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web3スタートアップ法務が解説するNFT取り扱い時の3つの留意点~最新の金融庁パブコメ回答を踏まえて~

はじめに

こんにちは!Gaudiy法務のひと(@pirika_upas)です。直近の金融庁事務ガイドラインの改定の内容について、bizdev・開発者向けに実施した社内法務勉強会の内容を以下で共有します。

本稿のテーマ
これまで、NFTとして発行したトークンの暗号資産の該当性ついて、少しグレーの部分があり、実務上の課題とされてきました。

この課題については、昨年末の金融庁の事務ガイドライン(金融庁職員向けの手引書だが、ビジネスの実務上も無視できない指針。以下、GL)の改正案の公表とそれに伴うパブリックコメントに対する金融庁の回答(今年の3末に公表。以下、パブコメ回答)によって、大部分は解消されたといえます。

また、パブコメ回答は、ビジネス促進の観点で非常によい内容と思われますので、実務目線も交えつつ、以下でご説明します。

key takeaways:
- (1)NFT取扱事業者は、NFTの決済手段としての使用を禁止する意図を利用規約等で明確にすること、(2)販売時には、パブコメ回答で明らかになった具体的な数量・金額の範囲内で発行・販売すること、(3)NFTの決済手段としての使用実態がないように、ユーティリティ等のサービス設計には気を付け、もし決済手段としての使用を見つけれ利用者向けに警告等合理的措置を行うこと、以上によりNFTを暗号資産に該当しないで販売できるようになった。
- これにより、1つのコンテンツ(絵柄)のNFTにつき、10億円超の販売(資金調達)も否定されない状況になった。
- だが、Semi-Fungible Token規格を用いた発行・販売やNFTとの交換を可能にするユーティリティの付与には依然注意すべき。

Disclaimer:
実際に、NFTを発行する場合は資金決済法や暗号資産の領域を得意とする弁護士にご相談ください。

NFTを暗号資産にしないための3つのポイント

そもそもの前提

まず、予め確認しておきたいのは、本稿で説明する部分は、下図の一番下の赤で囲った部分ということです。つまり、暗号資産とそれ以外のデジタルコンテンツ(NFT含む)の分岐に関してです。

Business Lawyers『【連載】NFTと法』を参考に一部加筆修正

トークンについては、本稿で説明するもの以外にも、付随する権利や機能によって、様々な金融規制がかかりうる点、ご承知おきください。

NFT取り扱い上の3つのポイント

これまでの、暗号資産該当性についての確認になりますが、2019年9月に公表されたパブコメ回答において、「決済手段等の経済的機能を有していない」場合は、「ブロックチェーンに記録されたトレーディングカード」について、暗号資産にならないと述べられていました(令和元年9月パブコメ回答, No.4)。

しかし、「決済手段等の経済的機能」(≒代価の弁済としての使用有無)というのがやや不明瞭で、パブリックチェーン上で発行するトークンについては、暗号資産なのか、それ以外のデジタルコンテンツ(NFT)と整理できるのか、やや判断に迷うケースもありました。この点、今回の改正GL及びパブコメ回答で、暗号資産に該当しない場合がより明確になりました。

今回のGL改正に伴うパブコメ回答を踏まえると、NFTが暗号資産にならないよう、NFTを取り扱うに際して、特に以下の3つの点に留意する必要があります。

(1)規約・商品説明:
NFT取扱事業者として利用規約等でNFTの決済手段としての使用を禁止する意図を明確にする
(2)販売時の金額*数量:
NFTの販売に際しては、1つのコンテンツにつき、1千円以上または100万個以下にする
(3)決済手段としての使用実態がないように気を付ける:
NFTの決済手段としての使用の実態がないように、ユーティリティに気を付ける。決済手段としての使用があれば、利用者向けに警告等を行うなど、合理的な措置を講じる

(1)規約・商品説明

まず、1つめですが、NFT取り扱い事業者(一次販売事業者に限らない)は規約又は商品説明において、取り扱うNFTが暗号資産(「代価の弁済のために不特定の者に対して使用*」できる財産的価値)ではないことを明確にする必要があります(GL Ⅰ-1-1 暗号資産の範囲及び該当性の判断基準 ①イ)。

これは、規約の禁止事項に盛り込めばよいので、さほど難しい要件ではないですね。注意すべき点があるとすると、二次流通しうるのであれば、二次市場での決済手段も禁ずることかなと思います(回答No15.)。

なお、SBTのように技術仕様によって、はなから移転ができず、支払決済としての使用が想定されていないトークンについては、1つ目の点は満たしているものと考えられます(cf. GL「システム上決済手段として使用されない仕様」に該当)。

*(注)以下では、「代価の弁済」としての使用と「決済手段」(としての使用)を同義と考えます。

(2)販売時の金額・数量

2つめの金額・数量についてですが、パブコメ回答では具体的な目線が数字をもって示されたこと、その数字がかなりビジネスフレンドリーだったことが、今回のパブコメ回答の一番のサプライズかと思います(筆者自身も、顧問弁護士から数字が出てくるようだと予め伺ってはいましたが、ほんとうかなぁ?という感じでした)。

