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あしたば作業所インタビュー

インタビュイー:あしたば作業所 施設長 鈴木 奈緒美 さん

インタビュアー:PIPPO 森井 優希

作業所のパイオニア

鈴木さん:設立当時のあしたば作業所はとても先駆的な作業所でした。周りの行政区には、作業所ってものがそんなに無かったので。結構、いろんな行政区から「私も通いたいです!」って声がたくさんでて始まったんです。遠いところだと、田無、石神井公園がある練馬区だとか、清瀬市とか、東村山、椎名町の豊島区だとか。あと府中市だとか、一番遠い人で青梅市から通いたいと言ってくれる人がいました。でも、この10年、15年経つ内に、それぞれの行政区にたくさん作業所っていわれるものがでてきました。そして、基本的には、自分の行政区内のところに通うという方針になっていっています。あしたば作業所では、これまで入っていた人は、「じゃぁ、練馬区に新しい作業所が出来たから、あなたはあっち行ってくださいよ。」っていうことはしなかったので、本人が希望すれば通っていただくっていう形にしていました。当時は、他市の方達がかなりいたんですけど、今は、西東京市の方、東村山の方、それから小平市の方々が通われています。小平市が7割くらいです。

積み木をつくることになった理由

鈴木さん:その当時は、「麻痺のある、いわゆる身体障がい者って呼ばれる方の指を動かして、物を集団で作るっていうのが非常にリハビリになりますよ」「一人でやるよりも集団でやることに意味があります」っていうので、木工をやりましょうって始まったんです。自主製品っていわれるパズルと積み木を作っていきましょうってなった時に、松本ひかり先生と野口ゆきお先生っていうお二人の作家さんからデザインいただいて。デザインは、あしたばさんで好きに使っていいですよって言われて、商品化した物なんですね。それ以外にも、職員がデザインしたものですとか、利用者さんがデザインした物なんかもちょっと入ってはいます。ただ、主には、そういったお二人のデザインの物に、画家の先生に色の配色なんかも聞いて、指導をうけて製品化した物なんです。

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時代とともに変わること

鈴木さん:最初は、認可作業所っていう形で、身体障がい者向けの施設だったんですが、2001年に社会福祉法人として認可されてからは、障がい種別を問わないっていうことで、精神障がいの方ですとか、知的障がいの方、あるいは、もっと制度も変わっているので、難病の方ですとか、どんな方でも受け入れますよっていう形でいるので、今はいろんな障がいを持った方達がそれぞれにお仕事していただいているっていう形です。
森井:ちょうどこの過渡期というんですか?法人に変わる時にいらっしゃって変化とかってありましたか??
鈴木さん:今までは「単一障がい」っていって、身体障がい者の方達だけだったのが、法人になってからは、知的の方とか、精神の方とかいろんな障がいをもった方が入ってきたので、もともと利用される方からすると、あの人どこが悪いの?って。知的障がいや精神障がいは、見た目にはちょっと分からないじゃないですか。そういうのが、ちょっと最初はありましたね。運営する側からすると、その当時は、私はただの職員でしたけど、国から認められた社会福祉法人になったということで、それなりに縛りがでてきました。例えば、提出しなければいけない書類ですとか、そういたものも大きな法人であっても、うちのようなちっちゃな法人であってもやることは一緒ですよっていう形になったので。事務処理がすごく増えています。

