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なぜ『Pitta』なのか──人気コピーライター小藥さんと語る、リブランディングの軌跡

2023年10月末、Meetyはリブランディングを行い、サービス名は『Pitta』に変わりました。リブランディングの過程で代表の中村が出会ったのは、『なまえデザイン』という一冊の書籍。著者は、クリエイティブディレクター・コピーライターとして活躍中の小藥 元さんです。『なまえデザイン』との出会いにより、単なるサービス名の変更にとどまらないブランドづくりに取り組むことができました。

今回は、『なまえデザイン』著者である小藥さんとPitta代表中村との対談が実現。リブランディングのプロセスや、名前をデザインすることの意義について、実体験をもとに語っていきます。

小藥 元(こぐすり・げん)氏
クリエイティブディレクター/コピーライター
1983年1月1日生まれ。早稲田大学卒業後、2005年博報堂入社。2014年meet &meet設立。meet Inc.代表取締役。東京コピーライターズクラブ会員(06 年新人賞受賞)。ブランドコンセプト及びコピー開発をコアに、さまざまな企業の事業定義、CI策定、ブランディングプロジェクトをリードする。これまでのおもなブランドコピー開発に、FIBA バスケットボール・ワールドカップ2023 テレビ朝日「1 歩、1本、日本。」TOYOTA ランドクルーザー「道を越える。時を超える。」NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』「晴れ、雨、進め。」TikTok「もっと世界を好きになる。」マイケル・ジャクソン遺品展「星になっても、月を歩くだろう。」。おもなブランドネーム開発に、パルコ「PARCO_ya/パルコヤ」岡本「まるでこたつソックス」関東最大級サウナ宿泊施設「かるまる」ユーグレナ「からだにユーグレナ」がある。著書『なまえデザイン』(宣伝会議)。

サービスの本質的価値を問い続けた先に、見出した“北極星”

ーまずは、MeetyからPittaにリブランディングした背景を、中村さんからお願いします。

中村:包み隠さずお話しすると、Meetyは昨年末に企業やサービスの信頼を失いかねない事案と直面しました。事業づくりだけでなく、真剣に経営を考える機会をいただいたと思っています。その出来事がリブランディングのひとつのきっかけになったのは事実ですが、単に名前を変えて再始動しようとしたわけではありませんでした。サービスの本質的な価値を一から見直し、しっかりと意味を宿したリブランディングにしようと考えたんです。ブランディングの過程で出会ったのが、小藥さんの著書『なまえデザイン』です。

『なまえデザイン』を読む前は、『オープントーク』『フラット』といったサービス名が候補に挙がっていました。『オープントーク』は機能を端的に表していて、『フラット』はシンプルで落ち着いた響きがある。しかし、『なまえデザイン』と出会い、いずれの名前も左脳だけを使って考えていたと気付かされたんです。

ー左脳だけを使っていた。

中村:『なまえデザイン』では右脳と左脳を行き来することの重要さが語られています。当初候補に挙がっていたサービス名は、あくまで左脳だけを使って、機能的価値を表現するに終始していたわけです。

左脳は、思考や論理。右脳は、知覚や感性。「なんだか可愛い」「なんだか言いたい」といった、“好き”や“愛着”は右脳から生まれるものだと、本書を通して学びました。

小藥:左脳だけだと、コンセプトが丸見えで、分かりきったものやつまらないものができてしまいがち。感覚的ではありますが、左脳で閉じずに右脳に飛ばすことを僕は意識しています。 

中村:非常に重要な学びでした。そこで、書籍を参考に、右脳に振り切るワークをしました。さまざまな単語を喋り続ける中で、注目したのは“P”でした。破裂音のインパクトが強いというところと、“P”を大文字にしたときに可愛らしいな、と思ったんですよね。我々のカジュアルさというか、ポップな感じが醸し出せるんじゃないかと。引き続き、“P”から始まる単語を呟いていると、Pittaというワードが出てきました。僕には3人子どもがいるのですが、「MeetyとPittaというキャラクターがいたら、どっちがいい?」と質問したときに、全員が「Pitta」と答えたんですね。右脳的に、結構いいのかもしれない、と思いました。響きが耳に残って、思わず言いたくなるような。

