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【建築屋】《青年時代》の 真夜中の噴火…

 先日の話。
仲間たちとのスノボを満喫し、ちょっと遅めの帰宅で、「ただいまぁ」と裏のサッシを開け、リビングへ入室しようとしたところ、何やら賑やかなお出迎え。

そういやせがれの友達が泊まりに来るとかで…

すかさず数名の若者たちと挨拶を交わして、ふと足もとに目を落として、ビックリ!! 若者が1名、横たわっていたのだ。

思わず「ん?!」とのけぞると、せがれ達が笑いながら、1人酔いつぶれて寝てしまったと説明。

なんでもその子は翌日の早朝からスノボに行くということで、その日の終電には乗車して、ここから50kmほど離れた…そう、私の会社の本社がある市まで帰らなければならないのだという。しかも、なにやら寝ゲロもしたとのことで、かなりの泥酔模様だった。

「それは無理だろう。明日のスノボはキャンセルだなぁ。ここまで酔っ払ったら絶対に今日中には目を覚まさないだろうよ。」

と、私は教えてあげた。

寝ゲロは私自身も経験済みだし、今まで何人もの寝ゲロを見てきたので、その泥酔具合とその後の経過はだいたい把握していた。

 せがれ達は、その子を帰宅させることを諦め、介抱に専念することにしたのだった…


 寝ゲロかぁ…懐かしいなぁ…
 

 私自身が寝ゲロを初めて経験したのは、新卒で入社した横浜に本社を置く会社での、入社後すぐに参加させてもらった課内の慰安旅行でだった。20年以上前の話である。

 確か、草津温泉一泊の旅行で、課内の有志が8名ほど参加したのだったと思う。(もはや断片的な記憶しかないが…)日中数ヶ所の観光スポットをまわり、夕方旅館にチェックインを済ませ、温泉に浸かり、宴会場へ、というごく普通の旅程だったのだが、宴会を済ませ、部屋飲みを始めたあたりで、それまで何かと緊張していた私のタガが外れ、テンションが上がり始めるのだった。

皆さんがぐるっと円を描く形で座敷に座り、部屋での酒盛りが始まったのだが、開始早々に私は、持参した日本酒の一升瓶をドンと置き、おもむろに開封すると、「大森イッキ軍団!男みせろやぁ」などと叫びだし、その一升瓶をラッパ飲みして、隣へ回した。

なぜこんなことを始めたのか…まるで覚えていないが、たぶんその場での思い付きのノリだったんだろう。いきなりのことに、皆さん一瞬キョトンとしたが、幸いにも一同そのノリに合わせてくれて、順調に一升瓶は回り、再び自分の元へ戻ってきた…というところで記憶は途切れ、私の記憶が戻るのは、爽やかな朝日に目覚めたところからだった。

 仰向けで目を覚ました私は、自分が置かれた状況を認識するのに、若干の時間を要した。

ここはどこだ? から始まり、順を追って記憶を辿る。

そう、ここは草津の旅館で…だから浴衣なんだぁ。
あれ?みんなは?と思い周りを見ると、私の布団からだいーぶ距離を離したところに、3名が窮屈そうに布団を寄せて眠っていた。これには違和感を感じたが、まだ頭がぼやけていた私はさほど気にせず、先輩たちを起こさないように気を回した。

そこで、ふと顔と髪に違和感を感じる。手を触れてみると、顔には何やらパリパリとしたものが張り付き、髪はベタベタで、触れた手に何かが付着した。それを見て見ると何やら黒っぽいビニールのような…ってこれワカメ?! ここでハッとやな予感がはしり、身体を起こして、自分が寝ていた枕元を確認する。そしてようやく事態を把握した。枕まわりは吐しゃ物と思われる、汚物まみれだった。最悪だ。これは寝ゲロだ。そして、遠くの隅で3人が固まって寝ている意味を理解したのだった。

 私はパニクり掛けたが、ひとまず顔周りの汚れを落とそうと、寝ている先輩たちを起こさぬよう慎重に浴場へ向かった。

 洗い場で顔を洗い、頭髪を念入りに流した。そしてまだぼんやりする頭を覚まそうと、湯舟に浸かった。しばらくぼーっとしていると、ゆらゆら浮かぶワカメが目に入った。うわっまだ流しきれてなかったか。慌てて掴もうとしたが掴めず、そのまま見失ってしまう。ごめんなさい…とココロでつぶやいた。そして、じわりじわり申し訳無さと情け無さと虚しさが込み上げるのだった。

 部屋へ戻ると、目を覚ました先輩たちが迎えてくれた。私は速攻謝罪を連呼したが、先輩たちはただただ笑っていた。私は恐る恐る、昨晩何が起きたのかを尋ねた。先輩たちはそれぞれ、昨晩の私の行動を冷やかしも含めて笑いながら話してくれた。

 先輩たちの話によると、部屋飲みを始めたのは午後9時ころで、私の最後の記憶はその後の30分にも満たない頃までのようだ。そして、私を布団に寝かせたのは午前2時ころだという。その間私は終始、元気一杯はしゃいでいたそうだ…ということは、4時間以上もの間、記憶なく活動している自分がいたのだった。こんな経験はその時が初で、私は不思議な感覚と、えもしれぬ恐怖を覚えたのだった。

 その間の私はというと、部屋ではキャッキャキャッキャとはしゃぎ、一人一人にからみ、ひたすら喋り続けていたそうだ。日をまたぐ頃に部屋飲みはお開きになったらしいが、まだ気が済まない私は、小雨降るなか、浴衣のまま屋外へ出たらしい。そして、見知らぬ人を見つけては「一緒に飲みましょ」と声を掛け始める始末で、先輩たちは必死に私を制し、謝罪を繰り返したとのことだ。最終的に私はそれに不貞腐れて、路上で寝始めたそうだ。にわかには信じられない話に思えたが、確かに浴衣にはドロの跡があったのだった。
 
 先輩たちは、そんな私を抱え部屋まで連れて来てくれ、やっとのことで布団の上に寝かせてくれたのだ。これでようやく寝れると、3人の先輩たちも床に就いたのもつかの間で…

 ヴッヴッヴヴゥ

という音を聞き、慌てて布団を離し避難した直後に、

 ゴボォゴボボォォ!!

と、仰向けのままの私の口から、物凄い勢いでゲロが噴出したそうだ。

「もう凄かったんだよぉ!ゴォボォォォ!って。もはや噴火よ噴火! 大噴火!! 怖かったわぁ。」

「介抱?! そんなんできるわけ無いじゃん! いつ噴火が来るか怖くて近寄れなかったよー!」

 …窒息にならなくてよかった…

 この一件にて、私は「面白い奴」の称号を頂き、その後「お前さぁ面白いのはいいんけど、もっとちゃんと仕事しろよー!」ってのが、私の上司が私に向ける決り文句となるのだった…


 

 



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