ガートナー、2020年の戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10を発表

今年もこの季節がやってきました。ついこの前2019年向けの発表があったかと思っていたら、もう2020年版が発表されていましたね。1年は早いもんです。
2019年10月21日、ガートナーが企業や組織にとって重要なインパクトを持つ「戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10」の2020年版を発表しました。
ガートナーは、テクノロジが出現したばかりの状態を脱し、幅広く利用され、より大きなインパクトをもたらす状態に入り、大きな破壊的可能性を持つようになったトレンドや、今後5年間で重要な転換点に達する、変動性が高く、急成長しているトレンドを、「戦略的テクノロジ・トレンド」と呼んでいます。
2020年の戦略的テクノロジートレンドでは、ヒトを中心に据える考え方である「スマートスペース」を念頭に置いています。

スマートスペースは、ヒトと技術システムがよりオープンで、高度に接続され、調整が行き届いたインテリジェントなエコシステムの中でやりとりする物理環境を指します。
ヒトやプロセス、サービス、モノなど、多くの要素がスマートスペースに集まり、
没入型でインタラクティブな自動化されたエクスペリエンスの実現に至るとのことです。

2020年に注目すべき戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10は、次のとおりです。

(1)ハイパーオートメーション(RPAからさらに広がるハイパーオートメーション)
(2)マルチエクスペリエンス(ヒトの意思や感覚を介したマルチエクスペリエンス)
(3)専門性の民主化(4つの側面がある専門知識の民主化)
(4)ヒューマン・オーグメンテーション (物理と情報に広がるヒトの拡張)
(5)透明性とトレーサビリティ(個人情報が先導する透明性とトレーサビリティー)
(6)エッジ機能の拡張(全産業に広がるエンパワードエッジ)
(7)分散型クラウド(パブリッククラウドから分散クラウドへ)
(8)自律的なモノ(多数のモノが自律的に協調する)
(9)実用的なブロックチェーン(未成熟な現状から実用的なブロックチェーンへ)
(10) AIのセキュリティ(AIにもセキュリティが必要)

既に多くのメディが解説していますので、詳細は省略しますが、今回は特にVR・AR
の視点から考えてみたいと思います。
TOP10のうち、
(2)マルチエクスペリエンス(ヒトの意思や感覚を介したマルチエクスペリエン
ス)
(4)ヒューマン・オーグメンテーション (物理と情報に広がるヒトの拡張)
が特にVR/ARと密接な関係があるでしょう。

マルチエクスペリエンスでは、デジタル世界の知覚と、デジタル世界とのやり取りについて言及しています。
現状のVR/ARの世界では、デジタル世界内での方向や傾きなどをヘッドマウントディスプレイを使用して、視覚をとおして、ヒトに伝えます。
また、手や足首、またはジェッシェーによりデジタル世界にインプットを与えています。中には、触った感触や匂いなども実験レベルでは実現しています。
また、人間拡張についても、以前本コラムでも書きましたが、デジタルの世界、つまり仮想現実の世界では、ヒトが想像したことは実現できます。
やりたい放題です。でもまだまだ技術が追い付いていない感はあるのですが。。。
いづれにしても、デジタルと現実世界がシームレスに交わるようになるでしょう。

<参考>
(1) ハイパーオートメーション(RPAからさらに広がるハイパーオートメーション)
このトレンドは、ロボティック・プロセス・オートメーション (RPA) から始まっている。
しかし、RPAだけではハイパーオートメーションとはいえない。
ハイパーオートメーションでは、ツールの組み合わせによって、人がタスクに関与している部分を模倣できるよう支援することが必要となる。
ハイパーオートメーションは、複数の機械学習 (ML)、パッケージ・ソフトウェア、自動化ツールなどを組み合わせて一連の仕事を実行する概念と実装である。

