見出し画像

遺伝子検査銘柄入門:ARK InvestのThrive共同設立者へのインタビュー $EXAS

こんにちは、ぴたごららです。
先日のExact Sciencesの記事は株クラインフルエンサーの方々にシェアいただいたこともあり、非常に多くの反響をいただきました。

↓サイエンスミニオンさん(@Adscience12000)からのありがたいお言葉。

ただ専門ニュースサイトの内容要約だったので、リキッドバイオプシーとか遺伝子検査によるがんのスクリーニングとか、前提として理解しておきたいことなどは結構端折られているんですよね。そこで今回は2020年7月にARK InvestのSimon Barnett氏が、Exactに買収されたThriveの共同設立者であるDr. Bert Vogelsteinにインタビューしているポッドキャストを書き起こししてみました。がんのスクリーニングの歴史など、基礎的な話から将来展望まで幅広くカバーされていて、入門的な話になっていると思います。

Disclaimer:
本内容はポッドキャストを書き起こし・意訳・改変したもので、内容の正確性などは保証できません。本内容、またそれに基づいた投資判断などにつき、私はいかなる責任も取れません。

A Case for Earlier Cancer Detection Strategies with Dr. Bert Vogelstein

質問1:どうすればがんによる死亡率を減らすことができるのでしょうか?
基本的には二つの方法があります。一つは予防を改善すること、もう一つは病気のコントロールあるいは治療を改善することです。心血管疾患や脳卒中で何が起こっているのか、あるいはがんではどうか、一般的な方法で対比させることができます。ほぼ半世紀にわたって、心血管疾患は一次予防と二次予防の双方に焦点が当てられてきました。まだ根絶することはできていませんし、多くの人が重篤な心血管疾患に罹患していますが、死亡率はここ60 年間で75%減と急激に下がりました。その一方、がんの死亡率低下は僅かです。
これには多くの理由があります。その理由の一つは、がん研究全般が進行がんを治すことに焦点を当ててきたことだと考えています。初期患者においては手術や放射線療法などで治しますが、転移患者は常に存在し、そのような患者のための新しい治療法開発が喫緊の課題になっています。以前、Johnson & JohnsonのGlobal Therapeutic Area Head for Oncologyを務めていたBill Hait氏が、あるシンクタンクでこう述べていました。「100年後には人々はこう言うでしょう。なぜ、早期発見に力を入れなかったのか、治る可能性が高い時期に発見することに力を入れなかったのか。」

私たちは一次予防と二次予防にもっと多くの資源、資金、時間を割くべきだと思います。

質問2:一次予防と二次予防の違いとは何でしょうか?
一次予防とは病気の発症自体を予防することです。二次予防とは、病気をコントロールできる段階で発見し、それによって死亡のような最悪の結末を防ぐことです。
最近のCOVID-19を見れば明らかだと思います。COVID-19による死亡を減らすための最善の方法は何でしょうか?一つの方法は人工呼吸器です。重症患者には、人工呼吸器を使用して「奇跡的に」救うことが重要になります。他の方法としては、一次予防としてワクチンを用いウイルス感染しないようにすること、二次予防としては、陽性ですがまだ重症ではない患者に薬剤を投与して入院を防ぐこと、が挙げられます。公衆衛生の観点から最良の方法は一次予防であり、それはがんでも同じです。つまり、タバコを吸わない、日光浴をする、運動をするなど、がんの発生率を下げる全てのことを行う、ということです。次善策はがんを早期に発見し、手術やどんな治療法でも良いですが、治療できるようにすることです。そして3つ目の方法は病気が進行するまで待ってから、正しく治療しようとすることです。これは今でも重要な手法ですが、公衆衛生の観点から見ると最悪の方法です。
COVID-19の経験から、一次予防と二次予防の重要性をより多くの人が理解していると思いますし、私が思うに一般の人も二次予防の重要性を理解し始めているところまで来ています。だからこそ、早期予防に対する学術的・産業的なサポートが多く見られるようになってきたことをとても嬉しく思っています。私はこの流れを変えようと30年間努力してきたので、これはとても心強いことです。転換期に入りましたが、まだまだ道のりは長いです。

質問3:指摘されている「進行性または転移性の患者の治療改善に焦点が当てられている」という点についてですが、相対的に見れば、これは初期の患者や低悪性腫瘍の患者のロングテールに比べて、はるかに少ない患者集団です。このような視点から、ペイヤーのネットワーク、産業界、医師コミュニティからもいくつか懸念が出てきていると思いますが、過剰治療などの問題についてはどう考えますか。

