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スパークス『厳選投資』の月次レポートを”厳選”してみた 前編 テキスト版

こちらのポッドキャストのテキスト版です。


renny: 月次レポート研究所の今月のテーマは、「スパークス・新・国際優良日本株ファンド(愛称:厳選投資)」の月次レポートを厳選してみる、です。

renny:このファンドは2008年3月に設定された日本の大企業を中心に投資対象にしています。スパークスさんのウェブサイトには2016年6月以降の7年分が掲載されていて、非常に中身が濃いレポートが多いという印象を持っています。吉田さんはこのファンドを認知されたのはどれぐらい前か覚えてらっしゃいますか?

吉田:覚えてないです。2008年、そんな昔からあったんだなぁと。

renny: 僕も存在を知ったのは2014,5年ぐらいです。きっかけは僕が当時やっていた企画で、ブロガーさんにファンドをいくつか選んでもらって、それを毎月買っていったら誰が勝つか、というのをやっていて、その時にm@さんが選ばれたものが身近じゃなかったファンドが多くて、その中の一つが、この厳選投資だったんです。その当時のレポートを今は読むことはできないですが当時の自分のブログを振り返ると、投資先が12社でなおかつ成績が良かったので非常に驚いたという記憶があるんですよね。事前に2人で目を通したのですが、吉田さんがご覧になって一番印象的というか、取り上げてみたいのは、いつのレポートになりますか?


2022年5月のレポートを読む

吉田: 私は2018年の分まで5年分さかのぼって読んでみたのですが、その中からまずは直近の状況にも関係ありそうな2022年5月号のレポート。1970年代アメリカで一部の優良銘柄の株価だけが、すごく上昇した時期があったんです(当時は高金利・高インフレに突入した頃で今に似ている)。その時にPERが高かった企業はその後どうなったか。ジェレミー・シーゲルさんってわりと日本でも有名な投資の本を書かれている方の論文が紹介されています。

renny: 分厚い本を書かれてる人ですよね。

吉田: はい。その当時、PERが高すぎると言われてた会社が、S&P500と比べて、株価と1株当たり利益がどうだったのか、20年ぐらい経って振り返って見たら、別に割高じゃなかったね、というのが分かるという内容の論文です。

renny: 当時“Nifty Fifty(ニフティ・フィフティ)”と呼ばれていて、約50社のグロース株って書かれていますね。

吉田: そうですね。このファンドは成長株に投資すると宣言をしているので、こういう裏付けとなるような昔の論文を紹介するのは大事なことだなと思いました。

renny: なるほど。この論文が発表されたのが1998年。1972年から1998年まで、S&P500が年平均12.7%。これでもすごいですよね。そしてNifty Fiftyを定期リバランスすると12.5%、Nifty Fiftyを単純保有だと12.2%。割高に見えるPERで投資しても、S&P500並のパフォーマンスが出たっていうことを示しているんですかね。

吉田: そうですね。その下に図表があって、コカ・コーラは当時PER46倍だったのか!とびっくりしますね。

スパークス・新・国際優良日本株ファンド 2022年5月のレポートより

renny: バフェットさんが買ったのはいつ頃でしたっけ? もうちょっと後でしたっけ?

吉田: もうちょっと後のはずです。(1988年でした)

renny: でも生活必需品というか食品というか、そういう事業の企業が、PER46倍というのがすごいし、しかもその後を見ると、このバリエーションで買っても報われたってことなんですよね。

吉田: そうですね。S&P500の12.7%上昇を上回って、コカ・コーラは16.2%の上昇。

renny: 年平均の一株当たりの利益成長で見ても、S&P500の8%上昇よりも高かったんですね。もちろんその会社にもよると思いますが、今、日本の会社でPER46倍だと、なかなかちょっと手出しにくいですよね。

吉田: そうですね。新興市場の企業ならありうるかなっていう気はしますが。

renny: なるほど。PERが高くても、本当に成長力がある会社であればタイミングを遅らせると機会損失になるっていうことになるんすかね。だから今だったら、テスラとかすごいPERのはずですよね。(テスラのPER は85倍くらい)

