物語は続く~豊島先生と藤井さん

王座戦挑決と叡王戦第2局 

8月4日の王座戦挑決を観戦して、かつて両者が戦った2年前の叡王戦第2局を思い出し、終盤をABEMAで改めて視聴して驚いた。今より少し若々しい豊島先生と少し幼い藤井さん(※藤井名人竜王や藤井七冠呼びは、この記事を書く時どうしてもしっくりこないので「さん付け」でお許しください。)が指している将棋が今回の挑決とシンクロしてる!

  ・対局日が8月3日
  ・終盤を迎えて藤井さんがリード(評価値70%ぐらい)
  ・時間差が10分以内で、豊島先生が先に1分将棋に突入
  ・両者1分将棋で1時間近く指し、手数が150手を超える

最終盤、藤井さんが評価値を大きく下げる手を指して、豊島先生の評価値が90%を超える。そこから藤井さんは王手をかけ続けるが、際どい局面を豊島先生は1分将棋のなか正確に指し進めていく。やがて気持ちの整理がついたかのように藤井さんが162手目で投了。

王座戦の135手目、藤井さんがあわてて打った3三歩の駒が升目をはみ出しているのを見て、一瞬あの頃、優勢に進めていた将棋を時間切迫の中逆転された日々に戻ったような藤井さんのあたふたぶり、それを冷静にチャンスと見て前のめる豊島先生。最後は人間的に指すことが難しい2択を迫られ、将棋の神様に選ばれたとしか思えない藤井さんが勝った(このへんは竜王戦第4局とデジャヴ)が、何と言えばいいんだろう。はっきり、ここで王座戦や藤井さんの八冠ロードは終わり(実際には終わってなくて、王座を応援してる人ごめんなさい)、新たな幕が切って落とされた…と感じた。

大河小説なら新たに第二章「八冠編」が始まる。第一章「成長編」の重要な登場人物、ラスボスにして敬愛の人(本人は無自覚で本能レベル)で対局数も勝ち数も負け数も一番多い豊島先生が、第2章ではどんな役柄(役割)で登場するのか。この群像劇の主役は藤井さんなのだろうけれど、藤井さんはもはや狂言回し的存在(棋界のアイコンという意味で)で、第二章は竜王戦挑戦を決めた伊藤さんなど魅力的な新たなキャラクターがフィーチャーされるかもしれないが、第一章とかわらず別格の存在感で藤井さんと盤上の物語を紡いでいくもう一人の主役(脇役ではない)は、やっぱり豊島先生であるとこを8月4日に確信した。

おまけの「番外編」※これはフィクションです。

東海地方のある街に将棋好きの兄弟がいた。

兄は真面目で大人しく、一回り下の弟は末っ子の特権で伸び伸びと育ち、幼い頃はやんちゃだった。2人とも大の負けず嫌い。将棋に負けると兄はじっと我慢し、弟は周囲が困惑するほど号泣した。

兄も弟も5歳で将棋を覚え、早熟の天才ぶりを発揮。兄は史上最年少で奨励会に入会し、弟は史上最年少で棋士となった。

弟は年下にも手加減なしの兄になかなか勝てなかったが、いつしか立場が逆転。今では兄はなかなか弟に勝てなくなってしまった。それでも弟は何より兄の将棋が大好物。欠かさずチェックし、兄がたまに飛車を振ったりしたら一人でにやけてしまう。兄との対局は楽しみだが、タイトル戦で研究勝負で完敗すると本当に悔しい。次の対局では解説の人が「意地の張り合いですね」と思わず苦笑するくらい、さらに深い研究できっちりお返しする。

幼少期はやんちゃだった弟も長じると段々兄に似てくる。物静かで落ち着いた佇まい。礼儀正しく、驕らず、誰も不快にさせない。ユーモアのセンスもあり、自然、敵も作らず、誰からも愛される。弟は将棋が強すぎて仲間内でも畏敬の存在だが、兄に対しては地球代表ややんちゃ振飛車の人など好意を隠さない(実は弟はこの2人がちょっと苦手かも)。全国放送でキャッチフレーズを有名にしたあの人やいつも配信記事で礼賛してくれる教授、弟と負けず劣らず兄の将棋のマニアの会長など、わかりやすく人気者。

好きな色は青。冬にはシンプルな紺がグレーのカシミアのセーター。羽織と着物は柄物は選ばず無地か地紋が基本で,グラデーションで品良く着こなす。夏のタイトル戦に欠かせない涼しげな黒のシースルーの羽織はお揃いで持っていいる。

双子のように好みが似ている2人だが、それぞれの主張がぶつかり合うのが対局時の時計だ。兄は懐中時計、弟は温度計付きデジタル時計と譲らない。
女性の好みは…2人とも将棋以外は関心が内容無いようだ。

ある日の昼時、リビングで朝からずっと将棋を指している兄弟に母が声をかける。

「そろそろお昼にしましょう。今日は卵とじ。まさゆきはおそばで、そうたはおうどんでいいよね?」

兄「(母の目を見て)はい。」、弟「(うつむいたまま)あ、はい。」

母(どうせ今日も麺が伸びちゃうんだろうな…)と思いながら、テーブルにそばとうどんを並べ、それぞれ氷抜きと氷入りの麦茶のコップを添えた。

                          終わり…


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