バダブ戦争(12)猛炎
コルキラの虐殺(910.M41)激突
これはバダブ戦争の「失われた物語」であり、真実は今後も決して明らかにはならないだろう。〈帝国〉の記録では〈コルキラの虐殺〉と記されているこの事件は、910.M41に〈帝国〉海軍の巡邏によって、密輸商人の拠点の廃墟が辺境惑星コルキラ第二惑星の塵の荒野で発見されたことから発覚した。
その基地の内部には、人類史上まれに見る大虐殺と破壊の悪夢めいた光景が広がっていた。そこでは、エグゼキューショナー戦団とカルカロドン戦団の中隊未満の兵力どうしが死闘を繰り広げたのである。いずれもその野蛮さと容赦なさで悪名高い両戦団は互いに全滅するまで戦い続けた。彼らの周囲で基地はずたずたに破壊され、かつての住人はばらばらの塵となりはてた。
両軍ののこした死骸はおそるべき傷にのたうちまわったことを示しており、切断された手足やすさまじい怪我は〈戦闘者〉ですら死に至るものであったし、何人かは内臓をとびちらせて組み合ったまま、最期の力をふりしぼって敵と刺し違えたまま死んでいた。勝利の凱歌をあげた生き残りがどちらかの戦団にいたかどうかは定かではなお。コルキラ第二惑星で起きたことを語る生き残りについては、どちらの戦団も記録していないからである。
鉄火の激突(910.M41)
910.M41の中頃、〈渦圏〉東部で海賊の活動が活発化した。〈忠誠派〉大本営の間では、これは少なくとも一個のアストラル・クロウ部隊が何らかの方法でバダブ星区の封鎖をくぐりぬけて、〈渦〉辺縁部で作戦行動を行っているのだと考えられた。〈帝国〉海軍護衛艦隊の索敵戦隊がこうした襲撃を鎮圧するために派遣された。〈分離派〉がこの機に乗じて〈忠誠派〉の側面に新たな戦線を構築することを防ぐためである。
こうして、辺境惑星ルークにおいて、海賊の痕跡が発見された。ここは〈渦〉の内部で〈帝国〉のエージェントを支援する気のある数少ない惑星のひとつであり、その住人は熱心な〈奉納派〉(Oblationist)から成っていた。彼らは〈忠誠派〉大本営に、近隣の星系でアストラル・クロウ戦団の打撃巡洋艦〈ヒルカニア〉に率いられた人類の海賊船団によって奴隷獲得のための襲撃が活発になっていることを報告した。
こうした海賊船団の攻撃パターンは〈歪み〉に残された残響をたどってランプスタン星系、そしてシャプリアルとスカルフェルという双子の野蛮惑星まで追跡された。強力な敵勢力がこの地点に終結していることを予想した〈帝国〉海軍戦隊は、再編成と補給のために撤退し、増援を要請した。
その頃、〈渦圏〉北部ではカルカロドン戦団がトランキリティー戦役の最終段階に忙殺されていた。南部ではミノタウロスとサンズ・オブ・メデューサが帝国防衛軍懲罰連隊の支援を受けながら、〈総統兵団〉が頑強に抵抗していたバダブ星区辺縁の惑星アイシンを攻撃していた。総司令官クランはセーガン星系に駐留していた自身のレッド・スコーピオン戦団と新たに増援を得たエクソシスト戦団を召集して、ピレアウスにある〈歪み〉の戦略的結節点への攻撃を準備した。これは重要な目標であり、バダブ星区への入口と見なされていたのである。
開戦以来、〈忠誠派〉の兵力は多大な損害を受けてきており、それまで〈忠誠派〉の大義を奉じて戦ったスペースマリーン戦団の多くは撤退していた。ハウリング・グリフォンやマリーンズ・エラントはその損害の大きさから引き上げており、またノヴァマリーンやファイア・エンジェルは独自の理由でこの戦場を離れていった。要するに、〈忠誠派〉の軍勢はスペースマリーン中隊の増援が到着していたものの、戦線全体に広がってしまっており、総司令官カルブ・クランは多正面で戦って〈総統〉が企図するような消耗戦に引きずり込まれることは避けなければならなかったのだ。
味方のスペースマリーンの指揮官たちとの協議の末、サラマンダー戦団の老練の戦士ペラル・ミルサンがランプタン星系での海賊の一件について解決策を提示した。そして、自身の戦力を率いてランプタンを急襲したサラマンダーたちは、奇襲を利用して太古からのオンナ・ノストロマ戦術を用いて、強力な大戦艦〈栄誉の焚火〉の力をたたきつけ、敵に決定的な打撃を与えた。
