閻魔大王やったんかい/ピストジャム

 昼間の新宿はおもんない。今日は特に天気いいから、余計おもんない。沖縄ぐらい晴れてるやん。9月やのに暑すぎるやろ。残暑のレベル超えてんねんけど。

 うわ。東口の広場のライオンめっちゃ光ってる。あれ塗り直したんかな。あんなに金色やったっけ。

 アルタ前もドンキ前もシケてんな。誰もおらんやん。いや、いるのはいるけど。でも、ほぼ人おらんやん。歌舞伎町はどうやねん。

 出た、ゴジラ。歌舞伎町の不動明王か、はたまた魔都に鎮座する閻魔大王か。

 合掌。ハリウッド版GODZILLAシリーズも、アニメ版GODZILLAシリーズも全部観させていただきましたが、僕はシン・ゴジラが一番でした。実は僕は、20年間芸人をやってるんですが、まったく売れてません。僕もゴジラ様、いやガッジーラ様みたいに売れたいです。もうバイトばっかりつらいです。おもしろいことを言えるようになりたいです。

 もう金輪際、大好きなタバコを一生吸いませんので、仕事ください。

 ゴジラに向かって、手を合わせながら思ったこと。新宿東口から歩いてきたこの一本道、振り返れば、マジでゴジラ神社本殿までの参道みたい。

 うわ。もしかして。うわ。

 さっきの、東口出たとこの金色のライオン。あれ実は、狛犬なんちゃうん?

 うわ。こわっ。鳥肌立ってきた。これ完全に都市伝説やん。歌舞伎町も、いきなり真実暴かれて静まり返ってるやん。

 いや、ずっと静かやねん。今、平日昼のピーカン11時半。着いてから、ずっと静かやねん。こんなに人おらんもんかね。いや、ピーカンて。何語やねん。

 お。なんや。突然ことわざが浮かんできたぞ。白日の下に晒す。ええやん。

 天気良すぎたら
 歌舞伎町もこんなに
 色気ゼロになるんや

 五七五のつもりで詠んでみたけど、実際は八十十でした。ズコー。

 誰もおらんのにスベったから、タバコを一服。でも、誰もおらんから、紫煙くゆらせ放題。

 あ。フツーにタバコ吸ってしもた。

 それにしても、歌舞伎町のすっぴんって、ひどいな。冷めるわ。古いボロボロのビルばっかりやし、人の気配ないし。ポンペイの遺跡みたい。店の中で、みんな灰になってるんちゃう?

 あれ。この道って、こんな広かったっけ? あ。いいね、いいね、路地に散乱するタバコの吸殻とチューハイの缶。落ち着くわ。魑魅魍魎の痕跡。

 夜の間、騒いでた悪鬼羅刹どもはどこに行った? 容赦ない陽の光に照らされて消滅したか。それとも、西武新宿線に乗って逃げおおせたか。あるいは、地下深く大江戸線のホームに逃げ込んだか。

 なんか、だんだん新宿むかついてきたわ。映画館とコンビニとラーメン屋とルノアールしか開いてへんやんけ。ほんまは極悪人のくせに、昼間はのうのうと真人間のフリしやがって。

 昼間の新宿の楽しみ方は、映画観て、ラーメン食って、コンビニでタバコ買って、ルノアールでアイスコーヒー飲んで、終わり。こんなん、どっこでもできるやん。全然、彼のいいとこ出てへん。

 いや、伊勢丹。何を伊勢丹だけ、私はいかなる時も清廉潔白です。みたいな顔してんねん。確かに伊勢丹の安定感すごいけど。

 嗚呼、無情。全然おもんない。急にバイト休みになったからって、張り切って新宿来たのが間違いやった。あ。薬局も開いてるんや。いや、あ。やないねん。このままシモキタ帰りたくないわあああ。なんか爪痕残して帰らなあああ。このままやったら、死んでも死にきれへん。

 そや。ナンパしよ。俺が、新宿らしさを新宿に与える存在になればいいんや。このナンパは、性的な欲求からではなく、新宿が新宿であるために、必要な行為なのだ。引っかかるか、引っかからないかじゃない。やることに、行動することに意義があるのだ。

 平日の昼12時に、新宿で、警察に捕まったら「無職」って言われても過言ではない43歳のおっさんが、一人でナンパ。来るとこまで来たな。うん、狂ってる狂ってる。ここって、地獄やんな?

 お。早速前方から、標的がやってきた。

 玉砕覚悟!突撃あるのみ!

「はのお、おへいはん、ひょっほ、ひょっほ」

「はい?」

「はへ? はんは、はへ? うはふひゃへはへへん」

「え?」

「はへ? はんへはほ?」

「え? 何? ウケるんだけど」

「うひょ?」

「ごめん。急いでるから。またね」

 あれ。なんでやろ。久しぶりやから緊張してんのかな。全然うまくしゃべられへんねんけど。っていうか、普通にもしゃべれてないねんけど。なんで?

 うわ。舌抜かれてるやん。

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