改正GLでは、「暗号資産ではない物品等」と整理しうるものとして、上記の(1)に加え、「不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的である」場合を満たす必要性に触れられています。

その例として、金額について、「 最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること」とされており、数量については「発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること」が示されており、いずれか一方が満たせばよいことが明らかにされていました。

そして、「高額」や「限定的」の定義に関して、その後、パブコメ回答で以下の通り、具体的な数字に言及がありました。

まず、金額については、例えば1百円、1千円、1万円のうちどの程度なら「高額」かとの質問に対して、1千円以上と回答がありました(なお、1千円未満だから直ちに暗号資産というわけでもないよ、と補足もあります)(No.16-17)。

また、数量についても、1万、10万、100万、1000万の場合、どの程度なら「限定的」かとの質問に、一般的には、少ないほど決済手段になりにくいとしつつ、例えば100万個以下であれば「限定的」と回答しています(No.20ほか)。分割可能なNFT(e.g. Fractional NFT)であれば、分割可能な数量を踏まえ算出します(No.30)。

金額・数量要件については、いずれかを満たせばよいのですが、上記より、1つのコンテンツごとに1千円*100万個=10億円のNFTを物品等として、暗号資産にならないよう、安全に売り出すことが可能と解釈できます(もちろん1万円*100万個=100億円も否定されません)。

対象となるコンテンツについては、「紐づくイラストの一部が異なるなど、紐づくコンテンツが異なるトークンについては、基本的に、同じ種類のものではなく別のトークン」とみなすとあります(但し、「流通市場等において、扱われ方や価格等の観点で同じ種類のものとして扱われていると認められる場合」を除く)(No.35)。

出典:CryptoPunks(https://www.larvalabs.com/cryptopunks)
それぞれ別のトークンとして発行・販売できそう?

したがって、例えば、ポケモンカードであれば、ピカチュウとその進化系のライチュウのNFTは、それぞれ別のトークンとして、上記の数量・金額の範囲であれば、金融規制なく10億円を超える売り出しが可能となりそうです。

実際に売れるかは別として、有名なコンテンツを有するIPホルダーにとってはNFT発行が検討の俎上に上るくらい、魅力的な制度かもしれません。

(3)決済手段としての使用の実態がないように気を付ける

では、この(1)と(2)を満たせばそれで、セーフハーバー(法令違反にならないもの)として機能するのか、ですが、そうとも言い切れないのが(3)に関するところです。

改正GLにおいて、(1)及び(2)を充足する場合であっても、不特定の者に対する代価弁済の実態があれば暗号資産になりうると述べています。

ただし、イ及びロ(筆者補足:上記の(1)及び(2)に相当)を充足する場合であっても、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまらず、現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件(筆者補足:暗号資産の一要件)を満たす場合があることに留意する。

出典:GL新旧表
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221216-2/01.pdf

したがって、NFTを取り扱う事業者においては、上記のような「実態」がないようにサービス設計を行う必要がありそうです。

代価の弁済に当たらないNFTのユーティリティ

NFTを取り扱う事業者がNFTにユーティリティを付す場合に、気を付けるべきことは何でしょうか。「不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態」がないようにしなければなりません。

この、「代価の弁済」が厄介ワードなのですが、まず安全そうなユーティリティから見ていきましょう。

パブコメ回答から実施が可能そうなユーティリティとして、会員権型のNFTが挙げられます。例えば、そのNFTを保有していれば限定のチャットルームに入れたり何らかのサービスにアクセスできる場合や何かが安く買えたりする場合で、それらの利益を享受してもなおトークンを失わない(交換ではない)ようなNFTのユーティリティを付すことは可能でしょう(No.39)。

投票権(ガバナンストークン)としての利用が可能なNFTやNFT保有者に異なるNFTを付与(エアドロップ)することも、もともと保有するNFTを失わない建付けであれば問題ないと思われます(後者の場合は別途、景表法の観点について要検討)。

あとは、少し派生して、NFT-Fiとして例えばそのNFTを担保に暗号資産を借りるようなサービスも、NFTを失うことは通常想定されていないので、代価の弁済の使用ではないと思います(別途、利用者が借り入れる暗号資産のカストディ該当性に注意)。

NFTと物品等(他のNFT)の交換は代価の弁済か

一方で、「代価の弁済」(決済手段としての使用)の観点から、例えばNFT同士の交換など、「物々交換」は注意したほうがよいと思います。あるNFTを持っていれば、異なるNFTと交換できる的なサービス上の設計する場合です。

そもそも「代価の弁済」とは、売手の商品など何かを、買手が取得するに際して、相応の何かを差し入れ契約上の義務を果たす(買手の債務を消滅させる)行為だとすると、買手が提供するものについて、必ずしも金銭である必要はなく、物々交換も含みうる広い概念のように思います。

資金決済法上の暗号資産の定義における対価の弁済は、これより狭く、あくまでビットコインのように、fungibleな性格のトークンを当初想定していたはずです。ですが、どの程度の範囲ならNFT同士を交換してもよいのかについては、パブコメ回答からは明らかではなく(cf. No.32)、まだ確固たる解釈はない印象です。