軍議で超然として謎めいたミノタウロス戦団の代表を務めるイヴァヌス・エンコミ教戒師は、この任務におけるサラマンダーを援護するために、自身の親衛隊と集められるかぎりの軍勢を率いて駆けつけることを提案した。これが許可されると、〈火の賜物〉と名づけられた攻撃部隊に、さらに〈帝国〉海軍軽巡洋艦およびフリゲート戦隊の増援がつけられた。この部隊はただちに出発し、戦場で敵とまみえるためにランプタン星系に向かった。
シャプリアスの死闘(910.M41)
〈忠誠派〉艦隊がランプタンの不安定な二重太陽系に入ったとき、彼らの怖れていたことが現実になった。野蛮惑星シャプリアスの軌道上には、回収した廃船と鹵獲した輸送船から寄せ集めて作られた宇宙船から成るごたまぜの大艦隊が遊弋していたのである。アウスペクスによる探査とアウグリー探査機の投入によって明らかになったのは、眼下の惑星上には広大な野営地と訓練場が広がっているということだった。このシャプリアスで、新たな軍隊が〈総統〉の大義の奴隷となった野蛮で堕落した部族戦士たちから作り上げられようとしていたのである。これはルフグト・ヒューロンの意のままに殺戮を行う消耗可能な武器というわけだった。
ミルサンは、敵艦の大半は何らかの略奪作戦に行って留守であると看破した。これ以上の好機はなかった。この名高いサラマンダーの指揮官は、すばやく大胆な攻撃計画を練り上げた。〈戦闘者〉の連合部隊は、惑星に降下するとただちに〈分離派〉の城塞と訓練場を襲撃した。時を同じくして、海軍護衛艦隊もただちに発信して、可能な限りすみやかに敵の大艦隊の破壊に向かった。
2つの戦団がドロップポッドとサンダーホーク・ガンシップを発射し、それぞれ担当の戦域に分かれた。ミノタウロスはサラマンダーの同胞が受けたよりもさらに苛烈な抵抗にさらされたが、攻城戦の名手である彼らはアストラル・クロウの鉄の城塞に襲いかかった。サンダーホークが敵の戦列に穴をあけると、ガンシップからアサルト・ターミネーターとデヴァステーターの諸隊が、煙をあげる廃墟に直接降り立った。中隊規模のミノタウロスのその他の兵力はこのブレークポイントのすぐ背後に展開し、敵の反撃によってしたたかに打ち据えられた。大損害を受けながらも、ミノタウロスの先遣隊は廃墟と化した城塞で規律の取れた勇猛さをもって持ちこたえ、襲い来る〈分離派〉に1インチたりとも地歩を譲らなかった。ブロンズカラーの鎧をもったミノタウロスは、戦闘用シールドで身を守りながら、ボルターの砲火をものともせず廃墟要塞を奪還すべく前進してきたアストラル・クロウのリタリエーターと荒々しく激突し、歪んだ金属と粉々に砕けたロックリート素材のただ中で何度もぶつかりあった。
城塞をめぐって攻防するミノタウロスとアストラル・クロウは数の上では互角であり、塹壕も防備も勇気も戦意も劣るものではなかった。しかし、ミノタウロスは攻城戦の達人であり、この血塗られた白兵戦の地獄はまさしく、彼らが喜んで戦うたぐいの戦場に他ならなかった。ランドレイダーとシージ・ドレッドノートの装甲部隊に率いられたアストラル・クロウ戦団はミノタウロスの攻撃第二波によって釘付けにされた。エンコミ教戒官はジャンプパックを装備した精鋭先遣分隊を自ら率いて敵の副次的な城塞を強襲して皆殺しにした。包囲分断されたアストラル・クロウは殲滅された。ゆっくりとして血塗られた進撃ではあったものの、〈忠誠派〉の進軍はついに〈分離派〉は阻止できなかったのである。アストラル・クロウは全ての城塞でミノタウロスに多大な出血を強いたものの、城塞はひとつまたひとつと陥落し、とうとう勝利はミノタウロスのものとなった。
一方その頃、サラマンダーの大部隊が都市ほどの大きさのある訓練場の中心部に降下した。名高きこの戦団で最強の戦士たちであるサラマンダー・ファイアドレイク・ターミネーター部隊が、カエスタス型アサルト・ラムの一翼に搭乗して、〈分離派〉の着陸地点を攻撃する別働隊の任務をになった。最初の一撃で、カエスタスの装甲衝角とマグナ・メルタ砲が地上の敵輸送艇を襲い、その船体を引き裂き、燃料タンクに着火した。ファイアドレイク隊が揚陸艇から黒煙をあげるただ中に飛び降りると、混乱と破壊はただちに大虐殺にかわった。彼らのストームボルターとサイクロンミサイルランチャーは慌てふためく敵が抵抗を始める前に全てを一掃したのである。他の場所では、ミルサン隊長率いるサラマンダー主力部隊が敵の中心部、訓練場の中央にある円環状の防御施設に直接降下を敢行した。完全に包囲されたサラマンダー部隊はわずかに百人のスペースマリーン、敵は野蛮人とミュータント、そして近隣の数十の残虐な住人から成っており、その人数は千倍にも達した。
