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長年の悩みにメスを入れた日

私には、顔の右側、もみ上げの横ぐらいの位置に直径5mmほどのホクロがある。ちゃんと黒くて、少し膨らんでいる。おそらく子どもの頃からずっとあって、強烈なコンプレックス!というほどではないものの、「なんとなく嫌だな~」と思い続けながら生きてきた。
今の髪型は、顔の輪郭を覆い隠すボブだから問題ないけれど、耳を出すヘアスタイルの時は自ずとホクロも見えるし目立つし、無意識のうちに手で触ってしまうことも多い。
たぶん他人の目から見れば、位置といい大きさといい、「全然大したことなくない?」で済むようなホクロなのだけど、こういう身体のパーツの問題は、本人がそれをどう感じているかが全てだと思う。

そんな調子で30年以上生きてきたある日、友人が「顔のホクロを何個か取ってさ~」という報告をしてきた。その時は「へぇ~」と他人事のように聞いていたものの、後になってふと鏡を見た時、私の目から突然数百枚の鱗が落ちた。
そっか、嫌なら取ればいいんだ…。
ずっと嫌だと思い続けてきたのに、隠したくて良さげなファンデーションとかコンシーラーを探したこともあったのに、なぜ一度も「ホクロ自体を除去する」という発想に至らなかったのか、自分でも不思議でならない。「どうせ施術料が高いから」と思い込んで諦めていた、というのとも違う。本当に、取るという発想が無かった。多分、子どもの頃からその「嫌さ」に慣れすぎて、もう一生付き合っていくものとして、諦めているという自覚もなく諦めていたのだと思う。

時は新型コロナ時代。外出自粛は解除されたもののあまり予定が無くて基本的にいつでもヒマだし、日本政府が私に10万円をくれるという話も聞くし、よっしゃ。ということで、電話で予約を入れて有給取ってフラッと美容外科へ行ってきた。

先生は綺麗で明るい女の人で、診察室に入るなり、「今日は暑いねぇ~」などと雑談を挟みながら、ホクロを定規で測ったり、カルテに図を描いたりして色々と説明をしてくれた。私はインターネットの申し子なので、「ホクロはレーザーで取る」みたいな情報を事前に仕入れていたのだけれど、私のホクロは局所麻酔&電気メスで除去するタイプのやつらしい。電気メス。音の響きが怖いぞ。
メスとか登場するなら時間かかるんだろうなー…施術日はいつになるのかなー…などと考えていたら、先生に「じゃ、あっちの部屋でやりますね。」と言われ、「あ、今日取れるんですか!?」と素っ頓狂な声を出してしまい、先生をきょとんとさせてしまった。今日取れますよ、とのことだった。

言われるがままに処置室へ移動し、ベッドに寝転び、なんか金属の板(電気メスのための何からしい。何かは分からん。)を手に持たされ、横顔に局所麻酔の注射を打たれた。注射は、ちょうどインフルエンザの予防接種と同じくらいの痛さだった。その後の電気メスは、焦げ臭かったものの本当に無痛だった。先生「もし痛みとかあればすぐに言ってね?これ大丈夫?」私「大丈夫です」先生「なら良かった。…もうホクロは取れたからね」私「え、もう!?」というぐらい、セリフのところで改行をする暇もないくらい一瞬で終わった。
麻酔の始まりから処置終了まで、5分も経っていない気がする。

今日からしばらくは、ホクロの跡地に薬を塗ってテープを貼り付ける生活が続くらしい。私の場合は幸い髪の毛で完全に隠れる位置なので、テープを貼って日常生活を送ることに支障は無い。皮膚がすっかり元通りになるまでには、何やかんやで半年ほどかかる、とのことだった。
治療には保険が適用でき、局所麻酔&電気メスの処置、取ったホクロの念のための病理検査、塗り薬、貼るテープなどなど込み込みで、お会計は1万円だった。特別定額給付金があればホクロが10個取れる。

長年地味に「嫌だなぁ」と思い続けていた案件が、専門家に相談したことによって1日で解決した。これは事実の描写であると同時に、なにか比喩のようでもあるなぁと感じる。
私が言いたいのは、「ホクロを取った方が良い」ということではなく、長いあいだ不快を感じ続けすぎて、自分の中でそれが「当たり前」になってしまうのは、あまり良くない、ということ。そしてその嫌なことは、物理的な問題であれば尚更、意外と簡単に解決できる可能性がある、ということ。さらにもう一つ言えば、医療や科学の進歩は本当に凄いので、5年前はダメでも今日なら解決できたり、また今日はダメでも5年後にもう一度検討したら解決できる可能性があったりするのかもな~とも思った。とにかく、諦めや思い込みで知らず知らずのうちに思考を停止させてしまうのは色々もったいないので、気を付けないといけない。今日は自分を戒めた。


…ちなみに、私の頬にはそのホクロとほぼ同じ位置に薄茶色のアザもあって、そちらもホクロと同じくらい嫌だったので、併せて相談したのだけど、残念ながらアザの方は除去するのは難しい、とのことだった。(厳密に言うと、処置に長期間かかり痛みを伴いお値段も張る割に再発率がめちゃくちゃ高い、とのことだった。)本気を出せば悩みは全て解決できる!というほどには、世界は甘くないらしい。でもまぁ、とりあえず右頬の悩みが半分になったので良しとします。医療技術のさらなる進歩に期待。

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