恩がある靴
娘が高校生だった頃。
ある朝、車で学校の正門まで、送って行った時の話。
そこは、バスも市電も通る、大通りに面していた。
さらに、人も自転車も、多く行き交っていた。
門の手前で、娘を降ろした。
私は、娘を降ろした事で、ひと仕事終えた気がした。
娘は、後ろの座席に置いていた、荷物を取ろうとしていた。
なのに、私は‥‥気付かずに、前に進んだ。ゆっくりと。
娘の「えっ⁈」という声がした。
その声は、「あっ!!」だったかもしれない。
私はハッとした。
どうやら、その時に娘の足(靴)の爪先を引いたらしい。少し。
つま先部分が、ガッチリしている靴だった。
おかげで、娘の足は守られた。
しばらくは痛かったらしいが。
それから、事あるごとに娘に言われた。
「この靴には、恩がある。足を守ってもらった。」と。
ほんとうに、大したことなくって良かった。
いくら焦っていたとはいえ、一生の不覚。
安全運転が1番。
忙しく過ぎていく日々に、そんな大事なことも
すぐに忘れてしまう。
私は、娘と色違いの靴を持っている。
防水タイプで、雨の日用にしている。
たまに履くと、娘の言葉を思い出す。
「この靴には、恩がある」と。