他の戦士であればもはや自殺としかいえない状況であったが、彼らヴァルカンの息子たちは、この劣勢をものともしなかった。サラマンダーの強襲によって突然の憤怒と混乱に陥り、統率するものもなく右往左往する蛮族の大群は反応が遅れ、ようやく攻撃に転じたときには猛烈な火力の壁に直面することになった。ホワールウィンド自走砲、デストラクター型プレデター戦車、そして整然としたサラマンダーの隊列が超近距離で一斉射撃を放つと、わずか数分で何千人もの異端者が斃れていった。
まもなく破壊された訓練場の地面には、けいれんする肉体の山々がそびえたった。大群が態勢をたてなおしたのは、血に塗れた鋼の鎧を身にまとうアストラル・クロウたちが戦場にかけつけ叱咤してからであった。サラマンダーたちは、けがらわしい異端者の大群のただなかに、リタリエイター・スカッドの隊形をとる真の敵たちを見つけ出すと、容赦の無い猛砲撃を継続した。ミルサンは強襲計画の第二段階に移り、アキレス型ヴェネラブル・ランドレイダー隊がアストラル・クロウの戦列に直接吶喊した。戦車はサンダーファイア砲とマルチメルタ砲を放ち、大群の隊列に巨大な穴をあけていった。ランドレイダーはアストラル・クロウの中央を撃砕すると、左右に分かれてドレッドノートたちの憤怒を解き放った。
おそるべき伝説にうたわれる〈鉄竜〉ブレイアース・アッシュマントに率いられた六機のドレッドノートがアストラル・クロウの戦列に襲いかかり、粉砕し、浄化の炎で焼き払った。圧倒され、劣勢に追い詰められながらも、アストラル・クロウは容易に屈せず、栄光ある戦闘で討ち死にしながらも、サラマンダーのドレッドノートの二機を倒した。アストラル・クロウの最後の一人であるセンチュリオンは、〈鉄竜〉によって真っ二つに引き裂かれながらも末期の息で〈総統〉の名を呼び、その死骸は打ち捨てられた。主人たちが全滅すると、大群は潰走した。何万人もが背後から迫る火と死の王者たちから逃れようと無我夢中で逃げだし、その中で何百人もがさらに絶命した。
壊滅した城塞の地下奥深くで、ミノタウロスとサラマンダーは、アストラル・クロウが守ろうとしていた秘密を発見した。それは、〈異端技術〉の研究所を擁する広大な天然洞窟網であった。これらは大量に戦闘薬物を製造し、原始的な遺伝子改造と人体実験を、シャプリアスの野蛮な戦士たちだけでなく、〈渦〉東部の襲撃で捕獲された〈帝国〉人の捕虜たちに対しても行っていたのである。そして最下層で〈総統兵団〉の〈検屍官〉たる医術官の一団によって守られていたのは、戦死した〈忠誠派〉スペースマリーンから強奪された遺伝種子の山であった。
軌道上の戦いも地上と同じように〈忠誠派〉の優勢に推移したが、代償は大きかった。にわか作りの大艦隊は燃えさかる残骸になりはてたが、艦隊を守るために隠されていた兵器プラットフォームによって〈栄誉の焚火〉は損害をこうむり、ソード型フリゲート〈エポナ〉は爆沈した。戦闘開始から十一標準日が過ぎようとするころには、〈火の賜物〉はランプタン星系を離れて、〈忠誠派〉の支配宙域への危険な航海に乗り出した。これには千人もの解放奴隷を収容した〈帝国〉海軍の軽巡洋艦が随伴しただけではなく、〈栄誉の焚火〉そのものの内奥部に、地底から回収された貴重きわまる遺伝種子がおさめられていたのである。〈火の賜物〉は大勝利を宣言し、もし放置すれば〈帝国〉に非常な危険をもたらした〈総統〉の謀略を暴露した。
しかし、〈忠誠派〉大本営も、ランプタンへの攻撃が、バダブ戦争の行く末を予想外に変えてしまう事件につながるとは全く思っていなかった。
(続く)
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