音と光、ついでに匂い。

雷が好きだ。屋内——安全を約束された場所から眺めることを前提として。

常々、雷は自然が生みだした光と音の総合芸術だと思っている。

雷の被害を被ったことがないから、そして身近にそんな存在がいないから言えるのかもしれない。けれど、この自然が生み出す途方もないエネルギーに畏怖と同時に感動を覚えるのは無理もないのではないだろうか。

今日も私は、雷を見ようとベランダに出た。

稲妻を見たかった。あの轟く音を肌身に感じたかった。

しかし、遠雷の轟く感覚は待ちくたびれるほど長くて、
その間感じるのは、時折吹く風が運んでくる「誰かの家の夕飯の匂い」

何の匂いか、当てられる自信はないのだけれど、何となく脳裏に浮かんだのはコロッケかトンカツ。油ものか。ああ、そう考えてみると、この雨の音も揚げ物を揚げる音にも似ている。パチパチとはねる油の音。

雨の日というのは、どうしてこんなにも、車の音が響くのだろう。
水に濡れた道路というのは音をたてやすいものなのだろうか。

音、光、匂い、色んな感覚が刺激的に思えるのは、家から出ていない影響だろうか。


全てが鮮烈に私の中に入っていくような。


時折吹き込む風で、雨粒が頬にあたる。

冷たい空気が周りに満ちているのに、風は湿ってあたたかいような気がして、そのくせ風が運ぶ雨は冷たい。
今、私は寒いのか、そうでないのか。少し混乱する。

稲光が出るのを待っていられず、部屋の中に引っ込むと、その途端に雷鳴が轟く。意地の悪い雷だ。

近づいたかと思えば遠ざかる雨音。

忘れた頃にやってくる雷鳴。

獣が唸るような音を遠くに聞きながら、もっと、と期待する自分がいる。もっと。もっと聞きたい。もっと近く。

空を裂くようなあの音が聞きたい。

こんなことを考える自分はおかしいのだろうか。と思いながらも、期待するのをやめられなかった。

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