中学生から始める麻雀生活❸学校とギャンブルと哲学
毎朝、BOOKOFFのよむよむくんCMを見ないと1日が始まらない。
言わずとも知れた有名なCMだ。
中央にいるのが父親、両脇が子供というキャラ設定。
↑これは本を売ってアイスを買う場面なのだが、こんな表情のせいか、なんだか金銭的に悲しい想像を巡らせて何とも言えない気持ちになる。
さらに、
これは古いスマホを売ったお金で焼肉に行く場面なのだが、
「♪部屋で見つけた〜スマホやケータイ〜そいつが〜久しぶりの〜カルビになった〜」
という歌が流れる。あまりにもド直球だ。お金がないのにたまったお金をすぐ使ってしまうあたりが子供っぽくてなんだか心が痛んでしまう。
毎日、これを見て情緒を刺激して学校に行くのだ。自分でもなかなか悪趣味だとは自覚している。
というか、これは俺があまりにもケチなだけかもしれなくて、これを見て虚しい気持ちになったりするのは少数派かもしれない、なんて思ったりもする。
今回はそんな独特な感性をしている俺が中2の頃アホみたいに金を積み上げたゲームの話だ。
話というより、事件だ。
ーそのゲームの名は、ポーカー。
※中学校から始める麻雀生活❷の続きになっております。読んでない方はそちらからお読み下さい。
この話はフィクションです。
『友人Mが急遽そこそこの金が必要らしい。一緒にポーカーをやらないか』
こんな怪しすぎるLINE、誰が相手にするだろうか。普通なら既読スルーの一手だ。
しかし、俺は暇だったのだ。学校でも大して楽しい事がない。いわゆる中学二年生の「中だるみ」ってやつ、とはまたちょっと違うが、まあ日々に刺激が無くなっていっていたのは事実だった。しかし、依然としてケチだったためにお小遣いだけは溜まっていたので、正直この得体の知れぬゲームに期待するところはあった。
ちなみに、部活はサッカー部に入っていたが全く刺激にならなかった。スポーツというのは“文化”であり、感情が文化を創るという構図は理解できた。が、「感情論」や「結果論」が団体競技であることによって完全にまかり通っており、この球蹴りに対する情熱は1年で冷めきった。
というわけで、一週間後、校内の食堂で俺は友達3人とトランプを囲んでいた。
言い忘れていたが、俺が通っていた中学校には給食が無かった。弁当を持ってくるか、食堂を利用するかで昼食をとらなくてはならない。
しかし食堂は、店側も客も滅茶苦茶だった節があった。店側に至っては、なぜか売り切れ商品の食券が出てきて、その食券を出したら頼んだものが違うものにすり替えられて出てくるなんてことは茶飯事だったし、メニューに太いマジックで上書きされ続ける「隠す気のない値上げ」はついに芸術の域に達していた。
客、つまり生徒もやりたい放題で、毎日ありとあらゆるものに[お好みでどうぞ]の七味と塩をふりかけまくって食堂側の予算を圧迫したり、
机にコカ・コーラを垂らして上から叩きつけるという1人でも楽しめる謎の遊びが流行したりと、完全に無法地帯の一歩手前まできていた。
そんなところでポーカーをして許されないはずが無かった。
初日、そこで昼休みの30分ほどポーカーをした。ルールはドローポーカーで、ざっくり言うとカードを捨てて、引き、自分の手を高くして、お金を積んで、勝負するというゲームだ。
もちろん賭け事に抵抗が無かった訳ではないが、何より大きかったのはこの“ポーカー”というゲームは賭けるものがないと成立しないゲームだということだ。例えば麻雀は、賭けなくてもゲーム性を保つことはできる。しかし、ポーカーはそれが無理なのだ。だから、「仕方ない」としか思わなかった。有名人が覚醒剤をやっている理由が少し分かった気がした。
だから、例えばチップなど他のものを賭けてゲーム性が保たれるならそれでも良かったがまあ大金を賭ける訳でもないので良いかという話になった。
そして、このゲームは控えめに言って最高だった。冗談抜きで面白かった。まず、初心者もそこそこ楽しめ、いろんな戦い方があり、なんといっても1ゲームが短いので、脳汁の出る機会が他のゲームとは比べものにならないくらい多かった。
もちろん一緒にやる仲間も増えたが、それでも他の迷惑にならない程度にやっているつもりだった。少なくとも賭け事をしているようには見えていなかったと思う。
そんな生活を続けて1ヶ月ほど経っただろうか。ほぼ毎日欠かさずポーカーを嗜んでいたと思う。あの頃は休日が来るのがたまらなく嫌だったのをよく覚えている。
しかし、事件は起きた。
あの時のことは鮮明に記憶している。
カードが配られて、俺の手は『♡A♠︎4♢5♢K♣︎K』現状Kでワンペア(上記)しかないが、高い手になる可能性を秘めている。迷わず『♣︎4』と『♢5』を捨てた。
持ってきたのは、『♠︎A』『♡K』。
!!
これで自分の手は『♡A♠︎A♡K♢K♣︎K』。紛れもない、フルハウスだ。しかもAとKでかなり強い。
その時だった。
ーバンッ!
大きな音がなった。どうやらドアの音のようだった。いつもは騒がしい食堂が一瞬にして静まり返った。
全員が反射的にドアの方を見た。
そこにはなぜか顔を真っ赤にした、いるはずのない生徒指導の教師の姿があった。
彼はそうする事を決めていたかのように、真っ直ぐにこちらに歩いてきた。俺たちは、全員が呆然とそれを見ることしか出来なかった。
(つづく)