久々の日記〜ピーター・シス展に行ってきた。
日記を久しぶりに。
昨日は練馬区立美術館にピーター・シス展を観に行きました。
ピーター・シスってなんじゃいって人は下記を熟読してくれい。
幼い頃から絵を描くことが大好きだったシスは、1949年にソ連支配下の共産主義国家であるチェコスロヴァキアのブルノで生まれました。子どもが絵を描くことさえも管理される難しい環境の中で育ちましたが、彼は芸術的創作への意欲を失うことなく成長しました。プラハ工芸美術大学とロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学び、短編アニメーションの制作でその才能を広く認められるようになります。西ベルリン映画祭で金熊賞を、トロント映画祭でグランプリを、そしてロサンゼルスの映画祭では金鷲賞を受賞するに至っています。その才能から、シスは1982年に政府よりロサンゼルス・オリンピック(1984年)の映像制作のためアメリカに派遣されますが、祖国を含めた東側諸国がオリンピックのボイコットを表明したことを受け、この時、アメリカへの亡命を決意します。ニューヨークに拠点を定め、新聞、雑誌、絵本などのジャンルを中心に活動を続け、この新天地において絵本作家としての人生をスタートさせたのです。先に紹介した数々の意欲的な創作活動の中で、ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ年間ベストテンや、パブリッシャーズ・ウィークリーのベストセラーリストの常連となるなど、シスはアメリカでの絵本作家としての地位を築き上げました。
冷戦下のチェコで生まれた絵本作家ですね。短編アニメーション含む、さまざまな絵本の原画が飾られていました。私は大人なので、あまり普通の絵本の原画にはピンと来ず。むしろ、彼の持つ暗黒面に惹かれました。暗黒面? と思ったアナタ、今から説明したいきますんで、少々待て。
まず、彼の人生に大きく影響を与えた出来事が2点ある。それは冷戦と幼い頃に父と行ったチベットである。
冷戦下において、チェコ国民は海外に行くことはもちろん、生活において自由はなかった。ここにシスの壁というテーマが生まれてくる。幸い、シスの父親は映像のクリエイターだったため、シスは幼い頃から、その壁の向こうに大いなる自由があることを知っていた。
難しいのは、自由を知らない、世界はそういうもんだと思っている人と、自由を知って、それへの希求を秘めて生きる人、どちらが生きづらいかということである。シスは後者であり、大人になったあと、家族を置き去りにして亡命する。なんてやつだ……
さて、そうした希求を隠しながら生きることは彼を神秘主義者・象徴主義者にしていった。有名なインターステラ的に曲がりまくった石畳の街に、黒猫がいる絵では、薄く十二宮の表が書き込まれている。
これは西洋占星術でに用いられるもので、天球が地球に及ぼす効果について研究し、予言する際に使うものだ。
また、彼は「鳥の言葉」の絵本も手がけている。
これは神秘主義の詩人ファリードゥッディーン・アッタールによる長編詩で、簡単に言えば、悩める鳥たちの長を決めるべく、悟性を鈍らせる7つの試練をくぐり抜けながら、伝説の鳥を探す物語。その伝説の鳥に会う頃には、鳥たちはその伝説の鳥と同じ見た目になっていたという話だ。つまり、悟性=阿頼耶識をクリアにすれば、誰しも悟りに達することができることを示唆した寓話である。
シスの人生のを決定づけた父とのチベット行きについても触れておこう。父の映像の仕事を通じて、瞬間の海外逃亡生活を送ったシス。このころの思い出がシスにとって大きかったのか、彼はこのチベット行きについての絵本も残している。また、チベットにいた際は、ダライ・ラマとも接見したこともあるそうで。
これらからわかることは、彼の人生の始まりにおいて少なからず密教に触れたということだ。
密教は秘密仏教の略。象徴的な教えをモットーとし、それを授けられた者以外、それを口外してはならないという仏教である。そして、シスのチベット行きの絵本には見事な曼荼羅が。
さて、シス展の感想をまとめることにしよう。冷戦とチベット行きによって、彼は大事なことは秘匿することを覚え、そして、長ずるにあたって神秘主義への関心もあり、象徴主義者になっていった。これらの文字を見て、まず神智学を想起しない人はいないだろう。古今東西のオカルティズムをカントのように整理し、統合した神智学だが、ピーター・シスはある側面において、セオソフィストであると言えるだろう。そして、今回のピーター・シス展のサブタイトルである「闇と夢」の「闇」は、シスのセオソフィストとしての暗い一面を暗示するものであり、「夢」は絵本作家として、かつて自分が求めた自由を子供に託す明るい一面を指すものだと考える。そうした二面性を打ち出した展示であったと言える。私は特に、シスの暗い一面が好きだったし、各種オカルティズム、そして、散りばめられた円環のモチーフ=安定・永続の表象に人間としての願いを強く感じ取った。
シスが小さなころから隠し続けてきた大切なものを、彼は絵という表現をする際に、やはり隠しながらも行った。という事実が、シスという特異な人間性を表しているようで、とても面白かった。まとめるとそんな感じ。
そんな感じだったんだよ。だったんだよ。たんだよ。だよ。よ。
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