第16回 ルージュの伝言


実はかなりの化粧品マニアである。
以前は化粧品フリークと言っていいほどであったが、昨今は少し大人しくなっている。使ったことがないブランドはなかったし、限定品は片端から集めていたといっても過言ではない。いまでも新しいブランドや新製品には食指が動くが、以前ほどやみくもに集めることはなくなった。
ひとつにはアレルギーが出やすくなってしまったということもあるが、自分に合うものを熟知してきたというのも理由のひとつだろう。
今でも限定品には惹かれるが、限定というだけあって使えるシーンも限定されるものが多いということを理解してきたので、安易に飛びつかなくなったせいもある。

アイシャドウやネイルエナメルは冒険してみても楽しいが、リップスティックで冒険をすることはあまりないのではないか。
ここで冒険をしてしまうと、とんでもないことになるのは周知の通りだ。一番目立つ部位であり、また一番顔の印象を決めるところでもあるため、選択を間違えると口唇だけ取って付けたようになるのは、誰しも経験済みのことだと思う。
歴史上(と大上段に振りかぶってみる)何度か、赤リップのブームというのがあった。「今は赤リップがマスト!」と赤でなければ人間じゃないかのように宣伝され、そそのかされて一度は真っ赤な口紅に挑戦してみた人は多いだろう。ひとくちに赤といっても、それこそ明度彩度質感異なる赤があるため、本当はその人それぞれに似合う赤というのがあるのだが、そこまで行き着かないうちに挫折したという経験も多いと思う。赤い口紅は似合わない!と早々に断念して、ピンクベージュなどの無難な線に落ち着くというのはよくあることだ。
昨今ではリップライナーはあまり流行らない。しっかり輪郭をとって口紅を塗る、ということをするのは、最近では余程のフォーマルでなければなかなかやらないと思う。それよりもグラデーションリップとか言って、ぽんぽんと口唇の真ん中に指で色を置いてそのまま周囲にぼかすという技の方が、特に若い人には人気がある。しかし真っ赤な口紅の場合これをやるとバカ殿みたいになる恐れがあるので、慎重を要する技である。
ことほど左様に、赤い口紅というのは御し難い。
ちなみに私は、ADDICTIONというブランドの「Tokyo Mon amour」という洒落たネーミングの赤い口紅を愛用している。少しダークな赤はブレードランナー的な洗練と退廃を感じさせ、いかにも東京という都市のイメージだ。

赤は意志の色である。
少女というとどうしてもピンク系の口紅が思い浮かぶことが多いと思うが、私はここで赤を推す。
砂糖菓子のように甘い桜色でも優雅でたおやかなローズ系でもない、強くきっぱりとした赤い口紅。
赤い口紅を塗った口唇は、私はここにいると自己主張している。誰にも搾取されるものかと身構えている。
御し難く手強い存在ということで、少女の武装に相応しい。


登場したブランド:「ADDICTION」
→中毒、という名前のこのブランド、なかなかに攻めた色を提案してくる。ネイルにも定評があるが、「Moonwalk」というグレーは塗ると仄かにモーヴめいてとても優美な指先になるので、お勧め。
今回のBGM:「SUNRISE JOURNEY」by GLIMPSE SPANKY
→珠玉のロックバラード「大人になったら」に込められた反抗心は、真っ赤な口紅で書き殴ったメッセージと受け取った。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

14
精神科医/元法医学教室助手/少女批評家/Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。