それは重要な疑問であり、早期発見のアプローチに対する重要な批判だと思います。これはバランスの問題です。過剰診断の問題もあるでしょうし、偽陽性あるいは真に陽性であったとしても過剰治療の問題はあるでしょう。100歳になっても何の症状もなく、過剰治療を受けている患者もいるでしょう。このような人たちを過剰診断と一括りにすることはできますが、今、私たちが抱えている問題は過少診断であり、過大診断とのバランスが取れていないことです。この国では毎年50万人もの人ががんで亡くなっていますが、そのほとんどが発見が遅すぎたために亡くなっています。進行がん(医学用語ではステージ4の転移性がん)も、全て初期がん(ステージ1の局所がん)から始まります。今、私たちは過少診断に苦しんでいます。過剰診断の可能性もありますが、過少診断に立ち向かうための方法が開発され試されない限り、そのバランスを取ることはできません。

質問4:なぜエビデンス蓄積に関する我々の見解をアップデートする必要があるのか、あるいは別のスクリーニング手法の必要性がそもそもあるのか、という意見もあると思います。現行のスクリーニング技術と比較して、リキッドバイオプシーあるいはCancerSeekはどのように違うのでしょうか。あるいはそこから得られたエビデンスは、実際の臨床現場に照らし合わせた上でどのように考えるべきなのでしょうか。

実例をみてみましょう。大腸内視鏡検査や大腸がんを検出する他の方法、マンモグラフィー、パップテストなどの二次予防に基づいた検査です。合理的な検査が行われているときはいつも、それが広い集団で実施されていて、罹患率や死亡率を下げることができます。例外はほとんどありません。これらの検査は完璧ではありません。パップテストも感度や特異度は完璧ではありません。マンモグラフィも完璧とは程遠いですが、臨床医は検査の使い方、患者への説明の仕方、リスクとベネフィットの説明、陽性検査のフォローアップの仕方を学んできました。パップテストがその最たる例ですが、ルーティンで検査されている国では、数十年の間に子宮頸がんの死亡者数が90%減少しました。これは非常に大きなことです。では、なぜ他のがんに応用できないのか、というのが私の疑問です。今は(他のがんは)子宮頸がんのように簡単に治るとは限らないかもしれません。しかし、医学の歴史が早期発見検査について教えてくれたことは、一般論として当てはまると思います。
良い検査であればあるほど良い結果が得られます。これが一つ目の質問への答えです。
二つ目の質問への回答はより複雑です。大腸内視鏡検査は何十年も前から日常的に行われていました。これは大腸がんによる死亡者数を減少させるという研究結果が発表される前からで、この結果を出すには大規模な試験が必要だったからです。早期に腫瘍を発見し、摘出するということは定石です。完全な情報に基づいて意思決定をすることはできないでしょうし、それは医学的にはほとんどありえないことですが、早期発見には確かに当てはまるでしょう。
私の好きな例として、肺がん患者が偶然発見されたとします。胸部X線検査によりステージ1の肺がんが判明した。その人がCOVID-19陽性だったとします。(COVID-19は新しい感染症であり)このような患者の研究は行われていないからという理由で、この人に症状が出るまで待とうと言うでしょうか?
正式な二重盲検比較試験ではほとんどの早期がん手術が実際に命を救うという研究結果は出ていませんが、ほとんどの人はステージ1のがんが見つかった場合、手術に同意すると思います。意味がないかもしれませんし、がんが進行するかどうかもわかりませんが、そのような推論が必要になります。
リキッドバイオプシーによる血液検査で発見されたすべてのがんが、最終的には進行して患者を殺すことになるということを示すまでには、非常に長い時間がかかると思います。そのため、どのようなメリットやリスクがあるのかは、不完全な情報に基づいて判断しなければならないでしょう。それをどうするか。私が考えたいのは、検査結果に基づいてどれだけの根治的な手術ができるか、あるいは無駄な手術が増えるか、ということです。重要なのはそれだけではありませんが、これは合理的な統計であり、文脈に沿ったものだと思います。
私たちがDETECT-Aで行ったことのひとつは、それを具体的に観察することです。65歳から75歳までの1万人の女性を対象にし、血液検査で検出された12名のがん患者に根治目的の手術が行われました。これらの患者がすべて根治したかどうかはわかりません。DETECT-Aが終わった時点では、全員まだ生きていて健康だとは思いますが、完治するかどうかはわかりません。
これには逆質問をすることができて、そのうち不要な手術はいくつあったか、ということです。その答えとしては、たぶん一人もいないか、あるいは一人だけです。偽陽性の結果で手術を受けた患者は3人だけで、そのうち2人は悪性になる前の腫瘍病変が進行しており、現代医学では摘出すべきであったと考えられます。そのうちの1人は症状のある大きな卵巣嚢胞を持っていましたが、これもいずれにせよ摘出すべきだったと主張することもできます。全体的なポイントとしては、不必要な手術が非常に少なく、検査をしなければその時点でがんであることがわからなかった人のための手術が数多く行われたということです。この12名の患者の全員が症状が出ることもなく、他の病気で亡くなっていたかもしれないという議論も可能ですが、治療をせずにただ待つ比較対照試験はしたくありません。

