第13回 森は生きている


どこかで森ガールをみかけませんでしたか。
ゆるふわをまとった、ゆめかわいいおんなのこを。

10年程前になるだろうか、ファッション誌で「森ガール」というキーワードが流行ったことがあった。
綿や麻といった自然素材でアースカラー、シルエットはあくまでもゆるい服(ワンピースが多い)を何枚か重ね着をしているファッションで、フォークロアとも異なるなんとも曖昧なカテゴリである。
元々はmixiのコミュニティから始まったとされる「森ガール」は、雑誌に紹介されると共に瞬く間に人口に膾炙して人気を博していったのだが、当時から私はこのネーミングには多大な違和感を感じていた。なぜ森なんだ、林じゃだめだったのか。「森にいそうなおんなのこ」って、こんな格好で森に分け入ったら遭難するぞ。まあイメージなのだからそんなに角を立ててもしょうがないのだが、それにしてもなぜ森。カントリーファッションにも隣接しているカテゴリみたいだから、草原でもいいではないか。『大草原の小さな家』のビジュアルとも近いようだし。
生成り、紅茶染め、綿や麻といった、どことなく自然に近いような気にさせる素材は、はっきりした原色とは相容れない。同時期に流行った「ゆるふわ」「ゆめかわいい」といった言葉と同様、森ガールはその曖昧さゆえに愛されたのだと思う。

だが森ガールの寿命は短かった。ファッションのカテゴリとして確立することもないまま、数年で下火になってしまう。ゆるさがだささへ、レトロ感が古くささに変質し、もっとわかりやすい誰が見ても評価が統一されるファッションに流行は流れていった。エレガンスかストリートか、フェミニンかカジュアルか。森へ行っている余裕なんか、みんななくなってしまったのだ。
そういえば森ガールは、ゴスロリと並んで「男ウケしない」ファッションとしても有名だった。森ガールもゴスロリも、方向性は違うがフリルやレースを多用するところが似ている。そうか、世の男たちはフリルやレースが嫌いなのか。
オーガニック好きがヴィーガンに目覚めるように、森ガールはロハスになった。ストイックでシンプルな方向へ向かい、それと同時にいつの間にか森には誰もいなくなってしまった。

本当はもっとその曖昧さを大事にしてもよかったのではないか。
ファッションなんて曖昧なものだ。誰かに貼られたレッテルに縛られず、森でも林でも、それこそ荒野にだって好きな格好をして行けばいい。
私たちはどこにだって行けるのだから。


登場したファッション:「森ガール」
→ファッションのカテゴリには通常、それを代表するブランドというのがあるものだが、森ガールにはそれがない。それが衰退の原因のひとつかも。
今回のBGM:「ねこの森には帰れない」by 谷山浩子
→もうこれしかないでしょう。だからもう森へなんか行かない、なんて言わずに何処かにあるねこの森を探しに行こう。

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