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octo photo book「Corrosive」に対する考察

※オクトさんのフォトブック「Corrosive」に対し、かなり独自の解釈をしています※
※まだフォトブックを見ていない方はネタバレにご注意ください※


Corrosive・・・腐食する、腐食性の/(精神的に)むしばむ、徐々に弱らせる(破壊する)






真っ白な世界で真っ白で半透明な無機物にくるまれ体を丸め横たわり目を閉じている。繭のようなそれには黒い液体が通った管がつながっている。目が覚め自力でそれを破り、たしかに彼は“生まれた”。繭の中は無菌状態で純粋で時間すら止まっているような空間だったのだろうか、生まれた瞬間から彼の左腕につながっている細い管を通して黒い液体が体に、白い世界に滲みだしていく。

この黒い液体は、見る我々はもちろん、彼も正体を知らないようだった。左腕の管を引き抜き、ぽたぽたと自分に落として無邪気に遊んでいる。一体この液体はなんなんだろうか。栄養なのか血なのか情報なのか毒なのか愛情なのか悪なのか俗世なのかはわからない。たとえばその管がへその緒のようなものなのであれば、母からの何かであるとも受け取ることができる。

不穏な黒い液体だからといって邪悪なもの由来だと決めつけることもできない。過剰な愛情というのは、しばしば毒になりうる。赤ん坊が完全に無垢な存在だと考えるならば、生きる上で環境や情報に染まっていくのだろう。一見無害に思えるそれらがどんなものなのか、自分にどんな影響があるのか、どう変わってしまうのか、ということが判断できる頃にはもうすでに自分は作り変えられている。その過程を目の当たりにしているように感じた。

液体の根源に対する先入観を捨てるべきだと頭では思っていても、止まることのないそれに不快感を覚え、だんだんと黒く染まっていく姿から伝わる何かよくない雰囲気に飲み込まれていく。得体のしれない戸惑い・拠り所のない不安が、真っ白な世界でひとり存在しているという孤独から沸き起こってきているのがわかる。


事態が急変した。その瞬間を切り取った一枚がある。左腕から伸びていた管は心臓につながっていたのだろうか、彼の核心にそれが到達してしまったことを理解した。べっとりと黒くなった胸を強く握りしめ苦悶の表情を浮かべる彼の姿にショックを受けている自分がいた。そうなることは想像していたはずなのに、もう戻ることのできない事実に衝撃を受けた。自分の真っ黒な手を見た後初めてこちらに向けられた彼の目は、すでに手遅れなことを悟らせる鋭いものとなっていた。
痛みや苦しみや恐怖に襲われながらも、あらゆる抵抗・あらゆる反発を試みる様子が身体すべてに画角いっぱいに表現されている。地べたを這い、何かを睨み、強ばる指先が空を切る。その悲痛な声なき叫びがびしびしと聞こえるとき、私の頭の中ではある曲が鳴っていた。

I am GOD’S CHILD 
この腐敗した世界に堕とされた
How do I live on such a field?
こんなもののために生まれたんじゃない

鬼束ちひろ/月光


彼はこの曲のように、この世に堕とされた何か神聖な生き物なのではないかと。それならば俗世の空気そのものが彼の体を侵しているのではないかと思った。生まれること自体が罪であり、この世界で呼吸をすること自体が罰なのだ。そう捉えてしまうほど彼が容赦なく黒く塗りつぶされていく。髪を振り乱し、憎悪に染った眼光。真っ白だった世界も黒い液体でぐしゃぐしゃになってしまった。傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲、すべての醜いこの世の大罪が黒い液体となって体に流れ込んで暴れ出す。いっそ染まり切ってしまった方が彼は生き長らえるんじゃないか、と思い始める。なぜかどんどんと完成に向かっている気すらしてくる。確実に感情が、圧力が、クライマックスに近づいていることが伝わってくる。

その緊張が極限状態に達したとき、彼はだらんと力なく腕を落とし立ち尽くした。虚空を見つめる姿を見て、ああ彼は、自分を産み落とし罰した何かから決別したんだと思った。黒く蝕まれた自分を受け入れきってしまった。最後の見開きページ。俗物を、大罪を、吸い尽くしてできあがった人外として生きていくことを認めたとき、初めてこの世で自由に体を動かすことが出来たようだった。ぐりっと浮世離れした角度でこちらを向く頭部と目。真っ黒になったこの体はきっとこの俗世によく馴染む。彼が今、"完成"したのだと心の底からゾクゾクした。彼の真骨頂がこの瞬間にあった。

"完成"した彼が不敵に微笑む。最後のページの、その切り取られた微笑みを見たとき、私は電撃的な理解に到達させられた。
これは「堕天」なのだ、と。
勘違いされやすいが本来堕天とは、自由意志を持った天使が自ら進んで神に反し天を離脱したことを言う。ならばこの微笑みは、その意志が貫徹されたことへの満足の象徴か。彼は自ら堕ちてきたのか。それならば今までの解釈が根底から覆される、と気づき涙が出た。なんという作品なのだと思った。一文字もないこのフォトブックからこのような物語を妄想し暴走してしまっている自覚はあるが、私はこの解釈にたどり着いたことが嬉しい。ここまで想像力を掻き立てられる作品に出会えたことを純粋に嬉しく思う。

もちろん、私の想像力がここまで爆発してしまったのは、アヤノさんの一貫したイメージと演出力、写真家としての才能によってオクトさんが磨いてきた世界観、表現力、身体感覚、才能が最大限に引き出され形になっていたからに違いない。フォトブックのために撮影時共有されたであろう世界観はきっと、すでにオクトさんが振付を通して表現しようとしてきたもので、それをアヤノさんが受け取り着想されたのだと思う。共通するイメージが言葉以外で通じあっていなければありえない完成度だと感じた。すべてはオクトさんが作り続けてきたからこそであるし、その才能・努力に脱帽するしかない。本当に本当に素晴らしい作品だった。

私のこの考察が完全な蛇足であることも、意図してない部分から妄想してしまっていることも重々承知しているのだが、とにかく自分がどうして素晴らしいと思ったのかを書き表しておきたかった。
この、オクトさんの初めての最高のフォトブック「Corrosive」は受注生産により現在は販売されていないが、今後行われるかもしれないオクトさん主催のイベントやアヤノさんの写真展などでご本人から直接購入できる機会があると思う。現段階では決まっていないのでお2人のSNSをぜひチェックしていてほしい。

(Twitter)
オクトさん→ @OctO_uneune
アヤノさん→ @ononoano

(TikTok)
オクトさん→ @octo_uneune

最後にこの考察をするにあたって解釈を深めてくれた曲を紹介して終わりたいと思う、長々とお付き合いありがとうございました、そしてアヤノさん、オクトさん、本当に本当にありがとうございます!!!これからもずっと応援していますし次回作をいつまでも待っています。心から愛をこめて。

鬼束ちひろ/月光

Billie Eilish/all the good girls go to hell


いろり

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