ヴァン・クライバーン:優勝から半世紀のインタビューほか
先日マリアカナルス国際で3位受賞を果たした亀井聖矢さん。私は彼の音楽が大好きです。とくにラフマニノフは本当に最高です💚その亀井くんが出場する第16回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールが6月2日から始まります。応援の意味を込めて、ヴァンクライバーンさんのインタビューの訳と、伝記からエピソードを二つ簡単に、ご紹介します。
1958年4月、第1回チャイコフスキー国際ピアノコンクールで優勝したヴァン・クライバーン。インタビューは、米国公共放送によるもの(YouTube動画、クリックで飛べます)。チャイコフスキー国際コンクール優勝50周年に当たる2008年に収録されています。
ナレーションは要約で、聞き手の質問とヴァン・クライバーンさんご本人の発言は、1パラグラフ以外全訳で、ご紹介します。(ナレーションはインデント、ヴァンさんの言葉は太字)
では、早速どうぞ👇
♩チャイコフスキー国際コンクールを振り返る
驚きました。そして、私にとってというより、これがクラシック音楽にとって偉大な瞬間になってくれたら、と思いました。
飛行機から降りると、美しい現地の女性(コンクール期間中帯同した通訳)に、この方とは今でも知り合いなのですが、『あなたはヴァン・クリーバーンさんですか』と訊かれて『.…はい』と答えると『ようこそモスクワへ』と言われました。
アメリカでは私の名前はこう読むのですが、と発音を訂正しなかったので、結局私には今、二つの名前があります、ヴァン・クライバーンとヴァン・クリーバーンの二つ。
ーモスクワでは、自分が歴史を作っているという感覚がありましたか?
歴史を作っているなんてことは思いませんでした。チャイコフスキーコンクールはあれが第1回でしたし。
ただ、審査員の方々を目の当たりにして興奮しました。信じられないような面々だったんです。ショスタコーヴィチ、リヒテル、ギレリス、カバレフスキー.... 本当にすごい方ばかりで、それは怖かったです、何よりも審査員の方々が恐ろしかった。
ところが、何年か経って、そういう方々と一緒に時間を過ごすことが出来るようになると、皆さん本当に嘘のない、素晴らしい方ばかりなんです。
偉大な音楽の中にある『複雑さに内包された単純さ』をお持ちでした。
♫クラシック音楽はシンプルに見せないといけない
ーそれはどういう意味ですか?
クラシック音楽というのは、シンプルなものに思えないといけないんです。しかし、その一見単純な中に、膨大な複雑性が存在するのです。
ーつまりシンプルに見せないといけないんですね。
そうです、シンプルに、あるいは簡単に見せないといけない。
ーどうやってそれを?
私にもわかりません(笑)。
音楽というのは本当に複雑なんです、それはもう沢山詰まっている、構築があるんです。
ピアニストは弾き始める時に、その作品の全体が時間軸に沿って頭に入っていないといけない、最初の一音から最後の一音まですべてを見通せていないといけない。
♬タイム誌の表紙について
(中略)
私が達成したことが認められたというのなら、それは大変ありがたいことです。
あの時(チャイコフスキーコンクール)の聴衆は、本当に素晴らしかった。私は何も征服なんかしていない。むしろ彼らが私の心を掴んだんですよ。
♩全人生をクラシック音楽の中で生きる
もちろん飛び上がるほど嬉しかったのですが、同時にとてつもない責任を感じました(優勝当時のインタビューの部分)
今でも責任を感じるか?ええ。
偉大な才能や思想、偉大な作曲家に触れると、それはもう深い感銘を受け刺激されます。彼らが書いたものを弾けるようになり、それを誰かに届けたい、と思うのです。
ー責任はプレッシャーにつながりますか?つまり単に”すばらしい音楽家”でいること以上のものが求められていると思いますか?
演奏家なら、いろいろな場所で演奏することは、それが生きがいですよね。プレッシャーが生まれるのは、全人生をクラシック音楽の中で生きると初めて悟る時です。私の場合は、それは母から最初にピアノを習い始めた3歳の時でした。
ーここですね!この椅子で!