職員の理想の姿

森井:新しく入ってくる利用者さんの障がいが違うと、職員の方も対応の仕方が多岐にわたってくると思うんですけど・・・そのあたりはどうでしたか?
鈴木さん:私もそうですけど、うちの職員は、入社してから通信教育で勉強して、社会福祉主事の資格をとったりする人も多くて。もともと社会福祉の勉強をしてきて、資格を持って来た人の方が少ないんですよね。だから、私が入ったときも、何の福祉の経験も無いし、どうやって接すればいいか分からないし、雇ってもらっていいんですかっていう話だったんですけども、その当時の施設長(現理事長)が、「障がいがあろうとなかろうと、同じ人間として接する事は変わりないですよね。そこさえ、踏み外さなければ、別に問題ないですよ。」っておっしゃって。障がいがあるから低く見るとか、上から目線でするんではなくて、障がいがあっても、あなたたちより年配の人達が働いているんだから。そういう方にあなたはどういった態度をとるのか・・・そこさえちゃんと出来ていれば、コミュニケーションがきちんとできれば、障がいが有ろうが無かろうが関係ないですよね。それは、利用者さんの障がいが身体であっても、知的であっても、精神であっても、変わらないので。それから、私も、一年勉強して通信教育で資格を取ったんですけど、基本的には、相手の言葉に耳を傾けるですとか、「こうしましょうよ」「ああしましょうよ」って上から言うんでは無くて、「あなたはいったいどうしたい?」「それを実現する為にはどうしましょうか?」って一緒に考えましょうっていうスタンスをするのが基本なので。そこは、障がいが違っても変わらないとは思います。なので、職員もそういう対応をしていると思います。知的障がいだからこういう対応、精神障がいだからこういう対応・・・もちろん、精神障がいの方って結構大変なんですけれど、基本にあるのは、一番はその人がどうしたいかっていうことなので、そこはちゃんと聞いて、その実現の為にこうしましょっていう形は変わらないと思います。
森井:すごい!今まで、インタビューしてきた作業所のスタッフさんは、皆さん、もともと専門学校に通われていたっていう方が多かったので。そういう形で福祉の業界に入ってくる方もたくさんいるんだなってびっくりしました。
鈴木さん:そうですね。今は、施設長をやっているんですけど。逆に、私が新しい方を雇うんであれば、専門知識を持ってない方が良いです。
森井:そうなんですね。それはなぜですか?
鈴木さん:逆に、例えばどこかで働いてきましたよっていう人は、もうその経験があるから自分はこうだっていう想いがきっと強いと思うんですね。それよりも何にも知らない人を1から育てたい。
森井:きっと接し方が違いますよね。
鈴木さん:「私は、知的障がいの施設で何十年やってきたんですよ。だから、その経験を活かしてやりますよ。」って人はあんまり欲しくないです。私個人としては、何にも無い方が素直でいいと思う。
森井:なるほど。経験があるからこそ、うまくいかないこともあるんですね。
鈴木さん:それぞれ施設によって考え方がありますからね。なんにも無くて、一から教えてくださいって人の方が教えたいと思います。枠にはめて、こうだからこうしなきゃいけないとか、そういうことではないと思うんですよね。知的の方、精神の方、身体の方、いろんな方がいる。その中で、利用者さんは、個人個人みんな違うんですよ。一人としておんなじ人はいないので。そしたら、やっぱり、その人その人で対応が違って当たり前なので、柔軟な考えの方の方がいいと思います。
森井:柔軟な考えをされる方って少ないんですか?
鈴木さん:難しいですね。あとは、人の気持ちを考えたりだとか、人の意見を聞く、そこが一番大事かな。何か言われて反発するとか、そういうんじゃなくて、言われたことを、自分はそういうつもりじゃ無かったのに相手はそういう風に思っちゃったんだっていうことあるじゃないですか。そこをもっと素直に、「あ、そっか。私の考え方でそういうつもりじゃないのに、こういう風に受け取る人がいるんだな。一個勉強になったな!」って思えるような人の方がいいと思いますね。私は、「障がい者の人から学ぶ」って気持ちでいるので。あと、その障がい者の方達の中でも身体障がいの方は、生死をさまよってきたっていう経験からすると、私達が全くしていない経験をされて今ここにいらっしゃる方達なので、とっても強い方多いです。たくましいです。障がいを持って、たくましい・・・そういうのを見習いたいなって思います。今日、朝のミーティングでも話したんですけども、こういう話し方で良かったのかなって、ちょっと振り返ったりだとか、そういうのが大事かなって思います。振り返るのが大事かな。
森井:利用者さんをリスペクトして、自分も振り返って。
鈴木さん:前に、セミナーに出たときに、自分が成長する為に何が大事かっていう話があったんですけど。一つは背伸びをすること。今のままでいいぞって思わないで、ちょっと背伸びをして目標を立てて、そこへ行く。そこが達成したら、また、背伸びをして・・・。でも、あんまり高いところに目標しちゃうと、いつまでもゴールにいけないので、ある程度届くんじゃないかなっていうところまで、背伸びをする。それから、もう1つは、振り返る。今まで自分がやってきたことが間違っていなかったかなって。必ず振り返る。もう1つは、楽しむ。やっぱり、嫌だ嫌だってする仕事じゃなくて、それこそ、ピンチはチャンスと考えるくらいの気持ちで。それこそ、楽しんじゃうぞって。そうすれば、出来たときの達成感も大きいし。その3つが大事かなっていうふうに思いますね。

