第8回 幼女ではなく


現在に連なるアニメーションの系譜で一大ジャンルとなっているのが、魔法少女ものである。
その端緒となる「東映魔女っ子シリーズは」、第1作目が『魔法使いサリー』、第2作目は『ひみつのアッコちゃん』であった。いずれも放映開始から半世紀が経過していても、未だタイトルを言えばわかる人も多いメルクマールとなる作品だ。どちらも漫画を原作としたものであり、『魔法使いサリー』の作者は横山光輝で「ひみつのアッコちゃん』は赤塚不二夫と、当代の人気作家の作品を基にしている。
これら二つの作品に登場する主人公の設定は実はかなり異なっている。それはサリーが魔法の国の王女で生れながらに魔法が使えるのに対し、アッコは偶然手に入れた鏡の力で魔法が使える(ちなみに年齢は両者とも小学校5年生というから10歳か)ということ以外に、もうひとつある。サリーの足は太いが、アッコの足は細いのだ。
いや、太いという言い方は少々当を得ないだろう。ここで便宜上「太い」と言っているのは、鉄腕アトムの妹・ウランの足を想像していただければわかるように、上から下まで均等の太さで表現されている特殊な足のことなのである。手塚治虫の『ふしぎなメルモ』も一種の魔法少女ものと言ってもいいかもしれないが、こちらも足は同じ太さの筒状だ。大人の女性に変身したメルモの足は実際の人間と同じ普通の形状をした足であるのに対し、子供であることを殊更に強調するように、通常のメルモの足は太い。
ロリコンといえば必ず話題に出る吾妻ひでおの漫画にも所謂少女が登場するが、日本で言うところのロリコンが厳密にいえば「少女」ではなく「幼女」を対象としているように、吾妻の描く女の子はその年齢を問わず必ず足が太い。だから彼が描いているのは少女ではなく幼女と言ってもいいだろう。
確かに実際の子供の足は、ぷっくりとしていて関節の場所も目立たないため曖昧で、だいたい同じ太さに見える。幼女の足は太いのだ。

時を経て1980年代からは魔法少女ブームがやってくる。その嚆矢となる『魔法のプリンセス ミンキーモモ』ではモモの足はまだ太いままだが、翌年の『魔法の天使クリーミィマミ』になると、変身前の子供のマミの足は太いが、変身後の少女の姿ではほっそりと長くなっている。年齢設定はモモが12でマミが10歳なので反対のようだが、この辺りの年齢は丁度幼女から少女に移行する時期なので、どちらの足で描くかは制作側の意図によるものと考える。
セーラームーンを経てプリキュアに至っては、もはや年齢設定自体が14歳(中二!)であることもあり、全て主人公の足は細くしなやかだ。彼女たちは、子供ではなく大人でもない「戦う少女」であり、幼女のように庇護されるべき弱い存在ではない。だからその足はいつでも走り出せるようにしなやかに描かれなければならないのだ。

少女の足は、現実に太かろうが細かろうが決して均一な太さではない。
それは少女の精神のように柔軟で引き締まっていなければならない。
少女を少女たらしめるものを守るために、少女を消費しようとする全てのものと戦うために、少女は走り続けなければならない。
速く、できるだけ遠くまで、しなやかなその足で。


登場し(なかっ)たアニメ:「魔女っ子メグちゃん」
→こちらも14歳ながらすんなりのびた足が印象的。ライバル的存在を初めて出したことでも有名らしいが、その青い髪のクールビューティ・ノンが格好良いのだ。
今回のBGM:「born4」 by Jakalope
→角の生えた兎・ジャカロープの名を冠したこのバンドの2枚目のアルバム。3曲目の「Upside down」の、間奏で日本語でシャウトされる「イチ、ニ、サン、シ!」がアガる。

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