質問5:血中循環腫瘍DNA(ctDNA:circulating tumor DNA)やタンパクのバイオマーカーを用いて、腫瘍の情報を収集することができるとわかったのはいつ頃だったのでしょうか?その発見の瞬間があったのか、どのようにしてそれが実現したのかについて教えてください。
またclonal hematopoiesisや、非常に低いctDNA量など、CancerSeekや他のテクノロジーでもそのような困難があったと思いますが、CancerSeekを開発する上での大きな課題は何だったのでしょうか。また、それをどのようにして回避したのでしょうか。

歴史をさかのぼると、80から90年代前半の30年間、私たちの研究室では、がんの遺伝的基盤を発見しようとすることに主に関心を持っていました。世界中で努力した結果として、科学界はその情報をどのようにして患者の治療に役立てるかを考えるようになったと思います。当時も今も、ほとんどの人が炎症反応を利用してがん患者を治療することに焦点を当てていたと思います。先ほども言いましたが、これはもちろん重要なことですが、私の経歴は違います。私は小児科医として臨床の訓練を受けました。乳幼児と小児の死亡率が減少したのは、治療ではなく予防によるものであり、治療が重要であることを学んだわけではありません。公衆衛生の観点から見た場合、明らかに予防的な側面、ワクチンが重要でした。公衆衛生上の対策などにより、小児期の死亡者数が劇的に減少したのです。
その点に着目した上で、遺伝子の役割が明らかになるにつれ、私とJohn’s Hopkins大学の同僚は、がんをコントロールする別の方法に気づきました。標的を絞った治療でなく、標的を絞った診断法を使うのです。がん治療に革命を起こしたのと同じ遺伝子情報は、特定の遺伝子変化を標的とすることで診断にも使えるようになります。つまり、あまり特異的ではない測定基準や分析物の代わりに、突然変異そのものを検出された異常として取り扱うことができるのです。90年代ではハイスループットかつ特異的な方法でそれを行うことは不可能で、それはサイエンスフィクションの世界でしたが、私たちのグループの初期の研究では、膀胱がん患者の尿中の遺伝子変化を、結腸がん患者の糞便中の遺伝子変化を検出できることが示されました。それが最終的にはCologuardという検査製品につながったのですが、血漿中でそれを行うこと、複数のがんに対する検査にすることにはハードルがありました。
そのため私たちの研究室ではデジタルPCRと呼ばれるものを開発に着手しました。これは、血漿中であろうと体液中であろうと、あらゆる種類のまれな突然変異を探すための概念的な基礎となるもので、2000年代には他の技術(例:BEAMing)へと発展しました。現在では、次世代シークエンシングシステムが開発されています。この技術はまだ発展途上にあり、血漿中のまれな突然変異を実際に調べて、早期の癌を検出することは困難でしたが、それがここ数年、本当に最近になって実現しました。そして、これは非常に早期のがんを検出するために必要なものです。
リキッドバイオプシーは多くの文脈で使用されています。一つは、進行がんの患者を追跡調査し、血液中に浮遊する分子の遺伝子変化に基づいて、その患者に最も効くであろう薬剤を決定することです。この応用は重要ですが、早期発見に比べれば容易に解決できる問題に過ぎません。早期がんは腫瘍量が非常に少ないため、血漿中に浮遊する分子の数が比較的少なく、患者に症状が出る前の段階でそれらを最適に検出する技術が必要になります。これが私が考える鍵であり、最近の技術ではそれが可能になってきていると考えます。私たちや他の多くのグループの研究で、CancerSeekの研究や他の研究で実証されたように、今ではそれが可能になってくるにつれ、今まで過少診断されてきた患者をどれだけ助けることができるのか、あるいは過大診断はどうなっていたか、という疑問が浮上してきています。これらの検査のうちいくつかは臨床応用される可能性は非常に高いと考えていますし、メリットとリスクのバランスも取られると思います。シーケンシングがこの1年で改善されたように、テクノロジーも向上していくでしょう。

質問6:医師の視点で(リキッドバイオプシーに基づく)原発巣(TOO:Tissue-of-origin)のリードアウトがクリニックでどのように扱われるべきか、意見が分かれていると思います。医師が検査報告書内のTOOをどのように解釈すべきかについて、どう考えますか。