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あしたば作業所の商品作り

鈴木さん:新製品を考えようと思った時に、私は結構ね、思い浮かぶの!それでラフにデザインを描いて。で、描いた物を見ながら、ちょっとここ変更しようかなとか、そういう感じで。テーマをもって。あんまり苦労はしてないかな。ラフに作った物を、トレース(原図の上に薄紙を載せ、敷き写しをすること)して、きれいにしてもらってます。商品によっては、画家の先生にグラデーションを教わって、それを職員が利用者さんに指導して製作したものもあります。ちょっと、色の配色は変えていますけど、利用者さんが考えたグラデーションもあるんですよ。
森井:また、全然違いますよね。このマットな感じとグラデーションが入るとじゃ。
鈴木さん:そうですよ。全然違うんですよ。元々、これ、ただのべた塗りで。青と黄色とピンクと黄緑だけでだっと塗ってあっただけのものをこうやってグラデーションにすることで全然違うでしょ?
森井:すごい。また、こっちはリアルですよね。
鈴木さん:グラデーションに、更に、柄を入れた物もあります。それこそ、全部手書きなんです。恐竜の柄とか。色を塗るのに時間がかかって・・・。だいたい2枚塗るのが二日かかるんです。他のものは、一人の人が、午前中で4、5枚ほど塗れるんですけどね。
森井:下地を塗ってから、上から模様を?
鈴木さん:そう。グラデーションで下地を塗って、乾いたところに、柄を描いていくっていうやり方なので。この辺が、時間がかかるかな。
森井:それは大変だ・・・!
鈴木さん:着色はアクリル絵の具を作っています。よくお客様に質問されるのが、「この絵の具なめても大丈夫なの?」って聞かれます。アメリカの絵の具を使っているんですけども。美術工芸協会の安全基準っていうのがあって。そこの安全基準をクリアした絵の具っていうものを使っています。なので、よく危険とか警告って書いてある絵の具もあるんですけど、そういったものは一切使ってないです。あくまでも安全な絵の具を使っています。ただ、本当になめるの心配だったら、この無垢(塗料が塗っていないもの)を勧めます。
森井:それは、ニスとかも全然使ってないですよね?
鈴木さん:そうですね。塗ってないです。
森井:この角とかは、やすりとかけてるんですか?
鈴木さん:やすりです。全部手でかけてます。やはり、お子さんが手にとって遊ぶ物なので、角を取るっていうのは、お客様の立場に立って商品作りはするっていう形です。

