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2021年・私的GOTY第3位 『ナビつき!つくってわかるはじめてゲームプログラミング』

「ゲーム作りは面白いゲームに成り得るか?」

そんな困難な命題に対して、任天堂が35年ぶり(ファミリーベーシック以来)にゲンブツを以て答え、それが「ばっちり面白い!」という意味でも、プログラミングやゲーム作りの敷居を、Nintendo Switchというファミリーコンピューター以来に普く普及した比類なきゲームハードで一気に下げたという意味でも、巨大な意義があったと思える本作を、2021年の私的GOTY第3位に置く。

しかし本作発表時、個人的な興味/関心は皆無であった。元々、自分は所謂「ツクール系」やクリエイト/エディット系のゲームには手が伸びないタチである。作る暇があったらプレイしていたいし、その面白さを言語化する方がずっと愉悦を感じるし、性に合っている。

しかし2021年初夏、本作の発売日から数日、本作でさっそくゲーム作ってアップしてる人たちのツイートを見て慄いた。その声のトーンは、昨今あまり見られないようなゲームへの原初の喜び、「新しい面白さ」に触れている渦中に居る者たち特有の「あの高揚感」にみちていたのだった。

う、面白そう……! あ、俺もなんか作ってみたい……! や、べつに作れなくたっていい。誰かがこしらえた、未完成だったりくだらなかったりするゲームを浴びるようにプレイしたい……!

そうして気づいた時には、本作を購入していた。

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「ゲーム」とは、

誰かのプレイ動画を見たり、解説や批評をいくら読んだところで、結局のところは「やらねばわからぬ」娯楽/芸術であろう。
そして「ゲーム作り」も、作ってみるまではろくすっぽわからない。わかりっこない。本作をプレイして、実際に作ってみて、それを痛感した。

ゲーム作りはこれほど面白く、これほど面倒なものなのか。苦労してこしらえたゲームを見知らぬ誰かが遊んで(うまくいけば感想まで)もらえるというのはこれほど嬉しいものなのか、と。
その意味で、本作は『つくって「はじめてわかる」ゲームプログラミング』というタイトルが相応しかったようにも思う。冗談抜きで。

ただ、自分は本作をクリエイト・エディット系ゲームというより、「パズルゲーム」の一種として捉えているふしもある。
キュートなノードンたちの役割(その1体1体に個性的でキュートなデザインと語り口が用意されていることは驚くべきことだ)をやんわり理解し、彼ら/彼女らをああでもない、こうでもないとジョインしていくことで、漠然と思い浮かんでいたゲームを形にすることができる。無理に物語を作る必要もなければ、背景を描く必要もない(もちろん描くこともできる)。

しかし、見知らぬ誰かにプレイしてもらえるくらいまともなゲームを作るためには、思っていた以上に時間と手間がかかる。とくに自分のような不慣れなゲーマーにとっては……。
それでも自分のような者がストレスレスに(全くないとは言えないが)作り続けることができたのは、本作が隅々までいかにも任天堂らしく、直感的で、清潔で、生理的な心地よさに担保されているからだ。
『はじプロ』は『Nintendo Labo』『マリオメーカー』シリーズで着々と培われてきたノウハウと継続の成果と言えるだろう。

ナビゲーションと「教育」

『はじプロ』は暴力的と言えるほどの資産とセンスで、作り手/遊び手の精神を中和してくれる。その是正力、圧倒的な陽のエネルギーは、Appleがリリースした『Playgrounds』、その他リリースされた数多の玉石混交ビジュアルスクリプト系と比べて、はっきりと抜きんでた「ナビゲーション/教示力」があるように思う。

その「ナビゲーション力」とやらを細分化すると、優れたUI/UE、耳馴染むBGM、ナビ役「ボブ君」「アリス嬢」のキュートな語り口など——つまりは「任天堂らしいとっつきやすさ」という言葉に収まってしまうのだけど——それだけでは足りない、何か命名し難いエレメンツがあると感じる。
フラットでユニーク、ポップでキッチュ、イマジナリーでフレンドリー……いやいや、横文字を並べたところでこの感じを言い当てることはできないようだ(今後の宿題としておきたい)。

とにかく、自分は本作に任天堂だけが成し得る、末恐ろしいほどの「教示力」をひしひし感じたのだった。今後、任天堂がもしこの力をフルに使って「教育」の分野に舵を取ったら、前人未到のイノベーションが起こせるのではないか? と夢想させるような……。

リメンバー・ザ・はじプロ・ゲームズ…

結局、自分は本作で誰かが喜んでくれるような面白いゲームを作ることはできなかったけど(ノベルアドベンチャーゲーム、みたいのを作ろうとしたのが間違っていたのかも…!?)、センス・オブ・ユーモアと豊かなアイデアに溢れるゲームたちを、夢の世界がしばらく『はじプロ風』になるほどたっぷり遊ばせてもらった。
その中から、ほんの僅かな数のゲームたちを紹介させて頂く。

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「この先に彼女が」
筆者の作りかけ横スクロールノベルゲームです。いつか完成したら(笑)アップします

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「エースのとっくん」
かの『リズム天国』を彷彿とさせるリズムアクション。BGMも最&高

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「フリーキック」
クマちゃん、良いわー。何故か名作サッカーゲーム『リベログランデ』を思い出した

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「探索×パズル PUZZMETRO」
Twitter/ゲーム界隈で知られたニカイドウレンジ氏の大作。タイトル通り、パズル×メトロイド的超良質探索ゲー

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「シューティング」
……アレです。ちょっとアダルトなシューティング。イラストも素晴らしい

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「Pacman Multiplayer」
モンスター動かないのはアレですが……驚愕ものの完成度/パックリスペクト

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「人魚の宝探し」
人気ゲーム系YouTuber「たくらぼ」氏の本気作。凄いのでぜひやってほしい。

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「Pokemon Pallet Town」
ぱっと見ホンモノにしか見えん…(ただしタウンを出ることは不可能)。

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(註)こうした凄いゲームを作ろうとすると、楽屋裏はこんなスパゲッティ乾麺を床にぶちまけたみたいなことになっちゃうわけで……(無理)

最後に。

クリエイト魂にばっちり火を点けてくれた本作、たとえそこまで売れなかったとしても、この小さな灯火を絶やさないでほしいと強く願う。
そしてもっと簡単にゲームが作れるように、もっとバラエティ豊かなものを作れるように、バージョンアップした『ナビつき!つくってわかるはじめてゲームプログラミングPart2』(仮題)がリリースされますように。
(そしていちファンとして、本作に近い志を持つクリエイトゲーム、プチコンシリーズ『Dreams Universe』もいつまでも続くことを祈る。)

『はじプロ』は任天堂にとって、まだまだ「ゲームを作るゲーム」の萌芽であり、前哨戦に過ぎないのだろう。そのまったき価値が証明されるのは、本作をきっかけにゲーム作りを始めた者たちが、未来の名作を生み出す時である。
個人的には、いつか本作を土台にした本格ゲームエンジンを任天堂に作ってほしい。UNREAL ENGINEとUNITYの2強であるゲームエンジン世界がや、現世界ががらりと変わるのも夢ではないのでは!

などと、無体な妄想を膨らませてしまうほどに、『はじプロ』は最高の「ゲームを作るゲーム体験」である。ぜひ今からでもプレイしてみて頂きたい。そして、作ったゲームをぜひ筆者に遊ばせてやってください。

私的GOTY第2位に続く)

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