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木蓮Diary(3) 黒ネコ ノイチの寸劇

毎朝アリッサが家を出ていくと、ノイチは私に寸劇を見せにくる。
それは、ノイチがどこかに潜んでいるネズミを見つけ、七転八倒した末に狩りを成功させる、というファンタジー劇である。ぬいぐるみを使った、かれこれ20分以上続くこともある大作だ。箱の中に隠れるネズミをノイチが見つけ、追いかけた末にその首ねっこに噛みついて蹴り蹴りし、あともう一息でネズミも息絶える・・・というところで、決まってネズミはノイチの口から逃げ出す展開である。その後、ベッドの下やキャットタワーのような狭いところでノイチとネズミは一騎打ちとなる。接戦を制してノイチがネズミを捕まえ私の傍に持ってきたかと思うと、またもや仕留めたはずのネズミが逃げ出してしまう。幾多もの困難を乗り越え、ついに・・ノイチは狩りを成功させる・・!!という流れである。

もちろん、ノイチは私が寸劇をちゃんと見ているかどうか絶えずチェックしている。私が気乗りしない様子で携帯をチラチラ見ようものなら、遠くで悲しげな目を見せるのだ。仕方なく、私は椅子を運んできてじっくり寸劇を観覧する。その方がノイチに喜ばれるみたいだし、立ちくらみの心配もない。

スリルあふれる寸劇を演じ切ったノイチは、獲ったネズミを最後に私に渡してくれる。私が「ありがとう」と伝えると、ノイチは目を細め、優しく見つめ返してくれるのだ。そして、満足げな表情で陽だまりのキャットタワーに戻っていくのだった。その後、ノイチは夕方まで眠る。時折息を沈め耳を澄ますと、寝息が聞こえてくるくらいの深い眠りだ。

一匹の猫の中に、これだけの寸劇を作り演じ切るだけの想像力と遊び心があるなんて、私は思っても見なかった。今も静かにキャットタワーの上でくつろぐノイチの頭の中にはきっと、人間には分からない別の世界が広がっているに違いない。そう考えると、ノイチのことを世にいう「愛玩動物」という言葉ではとても言い表せない存在のような気がしてくる。


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