この先数年、リキッドバイオプシーに基づく検査に何を期待するかについて、少しお話します。TOOは非常に重要なテーマであり、私たちがCancerSeekの研究で取り上げようとしていることですが、その研究ではかなり高い精度で予測できることが示されています。腫瘍が疑われる臓器の位置を1つ、あるいは2つの臓器に特定して予測することができました。当時、私たちは陽性反応が出た後のフォローアップの指針として非常に役立つと考えていましたが、実際にそれを使ってみようと考えた時に、組織由来の血液検査が必ずしもフォローアップの最善ルートにつながるとは限らないことに気付き始めました。CancerSeekを含め、これらの検査はどれも完璧ではありません。これらの検査には偽陽性と偽陰性がありますが、もし陽性の予測値が30%、あるいは40%だったとしたらどうなるかを調べてみました。この陽性予測値は、他のほとんどのスクリーニング検査と比較すると5倍から10倍と非常に高いのですが、完璧とは程遠いもので、血液検査に基づくTOOは間違っている可能性があります。また、ほとんどの場合がんになることはなく、陽性検査のほとんどは偽陽性です。そもそもがんが全くない場合には、正確な組織局在を知ることは不可能です。
そこで、私たちがDETECT-A試験を計画する際に、次のようなことを考え始めました。 患者が検査陽性だったとしましょう。患者にがんがあるかどうかを確認するためには、どのような方法が最善で効率的なのか、ということを考えた結果、診断用PET-CTが最良であると考えました。PET-CTは非常に感度が高く、血液検査では得られないあらゆる情報を提供してくれます。右腎臓であれ左腎臓であれ、腫瘍がどこにあるのか、大きさや転移の有無などを正確に知ることができます。これが検出研究で検証したかったことの一つで、比較的簡単なフォローアップのアプローチが有用であることを示しています。だからこそ、今後の私たちの戦略は、リキッドバイオプシーだけのアプローチではないのです。
私は早期診断におけるリキッドバイオプシーの可能性に信じられないほど熱狂的で興奮していますが、その一方、近い将来どのような結果が期待できるについては、少しハイプが混じっているとも感じています。私の夢は、癌の75%をスクリーニングで発見することです。スクリーニングとは、マンモグラフィや大腸内視鏡検査、パップテストや血液検査などの従来のスクリーニングも含みますが、もしがんの20%未満しかスクリーニングされていない現状を変えることができれば、がん患者がどのように治療され、コントロールされるべきかについて、劇的な変化が起きると思っています。近い将来、がんの60~65%がスクリーンで検出されるようになるのではないでしょうか。そのうち20~25%は従来のスクリーニングによるもので、残りの40%はリキッドバイオプシーやそれに関連する血液検査によるものです。最終的には75%になるようにしたいと思っていますが、今後数年間で90%、あるいは95%の癌がスクリーニングで検出されるようになるとは思っておらず、何かが過剰に期待されていないかどうかについて慎重になるべきです。
もう一度、最初の話に戻りますが、もしあなたが薬を開発したとします。もしあなたが進行がん患者の20%を完治させる薬を開発したとしたら、あなたはそれを重要なマイルストンと捉えるでしょう。 早期発見のおかげで死ななくなる人は、少なくともあと20%いると思います。この数字が人々の前に出ると「なぜ100%じゃないのか」と指摘されますが、一度にすべての治療法が成功するわけではありません。がんがなくなることはありませんが、大きな改善はできると思います。早期発見戦略に資源とエネルギーを集中させれば、心臓病で行われているようなことが、がんについても同様にできると思います。

感想

いかがだったでしょうか?Cologuardもこの方が携わっていたとのこと、私は知らなかったので驚きました。まず日本語のwikipediaが存在しますから、超絶に高名な先生ですよね。

今回は書き起こしで特に内容が不正確な部分もあるかもしれないので、是非ポッドキャストは聞いてみていただければと思います。今の盛り上がりはハイプも含まれてるかもよ、と警鐘を鳴らされているところなどすごく真摯だなと感じましたし、投資家もそのような観点から状況を判断しなければなりませんね。
手前味噌ですが、これを踏まえてIlluminaのGrail買収の件も見てみると面白いのでは、と思います。

最後に、調べる中で2019年にExactがJohn's Hopkins大学を提訴したという記事も出てきたので貼っておきます。Cologuardのロイヤルティが不当に高いという訴えのようで、これが片付いたかどうかはわかりませんが、Dr. Bert VogelsteinがThriveの買収をどう思っているかは非常に気になります。

↓この記事が良かった、ぴたごららを個人的に応援したい、と思ったらサポートいただけると励みになります。


ぴたごららファンドへのサポートをいただけると助かります!