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U.R.第一部【脱出編】【4】Determination and Departure(決意と旅立ちのとき)

 《1》
 
 
 カフェ【グリフォン】のカウンターで、プルーはマスター特製のホットココアを口に含み、漸く気持ちが落ち着くのを実感した。とはいえ、あまりに色々なことがあり過ぎて、今日の出来事を頭の中で整理出来るのにはまだ時間が掛かりそうだ。
 
 目の前の顔馴染みの男性は、いつもはおちゃらけたオカマのマスターなのに、今は別人のように男前な表情で、男らしい言葉でプルーに語りかけている。これは確かに現実なのだが、今までと状況が一変してしまったせいで、現実ではなく夢の中にいるような気がしてならない。
 
 夢なら覚めて欲しいと心から願うほどの悪夢を体験した身の上としては、この現状はとても受け入れ難いものなのだ。まさか自分があんな目に遭うなんて思いもよらなかったし、明日から元の日常に戻れる可能性も限りなくゼロに近い。冷静になればなるほど心は逃避を求めていた。
 
 店に戻ってきてからマスターは優しさ半分説教半分といった感じでプルーに話しかけている。自分の所属する組織のこと、管理局の実態についても話してくれた。
 
【地下鉄】は偽物で【地下鉄道】が本物、【地下鉄】は管理局が地下鉄道の存在を嗅ぎつけたことから作られた偽組織であること。管理局は地下鉄道を潰すために手段を選ばずに脱出希望者の【処理】を地下鉄を使って行っているということ。
 
「……つまりだな、この微妙な違いが相手の狙いってワケよ。ほら、あんまり気にしないだろ、そういうとこ」
 
「うん……、まあ……」
 
プルーはぎこちなく答えた。どうもオネエ言葉でないマスターの言葉は慣れないものがある。三年間、ずっとオネエ言葉に慣らされてきたのだから無理もない。
 
「あの、さ……。何かその、男っぽい話し方、メチャ違和感があるんだけど……」
 
「慣れろ。こっちが素だし」
 
「オカマも違和感なかったけど」
 
「これでも元役者だからな。演技力だけは自信がある」
 
マスターは少し自慢げに胸を張って見せた。その仕草にプルーは思わずクスリと笑う。それを見て彼は目を細めた。
 
「やっといつものお前に戻ったな。やっぱりお前は笑ってるのが一番だ」
 
「えっと……」
 

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