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2020年3月末基準の月次レポートを振り返る 前編 #月次レポート研究所のポッドキャスト テキスト版

このポッドキャストのテキスト版です。


月次レポートを理解するために、何を学べばいい?

renny:月次レポート研究所のポッドキャスト2023年5月です。今回はまず吉田さんがお知り合いの方からご質問をいただいたっていうお話からはじめましょうか。

吉田:投資信託でアクティブファンドに投資するなら、月次レポートを読みなさいという話をしたんです。そしたらそのレポートがちゃんと理解できるようになるには、どんな勉強したらいいですか?と聞かれて。私が答えたのは2点で、たくさん読んで慣れるっていうのが大事というのが一つ(たとえば哲学書も最初の頃は意味不明だったけど、数読むうちに慣れてきたので)。もう一つが、その方が上場企業にお勤めだったので、とりあえず自分の会社のIR情報、決算説明会の資料とかを読んでみたらどうかと。こんなお話をしたんですが、rennyさんだったら、どう答えますか?

renny:自分の勤務先のIR資料を見たらどうですかとか?とのことですが、ご質問された方はご覧になったことありそうでした?

吉田:いや、見たことなかったみたいです。

renny:実はお恥ずかしい話なんですけど、僕も今の会社に勤め始めて、もうすぐ30年にもなりそうなぐらい長く勤めているわけですけど、自分の会社のIR資料をちゃんと眺めてみるようになったのは、たぶんこの数年の話でして。それを見て、うちの会社ってこうだったんだ、みたいなことを改めて知るというか、会社全体を見てるような部署にいてるわけじゃないんで、初めてそれに触れてみたとき、こうなってたんだ!と思ったんで、そういう意味で今吉田さんがおっしゃったようなやり方は一つあるのかなと思いますね。僕個人的には、たとえば四季報を見ること自体はもちろんすごく意味があるし、価値があると思うんですけれども、ただ、人が拾ってきて、うまくまとめてくれた数字を見ているだけで、自分の手を動かしてないじゃないですか。僕は自分でExcelに打ち込んで、たとえば売上高とか、総資産、利益の過去を振り返ってみると、最初は意味があるとは全然思えなくても、アクティブファンドの投資先のIR資料を見て自分でExcelに数字を打ち込んで、どこが変わったのかを見ていくのがいいのかなと思ったりしますね。

吉田:それは結構、手が込んでいますね。

renny:手が込んでますけど、売上と利益だけでも見ていると、業種とか状態にもよりますが、どの事業の売上が去年に比べて増えて、利益への貢献があったのか、と見ていくと、何となくその会社の事業の一端をですね数字を元にイメージするというか、1年ぐらい期間が経った後に見返してみると、一度手を動かしたことは覚えてたりするんじゃないかなと。そこまでやるのは大変なのかもしれないですが、やっぱり個々の会社の株価ではなく、業績を見るようにするのがいいのかなと思うんですよね。吉田さんからたくさん読めば、という話がありましたが、たくさん読むって言ってもどこを注目するかが大事で、数をたくさん読めばいいってものでもないですよね。

吉田:たしかにそうですね。ちゃんとした内容の月次レポートがたくさんあればいいですけど、まずそれを探すところからと考えると難しいですね。しかも過去の分が揃っている投信も数が限られてるから。。。

renny:でも数を読むのは大事で、たくさん読んで並べてみれば、ここのファンドはこういうことを発信してるのか、という傾向が見えてくると思うんで、数を読むことによってファンドの特徴っていうのが見えてくるんじゃないかな。縦方向に過去のものを読んで、横方向は別のファンドとの比較するようなイメージで。

直近の日本株上昇について

renny:ここから少し話を変えさせていただきますが、ここ最近特に日本の株式市場が非常に活況というか株価指数が上昇していますが、吉田さんはどうご覧になってますか?

吉田:なんかよくわかんないですね。最初はバフェットが日本に来たらから、その次は地政学リスクで投資資金が中国や台湾から日本に流れて来たと、世間ではそんなことが言われてますが、実際のとこはよくわからない。

renny:投資行動を変えられるようなこととかってありました?

吉田:いや、何も投資してないですね。株価が上がっていくのを、ただ見ていただけという感じです。

renny:たとえば少し上がりすぎなんじゃないの?というふうにはご覧になってないっていう感じですか?