(2)マルチエクスペリエンス(ヒトの意思や感覚を介したマルチエクスペリエンス)
2028年末まで、ユーザー・エクスペリエンスは、ユーザーがデジタル世界をどのよ
うに知覚し、デジタル世界とどのようにやりとりするかという点で、大きな変化を遂げていく。
実際、会話型プラットフォームによって、人がデジタル世界とやりとりする方法が
変化しつつあると同時に、仮想現実 (VR)、拡張現実 (AR)、複合現実 (MR) によって、人がデジタル世界を知覚する方法も変化してる。
こうして知覚とやりとりの両方のモデルが変化すると、多感覚かつマルチモーダルな未来のエクスペリエンスが実現する。
「ヒトに代わってコンピュータが、ヒトの意図を翻訳するようになる。さまざまな感覚を介したユーザーとのコミュニケーション能力によって、きめ細かな情報を提供するリッチな環境が提供される」(Gartnerのリサーチバイスプレジデント、ブライアン・バーク氏)

(3) 専門性の民主化(4つの側面がある専門知識の民主化)
大規模でコストがかかるトレーングがなくても専門知識を入手できるようになることを「民主化」と呼ぶ。
民主化には、技術的な専門知識(MLやアプリケーション開発など)の民主化と、ビジネスの専門知識(販売プロセスや経済分析など)の民主化の2分野がある。
民主化の例として、アクセスがたやすくなることによる“市民アクセス”(市民データサイエンティストや市民インテグレーター)に加え、市民開発モデルやノーコードモデルの進化などがある。
 Gartnerは、2023年までに民主化トレンドが加速すると予測した。民主化トレンドには4つの重要な側面がある。
 - データとアナリティクスの民主化(ツールのターゲット層が拡大)
 - 開発の民主化(カスタム開発でAIツールを活用)
 - 設計の民主化(ローコード、ノーコード設計を拡大)
 - 知識の民主化(非IT担当者がツールやエキスパートシステムにアクセス可能)

(4)ヒューマン・オーグメンテーション (物理と情報に広がるヒトの拡張)
ヒトの拡張とは体験に不可欠な認知機能と身体機能の向上実現を指す用語だ。
ヒトの拡張には2つの意味がある。一つは、ウェアラブルデバイスなどの技術要素を使った物理拡張。
もう一つは、従来のコンピュータシステムによる情報アクセスやアプリケーション利用と、スマートスペースにおける新しいマルチエクスペリエンスインタフェースによるコグニティブ拡張だ。
今後10年間でこうしたヒトの拡張が一般化し、新しい“コンシューマライゼーション”効果をもたらす。
企業の従業員はこれを利用して、自分の能力拡張とオフィス環境の向上を求めるようになる。

(5) 透明性とトレーサビリティ(個人情報が先導する透明性とトレーサビリティー)
個人情報の価値と管理の重要性に対する消費者の認識が高まり、企業や政府の対応が進む中、透明性とトレーサビリティーは、デジタル倫理とプライバシーニーズをサポートする重要な要素となっている。
透明性とトレーサビリティーの構成要素は幾つもある。
規制や倫理に対する姿勢や行動、支援技術、プラクティスだ。
企業は、透明性と信頼あるプラクティスの確保を図る中で、3つの分野に重点を置く必要がある。(1)AIとML、(2)個人データのプライバシーと所有、管理、(3)倫理的に整合性の取れた設計だ。

(6)エッジ機能の拡張(全産業に広がるエンパワードエッジ)
エッジコンピューティングは、コンピューティングトポロジーを指す用語だ。情報の処理やコンテンツの収集、配信の際、遠隔地にあるサーバではなく、情報やコンテンツのソース、リポジトリー、利用者の近くで処理を進める。
トラフィックの流れや情報の処理をローカル側に維持しようとするものであり、その狙いは、遅延の低減、エッジ機能の活用、エッジにおける自律性の向上にある。
「現時点では、多くの場合、製造や小売りといった業種において、IoTシステムで求められるネットワークに接続されていない処理や分散機能を実現することに焦点が当てられている。だが、エッジコンピューティングはほぼ全ての業種で主要な要素となっていく。そのとき、エッジコンピューティングは、高度な演算リソースや大容量データストレージで支えられるようになるだろう。ロボットやドローン、自
動運転車のような複雑なエッジデバイスが、こうした動きを加速させる」(バーク氏)

