見出し画像

とってもパピヨンな迷探偵~切り裂かれた断章~第四章【後編】

《3》
 
 
 【女の首はかろうじて首の皮一枚で繋がっていると言っていいほどに深く切断されていた。腹部は切り裂かれ、内臓が露出している。下肢は膝を曲げて大きく開かれ恥部を晒されていた。】
 
由宇奈姉は切り裂かれてバラバラになっていたその紙片を繋ぎ合わせて現れた文面を読み上げた。それはまるで小説の一節を抜き出したかのような内容であり、今回の事件の被害者の遺体の状態そのものを表していた。
 
「これ、【紅(くれない)の衝動】の一節ですよね」
 
由宇奈姉の言葉に相沢さんはぎこちない笑みを浮かべて頷いた。
 
「さすがは同業の方ですわね。そう、確かにこれは私のデビュー作【紅の衝動】のものです」
 
「えっと【紅の衝動】って?」
 
勇作兄がこそっと由宇奈姉に耳打ちした。姉ちゃんは呆れたふうに溜め息を吐くと、じろっと横目で睨んだ。
 
「あんたなぁ、作家さんのお宅訪問やねんからそれくらいググっとけや。つうか、映画化されて大ヒットしたやろが」
 
「そんなん知らんし。俺、興味あらへんもん」
 
「お前それでも探偵か? 【紅の衝動】ってのは、切り裂きジャックの正体を暴くっちゅうミステリー作品やがな。容疑者が二転三転して、主人公が翻弄されるんやけど、最後に辿り着いた真犯人はどうしても捕まえることが出来ないまま、事件は終息していくんよ。映画では舞台を幕末に置き換えられた時代劇ミステリーになっとったけど、あれはあれで面白かったし」
 
「ふうん。で、その小説の一節がこれってか」
 
勇作兄はパズルのように合わさった紙片の集合体を眺めた。私も興味津々でそれを眺める。

ここから先は

2,614字

¥ 150

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?