吉田:元々日本株が見放されてたようなところもあるので、多少お金が入ってくるっていうこともあるかなって。

renny:なるほどね、今は株式市場が活況ですが、直近で株価が急落した頃を振り返ると、ちょうど今から3年前ぐらいですかね。コロナウイルスの感染者が急拡大して、緊急事態宣言というようなことになっていく中で、2020年 3月にものすごく株価が下落したというようなことがありました。だから2023年3月時点の過去3年間のファンドのパフォーマンスを見てると、えらく数字がいいんですよ。そこで2020年3月末時点のアクティブファンドの月次レポートで、どんなことを報告されていたのか振り返ってみようと思います。

農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 2020年3月の月次レポート

renny:まずは「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」。実は先ほど確認したら月次レポートが確認できなくなっていました。事前にダウンロードしたものを、吉田さんにはお渡ししていましたが、このレポートをご覧になって、感じられたことや、当時こんなことを言ってたんだな、とかっていうような点とかってありますか。

吉田:2019年に株価が急上昇してたから、コロナウイルスの件がなかったとしてもどこかで調整したんじゃないかっていう話が書いてあったんですよ。たしかに当時そういう雰囲気はあって、アメリカと中国の貿易戦争みたいなところから下落するかなと思っていたら、全然違うところから衝撃がやってきたっていうような形で。

renny:あとレポートで書かれてたのは、株価全体が下がる中、ファンドの投資先の中には全体が下がるほどには下がらなかった、ここでは下方耐性と表現されていました。もちろん全体が上がるときは一緒に上がってほしいですけど、全体が下げるときに下がらない方ことは大事なことなんじゃないか、とこのレポートでは説明されています。このあたりはどう評価されますか?

吉田:当時はアメリカのニューヨーク市場で3月9日にまず大暴落して、サーキットブレイカー、日本でいうところのストップ安かな、市場全体がストップ安で15分間取引停止みたいなことが4回あったんです。3月9日、12日、16日、18日。ここまでどんな企業でも、とにかく株価が下がった。でもそこから3月末にかけて、業績がしっかりしてるような会社は、株価がほぼ元に戻っていくような流れでした。特にIT系はデジタル化が加速するみたいな話が一気に出てきて3月末にほとんど元通り。だから時代に即した事業で、業績がしっかりしてたところは、もう3月末の時点で下落が終わっていたような印象でした。

renny:このレポートで大事なこととして、三つほど挙げられてて、

1. 付加価値の源泉や競争優位について、自分が理解できる企業に特定すること――「何を買うのか」に集中する。
2. 高すぎるValuationの企業は避けること――下方耐性は下落を精神的にやり過ごすために必要
3. 妙な相場観を持たないこと――相場を予想できるなら企業を選ぶ必要なんてない

renny:これらを踏まえて投資家のスタンスとしては、株価よりも事業がその環境の変化に影響を受けてるかどうかを確認すべきだ、っていうようなことを書かれています。当時、吉田さんはどういう行動をとられたんですか。

吉田:最初にサーキットブレーカーが発動したときから全力で投資しました。3月になるとアメリカが夏時間に入るので、日本時間の夜10時半にニューヨーク市場が開くんです。寝る前にテレ東のワールドビジネスサテライトを見る習慣があって、番組中に速報ニュースで騒ぎ出すから、そのたびに証券会社にログインして、米国株を買いまくるということをしてました。

renny:そうですよね。僕もあのとき結構買いました。ただ当時の見通しとして、このレポートにも書いてあったんですが、コロナは重症化しにくいのが一つ特徴だから、そのせいで封じ込めるっていうことが非常に難しい、とおおぶねのレポートには書かれていました。このレポートがここまでの長期化を想定していたかは分かりませんが、結果的に3年近くこういうふうな状況が続きましたね。また、もう一つ書いてあったのは、もしかしたら倒産が増えるんじゃないか予測も書かれてましたが、そこは外れましたね。外れたと言ったらおかしいですけど、そこまで倒産は起きなかったですよね。

吉田:飲食店が潰れたくらいでしたね。

renny:そうですね。たしかに人が動かないことで観光産業、航空業界や鉄道は大変だったと思いますが、でもその後どういうわけか今まで駄目だった海運業界が盛り上がったり。そういう意味ではおおぶねのレポートで書かれていたように、相場感なんていうのは持っても仕方ないのかなと思いますよね。残念ながらこのおおぶねのレポートは見れなくなりましたが、こういうふうに振り返ることができると、結構重要な歴史の資料になるんじゃないかなと思います。

吉田:リーマンショックの頃のものとか見てみたいですよね。

renny:そうですよね。そのとき何を投資はもちろん、当時その想定されていたシナリオや見立てっていうのは、生々しさというか、ライブ感があるので、後で見返したときに、当時はこうだったと分かるのはすごくいいことだと僕は思うんですけどね。

吉田:私もリーマンショックの頃にブログにどんなことを書いたっけ?と振り返りましたよ。

renny:僕もリーマンショックのとき、毎月の積立額とか増やしたんですよね。それを記事に書いたらコメント欄に、そんな自暴自棄にならないでくださいみたいな、書き込みをいただいたことがありました。いやいや僕は冷静です、というふうに返事をしたりしました。ただあのとき一番の底値を拾えたかって言ったら拾えてなかったんですよね。2009年の1月2月にはもう球切れでしたので。仮に2020年3月のタイミングで追加投資ができる原資があったら、投資額を増やすタイミングであったのは、間違いないんだろうなというふうに思いますけどね。