(7)分散型クラウド(パブリッククラウドから分散クラウドへ)
分散クラウドは、パブリッククラウドサービスの提供拠点を複数の場所に分散したもので、パブリッククラウドプロバイダーがそのサービスの運用やガバナンス、更新、進化に責任を持つ。
つまり、現在ほとんどのパブリッククラウドサービスで採用されている集中管理モデルからの大きな転換であり、クラウドコンピューティングの新時代を開く。

(8) 自律的なモノ(多数のモノが自律的に協調する)
「自律的なモノ」は、AIを利用して、これまでヒトが担ってきた機能を自動化する物理デバイスを指す。
最も分かりやすい例はロボットやドローン、自動運転車などだ。
こうした自律的なモノにおける自動化は、固定的なプログラミングモデルによる自動化を超える。
AIを利用することで、周囲の環境やヒトとの自然なやりとりを含む高度な動作を行う。
技術が向上し、規制が緩和され、社会的に受け入れられるようになるにつれて、自律的なモノが、誰も管理していない公共空間にますます展開していくだろう。

(9)実用的なブロックチェーン(未成熟な現状から実用的なブロックチェーンへ

分散台帳の一種である「ブロックチェーン」は、信頼の実現や透明性の提供、ビジネスエコシステム間の価値交換の実現により、産業を変革すると期待されている。
コストの削減や取引の完了に要する時間の短縮の結果、キャッシュフローの改善をもたらす可能性がある。
さらに、ブロックチェーンが提供する資産の出どころを追跡する機能や、模造品を防ぎ、部品のトラッキングによって製品のリコール処理を単純化するアイデンティティー管理といった特徴が役立つ分野もある。
アイデンティティー管理はスマート契約にも役立つ。
イベントがアクションをトリガーできるためだ。例えば、商品の受け入れ時に自動的に支払いができる。
「ブロックチェーンは、現時点ではスケーラビリティや相互運用性の低さなど、さまざまな技術的問題があり、企業に導入できるほど成熟していない。だが、ディスラプション(創造的破壊)や収益創出といった観点から見て、大きな可能性があるため、企業はブロックチェーンの評価を始めるべきだ。近い将来に積極的に導入する予定はないとしてもだ」(バーク氏)

ブロックチェーンは、ビジネス・エコシステム全体にわたって信頼を構築して透明性をもたらし、価値交換を実現することで、各種の業界を再構築すると見込まれています。また、コストを削減し、決済時間を短縮し、キャッシュフローを改善する可能性を秘めています。資産をその起点まで追跡できるため、偽物に置き換えられる可能性が大幅に減少します。資産の追跡は、ほかの分野においても有益です。例えば、サプライチェーン全体にわたって食品を追跡して汚染源を特定しやすくしたり、個々のパーツを追跡して製品リコールの際に役立てたりできます。また、ブロックチェーンは、アイデンティティ管理においても力を発揮する可能性があります。
スマート・コントラクトをプログラミングしてブロックチェーンに組み込み、商品を受領したら支払い処理が行われるなど、イベントをアクションのトリガーとすることができます。

(10) AIのセキュリティ(AIにもセキュリティが必要)
AIとMLは、幅広いユースケースに応用されていくだろう。ハイパーオートメーションが進み、自律的なモノを用いたビジネス変革の機会が生まれる。
ただしAIの拡大に伴って、IoTやクラウドコンピューティング、マイクロサービス、スマートスペースにおける高度に接続されたシステムにおいて、潜在的な攻撃ポイントが大幅に増加する。
セキュリティとリスク管理のリーダーは、[1]AIを利用したシステムの保護、[2]AIを活用したセキュリティ防御の強化、[3]攻撃者によるAI悪用の予測――という3つの重要分野に注力する必要がある。

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