特定の一種類のNFTに限って交換できるNFTであればチケットのようなものと考え、「物品等」と整理することもできるのではと思います。但し、一般論としてNFTと交換できる対象商品・サービス(NFTに限らない)が増えるとお金と類似し、支払手段としての性質を持つので注意が必要です。

また、ERC-1155やERC-3525のように、通称Semi-Fungible tokenとよばれる規格を用いたトークンの発行についてはどうでしょうか。

必ずしも規格だけで暗号資産該当性が判断されるわけではないと思われますが、「トークンの規格についても暗号資産該当性を判断する上での考慮要素となり」(No.3)ともあります。

これらの規格を用いた場合、当初はFungible Tokenとしての性質が強い場合などがあり得ますので、一般論としては、ERC-721規格を用いる場合よりも注意が必要です。

以上の通り、特に、NFT同士の交換に係るスキームや上記ERC-1155等を用いたNFTの発行については、この分野を得意とする弁護士交え、自社の考えを十分に整理しておくべきと思います。

もし、取り扱うNFTの決済手段としての使用を見つけたら

仕様上あまりないと思われますが、NFT取り扱い事業者のプラットフォーム上で、NFTの売りと買いをマッチングするC2Cビジネスを展開する場合で、利用者が決済手段としてNFTを使用している場合はどう考えればよいでしょうか。

パブコメ回答では、発行当時は暗号資産でなくても、後日、いずれかの時点で暗号資産に該当する可能性があるとされていますし(No.10)、決済手段としての使用を禁止する意図があっても、「合理的な措置を講じない結果、物品等の購入の代価の弁済のために使用されている実態がある場合は」、当該トークンは、暗号資産になりうるとあります(No.14)。

ですので、事業者としては合理的な措置を講じる必要がありそうです。

合理的な措置の一例と考えられそうなのが、規約に反して決済手段としての使用がある場合に、「代価の弁済のために当該トークンを使用している利用者に警告を発するなど、代価の弁済のために使用されないための合理的な措置を講ずること」という回答(No.1)です。

よって、事業者のプラットフォーム上で、万一NFTの決済手段としての利用を見つければ、利用規約に照らし、利用者に注意喚起を行う必要がありそうです。

この点、自社でコントロールできる範疇ですので、大きな問題はないと思います。

自社プラットフォーム以外でのNFTの決済手段としての使用

以上は、NFTを取り扱う事業者がコントロールできるサービス設計上の話ですが、パブリックチェーンを用いてNFTを発行する場合は、そもそも当該事業者の意図しない使用が、外部でなされる場合もあります。

例えば、販売事業者としては、(1)(2)を守り、ユーティリティにも気を付け、決済手段としての使用の実態がないように配慮して販売したものの、そのNFTが二次流通し、他の事業者が提供する様々な商品やサービスと交換できるような場合をどう考えたらよいのでしょうか。

「不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある」として、そのようなNFTを取り扱う事業者は資金決済法違反になるのでしょうか。

一応、上記のような場合も、「合理的措置」を取ることが前提とされているように思います(No.14)。とはいえ、他の事業者と取引関係がない場合、そもそも、できることに限りがあります。海外事業者ならなおさらです。

ここからは個人的見解ですが、NFTを一次で販売する事業者とは関係ない例えば海外の事業者が当該NFTを「代価の弁済として使用」したとして、当該NFTの一次販売事業者が資金決済法違反を問われるケースは、かなり例外的な状況だと思います。

例えば、上記の海外事業者とグルになり一次販売者に法の潜脱の意図が明確であるとか、流通するNFTの大半が明らかに決済手段として使用されているような状況においては、当局としては、暗号資産であるとして規制をかけたくなるでしょう。

国内のNFT取り扱い事業者ができる合理的な措置としては、例えば、NFTの禁止された利用についての通報窓口を設置すること、万一、他の事業者における決済手段としての使用を発見した場合には、「NFTは決済手段としての使用は禁止されている」、「当社が認めた使用方法ではない」的な案内を公表することが、せいぜいできるところかと思います。

おわりに

以上の通り、NFTを取り扱う場合は(1)NFT取扱事業者として決済手段としての使用を禁止する意図を明確にし、(2)販売時には、数量または金額の要件の範囲内で発行・販売し、(3)NFTの決済手段としての使用の実態がないように、ユーティリティ等のサービス設計には気を付け、もし決済手段としての使用実態を見つけれ利用者向けに警告等を行う、暗号資産に該当することなく、かなり安全にNFTを販売できると思います。

今回のGL改正とパブコメ回答は、建付け上は法令の解釈変更ではないので、規制緩和というわけではないですが、実務上、NFTの発行・販売の容易・安全な実施を可能にする内容と思います。

単純な比較はできないものの、今後は、トークン審査や体制整備等の規制が比較的重く、実施までに時間のかかるIEOと比べ、NFTによる実質的な「資金調達」(Initial NFT Offering)が流行るかもしれません。

以上で解説は終わりですが、もし、エンタメ x クリプト x AI 領域のGaudiy法務に関心ありましたら以下からお話ししましょう!(二人目の法務担当募集中!!)

(おわり)

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