ええ、ここです。何かを極めるためには練習が必要です。
公演では、事前にステージに立って、バルコニー席の一番遠くに座るお客様までの距離を、感覚で掴んでおかないといけないんです。
ー最も遠くに座っている1人を意識しているんですか?そこまで届かせないと?
ええ、もちろん。いつもそれを分かった上で演奏しています。
開演前は結構な時間練習しますが、そこではリラックスするようにしています。練習で出し切る意味がありませんから。
ステージこそが、真実の瞬間なんです。
ーあ、そこで出さないと!
そうです、そこで出てこないといけないんです。
ーご自分には厳しい方ですか?
それはもう!厳し過ぎるくらいです。非現実的なまでに。
完璧じゃだめで、完璧のその先を求めるんです。
♪偉大な音楽は永遠に生き続ける
(コンクールで弾く)若者たちは本当に才能に溢れています。彼らの演奏を聴きに行くと刺激をもらって、自分も家に帰ってピアノを練習したくなるんです。
ラフマニノフはこんな言葉を遺しています『偉大な音楽は人の一生にあまる。しかし、人の一生という時間は偉大な音楽には足りない』(クラシック音楽は一生分以上存在しているけど、偉大な音楽には人の一生くらいの時間では到達できないという意味かとコンテキストから考えられます)
ー今でも昔と同じような好奇心がおありで?
ええ、偉大な作品を聴くと、ワクワクしますし、喜びを感じます。でも、そういう偉大な音楽作品は、これからもずっと変わらずに存在し続けるのですよ。今生きている人が全員、あなたも私もこの世を去った後も、そういう音楽は生き続けているはずです。
(最後に、モノクロ映像でヴァン・クライバーン氏の献呈が流れます)🔚
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The screenshot on the header is from https://youtu.be/d4Z1e6HWV3Y .
一度公開し、すぐに取りやめ、その後も迷っていましたが、クライバーン公式が出した声明が当時のことを語っていましたので、公開しました。(4/13、国際音楽コンクール世界連盟がチャイコフスキー国際を除外しました…。)
ピアノを本格的に習い始める幼少期のエピソード、『耳コピでピアノを弾いているのをお母さんが気づく』というのは、亀井くんのエピソードと全く一緒です💚
伝記も拾い読みしました(Reich, H. 1993. Van Cliburn.):
1)ヴァンさんの夜型はなかなかです。(亀井くんも夜型)
ジュリアードで門下の演奏会で自分の出番に遅れたり(仲間が呼びに言ったらまだ寝ていたとか、それでもピカイチのパフォーマンスをしたそうですが)
チャイコフスキーコンクールの演奏順抽選で、9:30の枠を引いた時は、“ありえない時間帯!”と周囲がみな頭を抱えたそうです。
クラス全員がヴァンに目覚まし時計をプレゼントしたはず、という当時の友人の大げさな証言もありました。
2)ヴァンさんのチャイコフスキー国際エントリーの裏話もまた興味深いものでした。
ヴァンさん、国内のコンクール優勝後、本来でしたら公演スケジュールびっしりのシーズンを迎えるところを徴兵にかかり、スケジュールをすべて白紙にします。ところが、メディカルチェックにひっかかり、徴兵が白紙に.… 残ったのは向こう一年間の真っ白なスケジュール。途方に暮れていたところ、国際コンクールの話が舞い込みます。
ヴァンさんは「あれは今思えば、ピンチのふりをしたチャンスでした」と振り返っていました。スケジュールが白紙だったからこそ準備ができてエントリーできたチャイコフスキー国際コンクール。禍福は糾える縄の如し、かれこれ2年続いている特異な状況は、亀井くんにとってピンチのふりをした.…なのかもしれません。
第16回ヴァンクライバーン国際ピアノコンクール本選出場の30名に選ばれた亀井くん💚直前の国際コンクールで結果を出したピアニストを、審査員もきっと期待して下さっているでしょう、マリアカナルス3位の経験が生きます!亀井聖矢にしかできないパフォーマンスで皆さんを魅了してください。全力エールを、フォートワースに送ります💚
(規定を中心に、大会概要まとめています。こちらも応援で作っていますので、どうしても亀井色が出ています🤭💚)