いろいろな企業の要望に応える

森井:ホームページを拝見したんですけど、たくさん委託されていたりとか、卸とかされていたりとか、デザイン会社と提携されてますよね?
鈴木さん:他の企業さんとの提携はあります。石川県に能登ヒバ(石川県能登地方に分布する針葉樹)っていうのがあるんですけど。加賀木材っていう材木屋さんが、能登ヒバを使った商品を商品化して、それを売って、林業を守ろうよっていうことで、うちのサイトをみて、「あしたばさんでこういうの作れませんか?」っていう依頼がきて、そこの商品なんかを作ったり。それは、石川県の道の駅で売ったり、あるいは、そこの加賀木材のホームページだったり、観光客が集まるお店で扱ったりもしています。そういう風に、企業さんの方から依頼がきて、それを「うちだったら、この価格で、このぐらいの納期で出来ますよ。」っていう交渉をして、成り立ってます。だから、もともとのオリジナルの製品を作るのと、企業さんから注文いただくものと。あと、個人では、トールペイント(木材などに絵を描くアート)の教室の先生方が、「こういう形で、この厚みで切ってもらえないですか?」っていった注文も入ってきます。なので、いくつかの種類の注文で売り上げを上げている形です。販売の方は、都庁の博品館さんだったり、いろんなところで委託でお願いしていしてます。あと、イベントに行って販売もしてます。
森井:基本的に木工製品を作っているんですか?
鈴木さん:基本は木工ですね。
森井:軽作業的なことは?
鈴木さん:してないですね。
森井:すごいですね!軽作業をやってないということは、木工製品だけで売り上げをあげているんですね。今まで積み上げてきた歴史があるからこそ、企業さんとかもご依頼されると思うんですけど。
鈴木さん:そうですね。もう、私が入ったときからお付き合いしている会社もありますし、その前からの付き合いで、ずっと長いお付き合いのところもあれば、この何年かの間で、新たに入ってきたっていうところもあります。
森井:鈴木さんが営業に熱心にいっぱい行くってわけではないんですよね?
鈴木さん:最初の頃にちょっと営業をしてお店においてもらったっていう経験もありますけども、営業よりは、逆に向こうからホームページをみて問い合わせが来るっていうのが、結構多いですね。

あしたば作業所の現在と展望

鈴木さん:おかげさまで、常に発注は入っているんですよ。だから、今は仕事をこなしていく形ですかね。以前からお付き合いをさせてもらっているところから、すごい数の注文をいただいて「とってもそれは出来ません。」って断ったこともあって。でもそこは、「あしたばさんで作れる数でいつぐらいまでに何個できてて、それで企画を立てましょう。」っていう形に変えてくださったので、それには応えたいなと思っているんですけども。本当に今は、注文も結構多いので、それをこなしていく感じですかね。
森井:嬉しい悲鳴ですね。
鈴木さん:そうですね。ただ、結構、薄利多売なんですよ。
森井:ちなみに、原価はどのくらいなんですか?
鈴木さん:原価率でいうと、3割くらいかな。高いので4割になってしまうものもあります。企業さんとの手数料は、だいたいが、2割であったりとか、1割のところもあるんですけれども、うちが福祉だからって手数料安くしないよっていって、4割取られるところもあるんですよ。なので、自主製品の販売と、企業さんの業務提携商品を作るっていうことで、年間600万は売り上げたいなと。なんとかそれは達成してますけれども。過去は一千万近く売り上げたこともあるので。ただ、そこまではね。今、作り手である利用者さんの年齢が上がってきてしまって。私も23年いるとこの歳ですから。そういう意味での高齢になったことでの悩みだったり。あるいは新しく入ってくる方が重度の障がいだったり、重複障がいであったり。そんな中でも、就労支援ということで、物づくりをして、それを売り上げて、工賃を払って・・・っていうところの、バランスをとるっていうことが難しいですかね。
森井:製品の質とかを維持しながら作り続けていくことって難しいですよね。
鈴木さん:やっぱり、製品の維持は落としたくないので。なので、実際に作れなくなってきている物もあるんですよ。なので、今の利用者さんに合った商品作りっていうのは、考えていて、なおかつ、クオリティーも落とさないでいきたいです。ちょっと今年は新商品を開発をしようと思ってますので。ちょっと方向を変えて行かなければいけないかなとは思ってます。
森井:例えば・・・??
鈴木さん:まだ。これからなんですけど。私の中では、レーザー加工を考えています。うち、ちょっと高いお金出して買ったレーザー加工機っていうのがあるんですよ。それが今休眠状態で。なかなか、うまく活用できてないんですね。
森井:レーザー加工っていうのは、表面に彫りおこすやつですよね?
鈴木さん:そうそう。ちょっとうまく活用して、クオリティーの高い物を作りたいなっていうのは一つあります。うちの商品って、どっちかっていうと、子ども向けじゃないですか。そうじゃなくて、大人が欲しくなるような物であると、今度は客層も変わってきて・・・っていう視点もちょっと考えています。
森井:楽しみ!
鈴木さん:これからです。
森井:今後の展望まで教えていただいて、ありがとうございました。

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記事作成:akさん 
記事投稿:ysさん

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