ぴよ子

にわとりになりきれなかったピアノ弾き。音楽とお布団とおいしいものが好き。行き場のない想…

ぴよ子

にわとりになりきれなかったピアノ弾き。音楽とお布団とおいしいものが好き。行き場のない想いをことばにするのも好き。 「かがみよかがみ」著者ページ https://mirror.asahi.com/author/11005775

最近の記事

涙もろい夫

夫は涙もろい。 私に見せまいとしているようだが、実はかなりよく涙ぐんでいる、気がする。 初めて気付いたのは、プロポーズの時。 猛烈に緊張しながら「結婚してください」と言った彼の目は赤く、返事を聞いて私を強く抱きしめた腕は震えていた。 小さな喧嘩をした時も、よく布団で顔を隠しながら泣いている。 それが何の涙か、全部わかるわけではないけれど、悔しいのか悲しいのか、言葉にできない感情が涙として出てきているように見える。 感動する映画やドラマを見た時も、涙ぐんでティッシュで目尻

    • 「豊か」って何だ

      梅雨入り前の5月末、生まれて初めて「マネーセミナー」に参加した。 年金制度の不安、インフレなどのリスク、iDeCoやNISAの違い、リスクヘッジの保険等々、ものすごくわかりやすくて、良いセミナーだった。 しかし、比較的前向きな気持ちで参加した私の胸中は、今、かなり荒れ狂っている。 景気って回復するの? iDeCoにしてもNISAにしても、一言で表現するならば「投資」になると思う。 そして投資とは、「利益を見込んで事業に資本を出すこと(新明解国語辞典 第六版)」である。 少子

      • 未来を少し楽しみにしてくれた「仕事の大事典」の話

        子供の頃、「将来」について考えることが怖かった。 きっかけは、多分小学2年生の頃。ちょっとピアノが上手に弾けたので、音楽の好きな父親から「将来は留学すると良い、留学というのは、パパやママと離れて、ひとりで外国に勉強しに行くことだ」と言われたことだと思う。 「大人」になったら家から放り出されるんだ――それは、小学2年生にとってはあまりに強すぎるインパクトで、その頃から私は、大人になること、将来について考えることに、なんとなく恐怖を覚えるようになった。 背が伸びて、中学校の

        • 何者でもなかった私

          ひどく疲れていた。 まだ慣れないテレワークの後、どうにも目の焦点が合わない。パソコンの画面よりも遠くを見たい。息を吸いたい。そんな気持ちで、ふらりと家を出た。 八月の残り香が寂しい、ひとりきりの夕暮れ。ふと、幼稚園、小学校と通った脇道へと、足を向ける。 青々と茂る緑の中から、虫の声が聞こえる。遠くからはかすかに鳥の歌。昼間とは打って変わった、静かで、ひんやりとした風が髪を揺らす。 雑草の生い茂る遊歩道を進み、坂をひたすらにくだれば、懐かしい母校。脇を流れる川を上流に向か

        涙もろい夫

          片翅の傷ついた蝉

          「23日にね、彼氏とあのふたりに会いに行くの」 私の誕生日だなと思った。 グラスの水はとうにいっぱいで、気付けば私の手はびしょ濡れだった。 6月、小学校からの大親友の結婚式に、これまた幼稚園からの大親友と参列した。 ドレス姿楽しみだね、お色直し何色かなぁ、新郎側の参列者に素敵な人がいればいいね、なんて話しながら。 真っ白なウェディングドレスに身を包んだ友人はとても綺麗で、ただただ嬉しくて。なんだか感動して、ふたりそろって泣いてしまった。 そんなだから、せっかくドレスアップす

          片翅の傷ついた蝉

          恥ずかしいことを、たくさんしよう

          「本を読むことは恥ずかしいこと」 金曜日の夜、本当は飲みに行きたいところをぐっとこらえた、大切な友人とのLINE電話中のこと。缶チューハイ片手に、仕事の愚痴や、学生時代の思い出、他愛のない話のなかで、ふと彼女が口にした言葉。 心の内を書きしたためるという、どこまでも内向きな行為の産物を公開し、読者は覗き見よろしく読み漁る。なるほど、野次馬そのものと捉えることもできよう。「読書が好きです」と公言することは、「私には出歯亀のきらいがあります」と言っているようなものなのかもしれない

          恥ずかしいことを、たくさんしよう