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U.R.第一部【脱出編】【2】Trap of Prom Graduation(卒業プロムの罠)

《1》
 
 
 新たなる門出の日というものは、軒並み晴れと相場が決まっているのか、プルー達の高校の卒業式当日は、鮮やかなまでに青空が広がっていた。
 
 高校の卒業式は市民ホールを借り切って行われ、総勢500人の生徒とその家族達が収容される。
 
 プルーは白いガウンと角帽子を身に着け、両親と共に会場にやってきた。会場には既にロージィやアンソニーが家族総出で来ていた。
 
「プルー!」
 
彼女に気付いたロージィが大きく手を振って声を掛けてきた。プルーは駆け寄ると、親友と軽くハグした。
 
「なかなか似合ってるじゃない」
 
「あなたもね、プルー」
 
「やあ、プルー」
 
「ハイ、アンソニー」
 
タペンスは声を掛けてきたアンソニーとも軽くハグしたあと、ふと気が付いてアンソニーの角帽子をつつく。
 
「タッセルが逆になってるよ」
 
「あっ、いけね。ありがとな」
 
アンソニーは慌ててタッセルの位置を右から左に直した。彼らの高校の卒業生のガウンと角帽子の色は、男子は黒、女子は白と決まっている。プルー達幼馴染みの中ではアンソニーだけが黒のガウンだが、会場には黒ガウンと白ガウンが入り乱れて、モノクロ映画のような光景が広がっていた。
 
 プルー達の家族はそれぞれ他の保護者達とも挨拶を交わしている。月並みではあるが、卒業おめでとうの言葉があちこちに飛び交っている。
 
 この日を境に、プルー達は社会に出て行く。大人への第一歩だ。明るい未来へと踏み出す、若者達の晴れ舞台が、この卒業セレモニーだ。
 
「そろそろ席に着かないと」
 
「そうね。確か出席番号順だったわね」
 
「席はみんなバラバラだね」
 
幼馴染み三人組は、それぞれの席の位置を確認して、会場内の控えの間へと向かうことにした。
 
「パパ、ママ、先に行ってるね」
 
プルーは両親に向かって手を振りながら声を掛けた。ロナルドとルビィは笑顔でそれに応えるように手を振った。
 
 会場の座席の前面は卒業生だけが着席するようになっている。その後ろの席が家族達の席となっていて、生徒たちの座席数の数倍を占めている。高校の卒業式は家族にとっての一大イベントといってもよく、生徒一人につき八人まで呼んでも良いということになっていた。
 
 強制収容地区は一つの都市であるため、ブロック区画ごとに街が区切られている。親戚が他のブロックに住んでいたりしたら、彼らも招待することは可能なのだ。呼べる限りの血縁者を招待するなんて当たり前なのだ。
 
 プルーの家族は両親のみで、地区内に親戚もいないので、卒業式に参列する身内は両親だけだ。ロージィも両親と兄弟を呼んだだけで済ませた。だが、アンソニーは隣のブロックに暮らす祖父母や、別の離れたブロックに住む叔父夫婦まで呼んでいた。
 
 プルー達卒業生は控えの間に集められ、出席番号順に名前を呼ばれて整列させられる。ただ、その更に前列には学業やスポーツ、芸術などで優秀な成績を修めた生徒達が並ばされていた。

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