スパークス・新・国際優良日本株ファンド 2020年3月の月次レポート

renny:おおぶねのレポートは見れなくなっちゃいましたが、古いレポートを閲覧可能なままにしてくれているファンドがいくつかありまして、次はスパークス・アセット・マネジメントさんの「スパークス・新・国際優良日本株ファンド(厳選投資)」。こちらの2020年3月の月次レポートには、ファンドの運用状況として、コロナのことが書かれています。

「当月も世界的な新型コロナウイルス感染症の拡がりが明らかになるにつれ、株式市場でも動揺が続きました。今回の問題がここまで発展するとは予想できず、当ファンドの投資先については目先の業績が想定を超えて悪化するのは不可避だと、私どもは考えています。」

スパークス・新・国際優良日本株ファンド 2020年3月レポート

renny:当時の不透明感っていうのはすごくよく出ていますね。そのページの後半ぐらいに大切なこととして、

「いずれやって来る経済回復期までに投資先企業が倒産しないこと」

スパークス・新・国際優良日本株ファンド 2020年3月レポート

renny:スパークスさんもおおぶねのケースと同じで、企業倒産が増えるんじゃないかというぐらい深刻な危機だという見立てをされてたというのがわかりますよね。そういうことを踏まえて、このファンドでは有利子負債が少ない強固なバランスシートの会社であることを投資基準に挙げてますと説明されています。これをご覧になって、吉田さんはどんなふうにお感じになりましたか?

吉田:運用会社は大変だなと。個人だとリーマンショックの時よりも割と気が楽だったんですよ。自分が死んじゃったらお金をお墓に持っていけないから。

renny:死んじゃったらというのは、コロナにかかっちゃって重症化しちゃったらっていう意味ですか?

吉田:はい。それぐらい深刻に考えると、投資判断は楽だったところがあるんですよね。感染症は何年かすればなくなって元に戻るだろうけど、そのとき死んじゃってたらどうにもならないし。それならここで思いっきり投資しちゃえ!ぐらいの感覚でした。

renny:このファンドはソフトバンクグループにそこそこ投資していて、強固なバランスシートかどうかには疑問符が付くこともあり、楽観視できないという説明されてますよね。当時のソフトバンクグループはこのファンドの七つの投資基準の一つである、有利子負債が少なく強固なバランスシートの部分に目をつぶっても魅力的だった、ということだと思いますが。バランスシートの強さというのは借金が少ないとも言い換えられますが、吉田さんはどんなふうに見てらっしゃいますか?

吉田:ROEを上げるために、無理に株主資本比率を下げちゃうみたいな変な例もあったりするので、おかしくなってないか確認する程度で、無借金を求めるところまではしていませんね。

renny:吉田さんの場合は死んでしまったら仕方がないから、どんどん投資しようとかっていうふうに思われてたんで、安全性よりもこれ安い!という気持ちが勝っていた感じですかね。

吉田:でも投資した企業を振り返るとそんな危ない企業はないですね。

renny:財務体質良さそうな企業が、全体につられて下がってたんで、拾いに行ったという感じですかね。

吉田:そうですね。このレポートに出てくるリクルートやテルモに、当時私も投資しましたし。

renny:なるほど、レポートでもまず問題なしって書いてありますもんね。吉田さんも同じ考えだったということですね。

吉田:はい。

renny:なるほど。こういうふうに振り返ることができるということで、過去の月次レポートが残っているのは本当に参考になりますし、冒頭のご質問にもこういうのを見ることで、なるほど!とかっていうことがあるんじゃないかなと。だから毎月毎月レポートを見ていると、直感とかが磨かれるんじゃないかなと思うんですよね。

後編に続く

おまけ:2020年3月頃の出来事

  • 2月19日 アメリカ・S&P500 終値ベースで過去最高値

  • 3月9日 ニューヨーク市場でサーキットブレイカー発動①

  • 3月10日 イタリア・全土で移動制限を決定

  • 3月11日 WHOがCOVID-19のパンデミック宣言

  • 3月12日 アメリカ・ニューヨーク市場でサーキットブレイカー発動 ②

  • 3月13日 アメリカ・国家非常事態宣言

  • 3月16日 アメリカ・ニューヨーク市場でサーキットブレイカー発動 ③

  • 3月17日 フランス・全土で外出制限

  • 3月18日 アメリカ・ニューヨーク市場でサーキットブレイカー発動 ④

  • 3月26日 日本・初めて1日の感染者が100名を超える

  • 3月29日 志村けんさんCOVID-19で死去

  • 4月7日 日本・緊急事態宣言(~5月25日)



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