物語は続く③~豊島先生と永瀬王座

A級順位戦3回戦

9月7日、豊島先生VSなべ先生の久しぶりの順位戦。豊島先生の鬼手5六飛(歩頭に飛車)の興奮の余韻が残る翌日、王座VSさいたろうさんの順位戦があったが、その内容が何とも衝撃的であった。(そういえば、名誉王座への物語の始まりは、さいたろうさんからのタイトル奪取だった)

午前中から不気味な進行だった。先手角換わりで有利なはずの王座が、昼前から評価値を若干下げ夕方までそのまま、しかし時間はほとんど使わず、さいたろうさんの時間だけが一方的に減り続け.夕休前に時間差4時間以上。再開後、王座はさて、ここからが本番です、と言わんばかりに一気にギアを上げて3時間近く時間を残して圧勝した。

王座としては、次戦3連勝でトップを走る豊島先生との対局を前に絶対落とすことのできない対局で、さいたろうさんはその生贄になった感が強い。(それにしても最近のさいたろうさんの不調はどうしたものか)

ともに快勝した豊島先生と王座。対照的な勝ち方だったが、2人が見ている景色の先には藤井名人がいることは間違いない。番勝負負けなしの圧倒的存在の名人を追う筆頭がこの2人であることに異論はないだろう。そしてこの2人が、それぞれの方法論で施行錯誤と膨大な努力を重ねて今より強くなり、本気で名人を倒しにいこうとしていることも。

A級順位戦4回戦

このところ対戦成績で王座が豊島先生を圧倒しているが、これは王座が(名人は別として)最大の強敵を倒すために徹底的に準備をして望んでいるからだと思っている。(王座は名人や豊島先生との対局では憎たらしい?程強いのに、若手にころりと負ける印象がある)昨年の王座戦の時、豊島先生はまるで永瀬藤井の2人を相手にしているように感じたものだ。(※これは仮説だが、先日の王座戦第三局で解説していた菅井さんが、「叡王戦前、叡王と将棋の組み立てが似ている豊島先生にVSをお願いした」と言っていたが、王座が名人との長い研究会の中で、自然と豊島対策をしているようなものではないだろうか)

豊島先生がかつて若き名人の壁であったように、王座にとっても目の上のタンコブのような時期があった。死闘の末敗れた9局(究極?)の叡王戦。大量時間リードかつ優勢の将棋をひっくり返された順位戦や王将リーグ。藤井永瀬の研究会が始まった頃は、羽生先生が複数タイトルを保持していたり、単発でタイトルを手にする若手もいたが、最強棋士はなべ先生と豊島先生と言ってよく、藤井永瀬の一番の標的もその2人であったと思う。(もちろん究極の目標は強くなること、強くなるための真理の追究であるが)

決戦の日は10月17日。その日、京都では王座を退けて挑戦者に名乗りを
上げた若武者と、同じく京都でその前の週に行われる王座戦で八冠となっているかもしれない藤井竜王の竜王戦第二局が指される。2人はどんな思いで1日長い順位戦を戦うのだろう。(目の前の対局以外何も考えないと思うが)

王座の執念と気迫で盛り上がる王座戦の祭りの喧騒のなか、静かに刃を研ぐ豊島先生。何より将棋を指すことの純粋な楽しさ取り戻したような最近の豊島先生の、そろそろ逆襲が始まると信じている。
打倒藤井の先鋒をかけ、物語は続く…。

盤外編③(今回は盤上の話ですが) ※これはフィクションです

王座戦第三局  64手目 ▲竜王名人(12%) △王座(88%) 
                  ※( )内は評価値       ▲「(ガックシ)ああああ…何でこんなことに…序盤まずすぎ(ガックシ)」
△「藤井さんガックシか。わかりやすすぎ(余裕)。豊島さんならこの辺でも涼しい顔して何考えてるかわからないのに。」
▲「残り6分か…とりあえず王手しとくか。今日の永瀬さんは間違えそうにな  いけど。他にないし…(パチン、2一飛) → 10% ー 90%
△「一目、3一歩だけど。いやいや、こちらは居玉、相手は藤井さん。ここは慎重に考えなきゃ。3一歩だとその後…先手の攻め筋結構あるな…(1分将棋に突入)あー全部読んでる時間ない。歩より飛車のほうが固い!(パチン、4一飛) → 59% ー 41%
▲「ん? え? マジ? 4一飛? 金両取だけど?(パチン、6五角) あ~それにしてもひどい将棋だな~(ガックシ)」
△「えっ、今50秒で指した?読み切り?え、え~6五角!?何で見落とした!(頬をぱちぱち)まずい、しっかり考えなきゃ。(再びぱちぱち)でも時間が…(パチン、5四歩)→82% ー 18%
▲「あ~情けない。先手なのにこのざま(ガックシ)あれっ、これ逆転してるじゃん。やバッ、集中しよ(ノータイム、パチン)
△「…(パチン)」
▲「あー何が悪かったかな~(ガックシ)これ、詰みありそう。とりあえず詰まそう。(ノータイム、パチン)」

その後ガックシ、うなだれポーズからのノータイム最善攻めが続いて82手目

△「負けました…」
▲「(ガックシ、じゃなくて、礼)はあ、名人にふさわしい将棋じゃない…(心ここにあらず)」
△「(放心)…人間やめるの難しい…」

王座勝利で終局間近とみて対局室に駆け付けた関係者たちは、呆然とした王座とうなだれた竜王名人を見て、何が起こったのか、どちらが勝ったのかさっぱりわからなかった。

抜け殻状態の2人は追い立てられるように大盤会場へ移動させられたが、誰もいなくなった盤上には置き忘れられた2つの心がぷかぷかと浮かんでいた…。まあ、感想戦が終わる頃にはそれぞれの持ち主に収まってるだろう。
だけど、今夜も王座は眠れない夜を過ごしそうだ。

「急に寝なさいって言われても無理だっつちゅうの…明日は始発で帰って、午後は誰か空いてるかな…。伊藤さんは来週当たるし、まっすーは順位戦か…明日ぐらい休むのもありかな…まだまだ終わりじゃないのだから」

おやすみ、王座。来週は今日の解説でモチベーション上がりまくりの菅井さんも待ち構えてるからね。   
      
                          おわり  

 
 


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