小藥:C向けのサービスなので、愛されるとか、言いたくなるというのは、欠かせない要素ですね。

中村:たしかに、そうですね。そして、右脳から左脳に戻っていきました。「僕らは何のためにカジュアル面談を広げていくのか?」を再考したんですね。

カジュアル面談の定義は、採用フローの一貫で行われる"狭義のカジュアル面談"が一般的になっているけれど、我々は、狭義のカジュアル面談も含めた"広義のカジュアル面談"を提供しようと。エンジニアであれば技術談義かもしれないし、趣味の漫画・アニメの雑談でもいい。もはやそれは"面談"という印象ではないかもしれない。それくらい、カジュアルなものであっていい、と思ったんです。

ライトに出会えるようになれば、選択肢自体が増えていく。選択肢自体が増えていけば、必然的に、自分に“ピッタリ”な選択肢に出会いやすくなる。カジュアル面談は、お互いの価値観というものを見る上で、最適なフォーマットなのではないかと思ったんです。「カジュアル面談を"もっとカジュアル"に」というのが、元々サービスのコンセプトにあったのですが、『なまえデザイン』を読んで、思考が未来に向いていきました。

ー思考が未来に向く、とは。

中村:書籍でいうところの、「北極星を生む」。Pittaというサービスの矢印、目指すべき方向が定まった感覚でした。我々が信じてやり続けたいこと、ピラミッドの頂点にあるものを、あらためて見つけることができたんです。

カジュアルに出会うこと自体は手段で、その先の、「本当に深いマッチングを生んで人生を変えていく」というのを、僕らはこのプロダクトで生み出していきたいんだ。それが、MeetyからPittaに繋がる、変わらない僕らの価値なんだ。

そう、本気で腹落ちしましたし、Pittaにリブランディングする上での論理の補強になりました。全員で目指す矢印、つまり、僕らの北極星があれば、これから先も迷いなく進んでいけると思っています。

何よりも重要なのは、「自分たちが信じ続けられるのか」

小藥:中村さんのお話に通じる話ですが、書籍の中で、「文字をただのテキストにしてはいけない」ということを述べています。僕自身も、一番大事にしていることです。自分の本気や、愛を、言葉に込めていくということ。『なまえデザイン』で「愛デンティティー」という言葉を使っているのですが、自分たちの柱を作っていく作業、自分たちが目指すものを見つけていく作業、そして、それを愛せるか、ということが何よりも大切だと思うんですよ。

「今っぽいから」とか、「ウケそうだから」という理由でつけられた言葉は、どこか宙に浮いてしまったりすると僕は思うんです。10年持つとは思えない。それは自分と繋がっている言葉ではないからです。何がもっともプライオリティが高いかと言われたら、「自分たちが信じられるか」。これが全てだと思うんです。

中村:そんな気持ちで今、リブランディングに取り組んでいます。信じていくぞ、と。

書籍を読んでいなければ、僕の中で納得感を持てずに、「リブランディングやらないほうがいいのかな」とか、「Meetyというサービス名をみんなよく知ってくれているし……」と、良くも悪くもさまざまな思考を巡らせて、ブレてしまっていたかもしれない、と思いますね。

ーリブランディングに多大なる影響を与えた『なまえデザイン』。出版の経緯を教えていただけますか。

小藥:簡単に僕のプロフィールからお話しすると、新卒で博報堂という広告代理店に入社し、10年目に独立しました。その後は、クリエイティブディレクター・コピーライターとしてさまざまな企業のブランドコンセプトやリブランディングの仕事に携わってきました。必然的に経営者や企業・ブランドに近い場所での仕事が主となり、名前を考える機会も増えていったんです。

『なまえデザイン』の出版に至ったのは、宣伝会議さんからネーミングに関する執筆のご依頼をいただいたことがきっかけでした。僕はそのとき、「ヒットネーミングの作り方」のような本は絶対に書かない、と宣伝会議さんにお伝えしたんです。「Lを入れたら高価に見えますよ」とか、「ここには濁点を入れましょう」とか、そんな話は、きっとインターネット上に多数転がっている。さらに、若手コピーライター向けではなく、多くの経営者やビジネスパーソンに手に取ってもらえる、そんな本を作ると決めました。でも、自分で自分に壮大な宿題を与えたような感覚で、どうやったら読者のためになるのか、面白がってもらえるのか本当に悩んで、1年半以上格闘しました。

