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令和の竹久夢二、あるいは、甘やかな〈幼少期〉世界の語り部。

 「幼少期」と聴いて、あなたはなにを思い浮かべるだろう。家族、友人達、もしくは、ひとりで過ごした数々の時間──映像の断片──が白い光のような靄をまとって、きっと脳裡をよぎることだろう。
 それは実際にむかし見たもの、体験したものだろうか。それとも、いつかの夢で見たものか、強い憧れが現実に起こったことと錯覚したものか。あまりにむかしのことゆえ、記憶と夢のボーダーは曖昧でにじんでしまっているかもしれない。
    淺川瑠未『むかしはむかし、いまはゆめ』──と題したジャバラ折りの瀟洒な本は、そんなぼんやりと曖昧な幼少の記憶が、ざらざらとした手触りと匂い、湿度と光りを帯びて、クッキリと立ち上がってくる、真に稀有な詩画集だ。佇まいは、明治期に出版された、与謝野晶子のアール・ヌーヴォー風の歌集『乱れ髪』あるいは、明治~大正期の竹久夢二の詩画集を彷彿とさせる。ページをめくるごとに、小さな子供心に焼き付けられた鮮やかなシーンが眼前に迫りきて、胸がチリチリと甘く痛んだ。ここにある短文(一作品、140字)は理路整然とした分かりやすい文章ではない。むしろ、幼少期の映像の一瞬一瞬の連なりで、それは〈意味〉ではなく、物語でもない。火花のように閃く感性であり、パッションだ。短篇映画だ。詩だ。そこに自分はたまらなく惹かれてしまった。

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 そして、この詩画集の面白いのは「〈幼少期の光と影〉を表現したい」との試みで、ジャバラ折りの詩集の、表面をbright side(表紙は純白)、裏面を dark side(表紙は黒)としているところだ。

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    然して、1月から12月の〈幼少期の記憶〉がそれぞれ2パターン書かれ(描かれ)、合計して24の作品が味わえる。幸福な明るい視点と、暗く憂鬱な海底からのような視点とでも言おうか。
 幼い頃、親が読んでしまうために、大人向けの〈いい子ちゃん風〉日記を書いていたという吉原幸子。そして、悪行が過ぎて、学校の先生宅から通学させられていた竹内浩三の当時の悪びれない日記も想起して、なんだか可笑しくなる。そう、いつだって、子供の顔は表に見える、ひとつではないのだ。
 また、作品にぴったりの柔らかで詩情あふれる、おとないちあきさんの挿画が各月の頁ごとに添えられ。その世界を立体的に輝かせ、新たな命を吹き込んでいる。
 視覚、手触り、佇まい、コンセプト。すべてにおいて、こんなにも繊細に丁寧に造られた、美しい〈書物〉に久方ぶりに出会って。いま、幸福な思いで胸が満ちている。

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二〇一九年五月三十一日初版 :限定五百部
文・あさかわるみ(淺川瑠未)/画・おとないちあき
デザイン・ハイジー
発行者・鷗田かつみ(淺川瑠未) 
発行所・みなもとの庭 
頒布価格(税込み)  ¥3300 
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初売り:11/24(日)文学フリマ東京 および、2020年1月19日「文学フリマ京都@みやこめっせ」

▼第二十九回文学フリマ東京 (入場無料)コ-34【みなもとの庭】‏ 
2019/11/24(日) 11:00~17:00
・会場: 東京流通センター  第一展示場
文学フリマ東京詳細・アクセス
「来週末の文フリ東京に「みなもとの庭」名義で出店します。はじめの一歩として、デビュー作二冊(もう一冊は『Akane in Wonderland』)をひとりひとり、手渡しで販売させて頂きます。」
鷗田かつみ氏のtwitter より)

お値段をみて、すこし高価にかんじる方もいらっしゃると思いますが… 実際に手にして読んだ私からしますと、すべてにおいて繊細に趣向がこらされた、情熱の結晶のような〈書物〉で、けっして高くはないです。詩歌や〈本〉がおすきな方なら、ひとめみる、手にしてみる価値はあると思います(買う買わない別として!)。どうぞ、お気軽にブースにお立ちよりを♪

近代詩伝道師 Pippo


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