吉田: この厳選投資の投資先だとキーエンスとかはPERが結構高いはず。(キーエンスのPERは45倍くらい)

renny: そうですね。このファンドは最近、HOYAとか東京エレクトロンを組み入れたような記憶がありますが、そこら辺もPER高いんじゃないですかね。

吉田: 東京エレクトロンは、春頃から株価が5割ぐらい上がったような気がするので高いはず。(東京エレクトロンのPERは30倍くらい。思ったより高くなかった。)

renny:実はこのファンド、3月決算で投資先の入れ替えが結構あって、新しく組み入れたのが、ローム、東京エレクトロン、オリンパス、HOYA、NTTや保険会社とか。そして売却したのが長く持っていたソフトバンクグループな日本電産。

吉田: へぇー、ソフトバンク売却したんですね。

renny:ソフトバンクグループは3月の時点で組入資産の表記が棒線になっているんです。

スパークス・新・国際優良日本株ファンド 交付運用報告書より

吉田:ソフトバンクは何かニュースが出るたびに月次レポートでフォローのコメントを書いていたイメージがあったのに。

renny:信越化学も2022年3月から2023年3月の間に投資していますね。だからこのファンドとしては、2022年からの1年間で大きな意思決定があったのだろうなと思いますね。だからそのあたりも注目しておきたいなと思います。

2017年12月のレポートを読む

renny:続いて僕が選んだ月次レポートは2017年12月のレポート。この時点で投資先は15社で、組入1位が花王で、2位がソフトバンクグループ、5位は日本電産。この3社は現在は売却済みで、この時の上位5社で残っているのはテルモとリクルートホールディングスですね。このレポートで最初に説明されているのはソフトバンクグループ。このときは楽天が新たに携帯通信事業に参入するという報道をきっかけに株価が下落したというタイミングだったんですね。楽天の今の状況はこの当時は予想できなかったと思うんですけど。

吉田:そうですよね。

renny:それはちょっとさておき、このレポートの2ページ目から集中型ポートフォリオについて説明されています。このファンドの特徴は成長株への厳選投資なので、集中型ポートフォリオが、なぜいいのかという説明がこのレポートには書かれています。

株式ポートフォリオというのは、幅広い銘柄に投資をすればするほど、下げ相場のときに、ポートフォリオが株式市場全体につられて下がってしまう可能性が高まります。確かに、多くの銘柄を保有することで、銘柄によって異なる株価下落率を市場平均並み下落率に平準化させることには役立ちますが、下落リスクそのものを払拭することはできません。一方、一握りの銘柄への集中投資で成功すれば、市場全体の下げに反して、自分のポートフォリオだけは上昇するということが起こりうるのです。

スパークス・新・国際優良日本株ファンド 2017年12月の月次レポートより

renny:成功すればという前提付きなんですけれども。吉田さんも基本的に集中投資型だと思いますが、今ここで指摘されているような分散によって、下げ相場のときに打たれ強いというか、さほど下がらないという実感はありますか?

吉田:場合によりけりって感じですかね。下がったら買いますぐらいの感覚でしかないしなぁ。自分の感覚だとどちらかというと下がるときは同じように下がって、元に戻るときに差がつくかなっていうイメージです。

renny: 下がったときは同じように下がるけど、ちゃんとした見立てで投資先を選ばれていれば、戻ると時の戻り方が早いとか、勢いがいいというか、そういうような感じをイメージですか?

吉田: 特にこの数年そういう傾向がある感じがしてます。もしかしたらインデックス運用が増えすぎて、なんていうか株価が一方向に動きやすくなってるのかなと。

renny: なるほどね。あとレポートでは集中型ポートフォリオに関してのリスクということで、企業不祥事などの突発的なスキャンダルや、経営トップの不慮の事故があると、リスクが大きく出るんじゃないかとして指摘されています。このあたりのリスクは吉田さんもお感じになってたりしますか。

吉田: そうですね。後継者については特に気になりますよね。

renny: 以前、株主総会でこの人が後継者だなとか、何となく雰囲気が出てたりするという話もされてましたよね。

吉田:そうですね。質疑応答での対応で、もしかしたらこの人なのかなみたいな。

renny:なるほどね。このファンドで気を付けていることとしては、少々の不祥事では経営危機に陥らないくらいの財務基盤を持っているかを見てますと、あともう一つは経営時の振る舞いとかに不審な点はないかとか、あるいはさっきの後継者の話ですね、というようなところを投資判断に組み込んでますと。こういうことを説明してくれることで、安心感に繋がってるのかなという気はするんですよね。ポートフォリオ理論上、銘柄の内容が高度に分散されていればというか、この高度に分散されてるっていうのはセクターとかのことだと思いますが、そういうことができていれば、10銘柄程度の組入れでも分散効果は十分発揮される、と書かれています。吉田さんも10社もあれば、分散効果っていうのは得られると思いますか?