中村:格闘の末に、『なまえデザイン』が完成したのですね。ネーミングをテーマに書き下ろした本でありながら、ネーミングスキルのために書かれた本ではない、というのが面白いです。

ー『なまえデザイン』とは、つまり、どういったことを指すのでしょうか。

小藥:「なまえ」の先に生まれるコミュニケーションや未来をデザインするもの。ここで定義する「なまえ」とは、ビジネスや社会における「呼び名すべて」を指しています。「なまえ」は、書いて終わりではなく、はじまりなんです。どう育て、どう広げていくのか。

中村:Pittaも、名付けて終わりではない、ということですね。

小藥:そういうことですね。サービス名って、企業がつけるものじゃないですか。企業側は自分たちのサービス名だと思ってつけるのだけれど、ユーザーにとっては「自分の好きなサービスの名前」なんですよね。つまり、単なる“企業の”サービス名じゃなくて、“みんなの”サービス名になる、ということ。そう考えたときに、名前を通してユーザーと繋がれることが、非常に重要だと思っています。

中村:ユーザーさんにとっても、愛着の湧く名前になるよう育てていきたいです。

コンセプト、ドメイン、カラー。すべてが繋がることに意味がある

ー小藥さんは今回のリブランディングについて、どのような印象を受けられましたか。

小藥:会社にとって大事なものは、カルチャーだと僕は思います。他社には真似しづらいものであるし、愛着を生む源泉だからです。Meety時代も僕はカルチャーを感じていましたが、Pittaのほうがより中村さんたちの意思を感じます。リブランディングされていく過程で、しっかりとアップデートされているのではないかな、と思います。

中村:そう言っていただけて嬉しいです。

ーロゴやドメインのリブランディングについても、中村さんからお願いします。

中村:このロゴは、吹き出しなんです。人と人との会話=カジュアル面談を表現していて、吹き出しが重なって“ピッタリ”になっている。そういうストーリーを込めたロゴになっています。色についてですが、HR系のサービスは清潔感のある青やグリーンといった寒色系が多い中、あえてピンク寄りの暖色系を使っています。元々、僕らがサービスをスタートしたのはコロナが流行り始めたタイミングで、オフラインが減って人と人との距離感が離れていった時期でした。そこで、時代性を加味して、人の温かみを感じられるようなサービスを作っていきたい、と考えたんです。Pittaにリブランディングする際も、暖色系を引き継いで、この色合いを採用しています。


また、ドメインは「pitta.me」にしました。一般的なのは、「pitta.com」や「pitta.jp」なのですが、あえて、マイナーなドメインを選んだんです。海外系のサービスでは、最近ドメインで遊ぶことが流行っていて、僕らもドメインに思想を入れ込んでみました。私にピッタリ、という意味を。

小藥:面白いですね。そういうところにこそ、カルチャーが出ますよね。

中村:『なまえデザイン』と出会ったおかげで、会社のビジョンも、今回のリブランディングのプロセスを通して、明確になりました。自分たちが何者かを考えるきっかけになったんです。これまで公にはビジョンを掲げていなかったのですが、「人生の選択肢を豊かにし、自分にピッタリな未来へ」というビジョンへの落とし込みに繋がりました。

小藥:この「繋がっている」という状態が重要だと思います。自分たちがやること、やりたいこと、やるべきこと。名前やブランドカラーもそう。すべてが繋がっていることが大事。それらがちぐはぐになってしまったり、全然関係のないことになってしまうと、結局宙に浮いてしまうと思うんです。自分たちが信じるためにはやはり、繋がっていなくてはいけないんですよね。

中村:僕らとしても、「これが正解か」よりも、「これを信じてやっていく」ことを大事にしていきたいです。小藥さんの信念を伺って、あらためてその重要さを強く実感しました。小藥さん、本日は対談の機会をいただき、ありがとうございました。

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