質な血と潤滑油が傷口から零れ落ちると床の隙間に消え、私の意識は途絶えた。

【続く】

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