仮面舞踏会の秘匿性をまとってネットの隅で踊る
覚えている限りで、ネットを通じて見知らぬ人と交流した最古の記憶は「似ている芸能人診断」の感想チャットだ。
今もあるけど、10年ほど前の当時も顔写真をアップロードすると、顔のパーツを解析して似ている芸能人を出してくれるサイトがあった。
小西真奈美 62%
蒼井優 26%
室井滋 12%
って感じで結果がでる。
ガラケーの画素数カスカス写メの頃だったので精度は今より断然劣っていたけど、当時は目新しかった。的外れな結果が出ては笑い、それなりに説得力のある結果が出ては驚き、好きなタレントが出るように表情や角度を工夫して時には化粧をして似せた写真を撮った。
そのサイトに診断結果と連動して、感想をつぶやけるようなコーナーがあった。
女性・小西真奈美「やった〜うれし〜\(^o^)/」
男性・木村拓哉「キムタクなわけwww」
男性・伊藤淳史「キターー(゚∀゚)ーーッ!!」
と言った感じで表示されてたと思う。
基本的には上のような感じでみんな診断結果に対するコメントだった。
そんな中で目に止まったのは、ごくごく日常的なやりとりをする芸能人たちだった。
女性・石原さとみ「やっと期末終わった〜」
男性・オダギリジョー「おつー」
女性・木村カエラ「乙」
女性・石原さとみ「どもー。あれ?今日、小栗旬来てないね?」
男性・オダギリジョー「珍しいね。仕事かな」
明らかに1,2度目のやりとりじゃない親密感。
この会話の間に「1回目は新垣結衣だったのに2回目はオアシズ大久保w」みたいな双方向のコミュニケーションを想定してない一方的な感想も流れてくるけど、常連たちは一切気にしてない。大久保佳代子の方も気にしてない。
ドキドキした。
キムタクも電車男も大久保佳代子も気付いてないけど、私だけが気付いた。
このささやかな憩いの場に。
私も参加してみようか?参加するなら誰として参加しよう?常連とかぶってしまうかも?ならしばらく様子を見てみよう…。
当時親の方針で私のガラケーには年齢制限がかかっていた。
確か2ちゃんねるとかそういうメジャーな交流掲示板にはアクセスできなかったと思う。
そんな中で見つけたオアシス!!大久保!!光浦!!
これが憧れのインターネット!!
本来の用途とは違う使い方が一部のユーザーの間で根付いている自然発生的な文化も、気づく人だけ気づく程度の「隠れ家」的なさりげない存在感も心をくすぐった。
2日ほどは張り付いてただ眺めていた。
大体、常連の名前(芸能人名)と関係性が見えてきたところで私は会話に入ることにした。
結局どの芸能人にしたのかあまり覚えてない…。相武紗季だった気もするし違う気もする。なんて言って入っていったのかも覚えてない。「いつもROMってました!」とかかな。
会話に馴染めなかったら名前を変えてまた入り直せばいいという点が背中を押したと思う。
実際、1,2度名前を変えて別人のフリをして遊んだこともあった。その時はバレなかったと思う。消すことも増やすことも偽ることも、自分でどうにでもできてしまう「私の人格と存在」の自在性、それが現実にはない魅力だった。
私の相武紗季と、違う人の相武紗季を見極めてくれそうだという信頼感はあった。このアイデンティティがあるようなないような、自分にだけ都合がいい微妙なアンバランスさがかえって心地よかった。
私にとってインターネットはいまも変わらずそういう面白みを持ってる。
身元不定の安心感と身元不定であっても成立するアイデンティティ。
以上、相武紗季でした。
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