吉田: どうなんだろう。このファンドが当時投資していた会社で言うと、ソフトバンクと日本電産は両方とも個性の強い人がトップにいて、この人がいなくなったらどうするんだ?と企業に結構な割合で投資しているので、個人的には怖いなっていうふうに思いますね。

renny: なるほどね。ただそのあたりはしっかり見た上で判断してます、ということだと思うんですけどね。次のレポートに行ってみましょうか?

2019年8月のレポートを読む

吉田: ちょうど今のレポートとの繋がりで2019年8月のレポート。企業の不祥事が起きたときの投資家としての基本的な考え方という話が書いてあります。

renny:このファンドの投資先のリクルートで不祥事が起きた時ですね。

吉田: 学生の就職活動で、この人は何%ぐらいの確率で内定辞退をするよ、みたいな情報をリクルートが持っていて、それを会社に渡してたっていう事件ですね。(私も2020年3月からリクルートへ投資をはじめますが、その関心を持つきっけかになった事件でした。リクルートは長年にわたり日本人の人生の節目節目に関与していて、こんな計算をできるレベルにあるのか、もしかするとGAFAに対抗できるレベルのなのではと。)

renny:この説明について、吉田さんはどの辺が印象に残ったんでしょうか?

吉田:投資って新しく企業を選ぶときよりも、手放すときの判断が難しいなっていうのがあって。不祥事が起きた時の判断について方針を出してるっていうところが面白いかなと。

1)問題そのものが、顧客の深刻な金銭被害、精神被害、健康被害や死亡事故につながるものなのか、それとも一時的な軽い被害なのか
2)不祥事判明後の会社側の対応スピードと態度
3)不祥事を起こした会社自体がもともと持っている収益性

スパークス・新・国際優良日本株ファンド 2019年8月の月次レポートより

renny: この3点に照らし合わせて、当時の事件について解説されていますね。ただ、これは2019年で今から4年前ですよね。もし今同じことが起こると、またちょっと違うのかもしれないなとかっていう感じもしますよね。ちょっと言い方悪いですけど、年々こういうことに対してのダメージが大きくなってるような気がしますんでね。

吉田: 一方でデータの取扱いで、こういうことが起こりうるよねって認識されるようになってきているような気もします。

renny: たしかに人材獲得、人材採用は、人手不足になってきていて、コストをかけて採用活動をやられてる中で、そういう潜在的なニーズはおそらくあったでしょうから、こういうサービスを作っちゃったんだろうなと。あとそういえば吉田さんは以前、不祥事で手放した企業として島津製作所の話をされていましたよね。

吉田: 島津製作所は医療機器に一定期間で壊れるタイマーをくっつけて、メンデナンスで稼いでいたというすごい話だったんで即売却しました。このファンドのレポートと同じで命に関わる部分での不祥事だったので。

renny: 他に何かありますか。

吉田: そういえば今も持ってる会社でレストランのひらまつです。創業者が会社のお金をめっちゃ使い込んでたという不祥事です。

renny: でも今も見守られてるんですね。

吉田: 創業者の平松さんとは裁判の末に縁を切った形にはなってるので。その後もずいぶん経営には苦労しているようですけれども。株主優待で投資元本以上に割引還元を受けたというのもあり、そのままにしています。

renny: こういう不祥事があったときに、ファンドがどういうふうな姿勢なのかとか、具体的な事例が起きたときに保有を継続するのか売却するのかを、タイムリーに示してくれるっていうのは非常にありがたいですね。

吉田: 欲を言うと、このレポートの文中で、このファンドの投資先で2013年にも花王で不祥事があった、と書かれていたので、その当時のレポートも読んでみたかったなと。

renny:そういうのってありますよね。花王は2022~2023年の間に売却されていた企業のひとつですが、ずっと保有されてたんでしょうから当時の話を参照できるとよかったですよね。

(後編に続く)

https://note.com/pixy10/n/n02c268d532e3

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