門番の卒業

ありがたいことにnoteの更新を待っている旨を伝えてくれる方が時々いて、それなのにただぼんやりと日々が過ぎていくばかりで久しぶりのnote。

日々を過ごしているのか、日々が過ぎていくのかではまるで違う。後者は停滞。良く言えば安定だが。

麻雀プロ歴丸5年。新人ではなくなり、ベテランでもない。たまに何かの予選ぐらいは勝ててもタイトルには手が届きそうになったこともない。

リーグ戦?

リーグ戦はもうずっとコンプレックスになっていた。最高位戦日本プロ麻雀協会には現在A1からD3まで10段階のリーグがある。私は一番下のD3リーグに所属していて、5年のうちに半期リーグに9回出場し、ただの一度も昇級したことがなかった。自分より後に入会した選手もどんどん上にいってしまった。私は門番だ。

梶田琴理のリーグ戦成績

最高位戦の会員紹介ページには選手のリーグ戦成績が掲載されている。44期後期が昇級となっているのは一つ下にリーグが新設されたため表記上そうなっているだけだ。▲319.9の人間が昇級したわけはない。

なんなら別のnoteにも書いたが、私はプロになってからリーグ戦で初めてトップを取るまでに32半荘かかった。1半期20半荘だから、トップを1回取るまでに半年以上かかったのである。

最初の半年は福井県で会社員をしながらリーグ戦のたびに東京に通っていた。交通費と宿泊費、リーグ戦の対局費を全部合わせると1回約5万円。それを5回。結果トップなし、▲319.9。

でも不思議と気持ちは折れなかった。プロ試験前の半年間でペーパーテストに必要なことを詰め込み覚えて合格したものの実戦経験はあまりに乏しく、入会時点で雀力は実際に底辺の自覚はあった。当時天鳳四段。コテンパンに負けながら、強い人たちが揃っている環境に身を置けていて自分には伸びしろしかない!と感じられることにある意味希望を持っていた。

その後会社を退職して上京し、麻雀店で働き始めた。私設リーグ、勉強会にも参加させてもらった。そして天鳳も打ち続けた。

できること、見えるものが徐々に増えてきた気はした。天鳳は鳳凰卓で打てる七段以上を目標にしてきて、東風用のミスタードーナツが2021年11月に七段に、東南用のpipppiが2023年7月に七段になっていた。

ただリーグ戦の結果は一向についてこなかった。最初の頃の「まぁこの中で自分が一番弱いから仕方ない、切り替えて頑張ろう」みたいな気持ちは薄れていった。なんでここまで結果が出ないんだろう?新宿駅のトイレにこもって泣いたり、家に帰って壁に頭を打ち付けたり、同期に弱音を吐いたりした。

麻雀店で勤務中、初対面の方に「何リーグなの?」と聞かれて「一番下のD3リーグです」と答える。そうすると、その方と一緒に麻雀を打ったわけでもないのに「だろうね」って笑われたことがある。別の方には苦笑いされながら「まあ頑張って」と言っていただけた。そういうことが何回もあって、舌を噛み切りたくなりながら笑ってやり過ごしてきた。

混合リーグで一度も昇級できないまま、9回目の半期が終わった時点でトータル▲860.1という見るも無惨な結果になっていた。会員紹介ページに個人成績が掲載されるようになったのは結構最近で、これを見ながら一晩飲めるという先輩もいらしたが、私はこんなもの見ていたら一滴も飲めない。

そして今回10回目のリーグ戦が終わった。

結果は160人中18位で昇級。

一番下のリーグからたった一つ昇級したときにこれほどの祝福をされる麻雀プロはかなり珍しいのではないだろうか。昇級して謝るプロも自分以外見たことがない。

丸5年かかった。最初の頃は、プロ活動は自分が強くなりたいというだけの動機でやっていることだった。実力も努力も足りていないのに「応援してください」と言うことを長らく憚ってきた。でもだんだん自分だけのものではなくなっていた。負け続けても応援してくれる方がいることのありがたさを痛感するようになった。

自分自身はD3から一つ上がったところで嬉しいというよりもやっと昇級したわってホッとするだけなんじゃないかな、と思っていた。嬉々としてこんなnoteを書くこともないと思っていた。

リーグ戦コンプレックスの自分にとって初昇級はとても大きなことだったのは間違いない。だが、それを鼻で笑わないで(笑った人がいてもいいよ)いいねをつけおめでとうと言ってくれる人の多さ、温かさにすごく感動してしまった。打ち上げの居酒屋でチラッとスマホを見たときにXもLINEもえらいことになっていて、不覚にもうるっときてトイレに逃げ込んだ。

自分は小さい人間で、一緒に勉強会をしてもらったことのある方や関わりのある方が昇級したときになかなかおめでとうを言えなかった。そのことを今更いたく恥じた。

昇級は、いつの間にか芽生えてしまった諦観の日々に、それではいけないよと燃料を追加することができた事件だった。

常に全力で走り続けられる人を心から尊敬する。自分は残念ながらそうはなれなくて時々息切れしてしまう。でも麻雀が好きだ。これからも走ったり歩いたりたまに休憩したりしながら、麻雀への片想いを続けていきたい。

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