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数の拡張(4)「正負の数」

はじめに

数についてこれまで三本ほど記事を書いてきたが、話を先に進めるために、書く内容を考え、整理していると、どうしてもそれ以前に書いた内容が不十分なように思えて手直ししたくなってくる。

しかし、そうするといくら時間があっても足りないし、いつまで経っても完成しないので、未熟な内容でもとりあえず形を整えて公開している。

完璧でなくてもいい。

まったく間違いのない未完成よりも、間違いがあっても完成させることの方が大事だ。仮にでも完成させられれば、全体像が手に入る。そしてこの全体像こそが、理解を深めたり、間違いを正したりするのに大きな助けとなる。

間違えることを過剰に恐れてはならない。取り返しがつかない間違いというのは、意外と少ないものである。たいていの間違いは後からでも直すことができる。

間違いや不正確な点はあるかもしれないが、とりあえず今は連載の完成を急ぐことにする。

足し算

ある集まりに別の集まりを加えて新たな集まりを作る。このとき、それぞれの集まりに対応する三つの数の間には、決まった関係が見られる。

言い換えれば、もとの集まりの数と、加える集まりの数に対して、それらを加えて作られた新たな集まりの数は決まっている。すなわち、集まりに含まれるものが何であろうと、もとの数と加える数が同じであれば、加えた後の数は常に同じになる。

一応説明しておくと、数の定義から、集まりに含まれるものが何であろうと、それらを小石に置き換えても数は変わらない。小石に置き換えてしまえば、ものの違いは無視できる。そして、ある数の小石に別の数の小石を加える操作は、常に同じ結果を生じるから、ある集まりに別の集まりを加えた結果の集まりの数は常に同じになる。

したがって、二種類の集まりを加え合わせる操作によって得られる、数の対応関係を計算として定義できる。これを足し算の定義とする。

足し算の結果のことをという。例えば、ある二つの数の和は、それらを加え合わせた後の数のことである。

足し算は、加える前の二つの集まりの数から、加えた後の集まりの数を求める計算である。この計算は、前から後という向きに進む。

引き算

求めたい数が必ずしも後の数であるとは限らない。もとの数と、それに何かを加えた後の数がわかっていて、どんな数を加えたのかを知りたい場合もありうる。

その場合、後の数から前の数を求めるので、足し算とは逆の向きに数を求めることになる。

さて、問題はそれが可能かということである。加えた後の数ともとの数から、どんな数を加えたかが本当にわかるのであろうか。

まず、もとの数が一定であるとき、それに加える数と加えた後の数の関係を調べてみよう。

調べてみると、加える数が異なれば、加えた後の数も異なることがわかる。これにより、加えた後の数が同じであれば、加える数も同じになることがわかり、加えた後の数に対して、加えた数が一意に決まることがわかる。

よって、加えた後の数ともとの数から、加えた数を求める計算が定義できる。この計算のことを引き算という。

引き算の結果のことをという。例えば、加えた後の数ともとの数の差とは、加えた数のことである。

引き算は、加えた後の集まりの数ともとの集まりの数から、加えた集まりの数を求める計算である。この計算は、後から前という向きに進むので、足し算とはちょうど逆の計算になる。

また、加えるのと逆の操作である「取り除く」という操作を考えても同様に引き算が定義できる。その場合、もとの集まりの数とそこから取り除く集まりの数に対して、取り除いた後の残りの集まりの数を求める計算となる。

ここで、引き算についても、取り除いた後の残りの数ともとの数から、取り除いた数を求める計算を考えてみよう。

取り除く操作が、加えるのと逆の操作であることを利用すると、ある数から適当な数だけ取り除いて、残りの数が得られたとき、残りの数に取り除いた数を加えると、もとの数に戻る。

この足し算で加えた数は、加えた後の数(もとの数のこと)から、加える前の数(残りの数のこと)を引くことで求められる。ここで、加えた数は取り除いた数と同じであるから、結局、取り除いた数を求める計算は、もとの数から残りの数を引く、引き算である。

「加える」「取り除く」の両方の操作に対して、操作後の数ともとの数から操作に用いた数を求める計算が「引き算」になるのである。

よって、引き算は、操作後の数ともとの数から、操作に用いた数を求める計算として見なすことができる。ただし、操作に応じて引き算の順番は異なる。

正負の数

時として、異なる二つの集まりの数を同じにしたい場面が訪れる。異なる数を同じにするのに必要な操作を知るにはどうすればよいか。

一方に操作を加えて、他方と同じにすることを考えると、一方はもとの集まり、他方は操作後の集まりとして見なせる。もとの数と操作後の数がわかるので、操作に用いる数を求めることができる。

足し算の逆として考えると、操作後の数からもとの数を引けば、加えた数が求められる。

引き算の逆として考えると、もとの数から操作後の数を引けば、取り除いた数が求められる。

上の二つは、表現が違うだけで、全く同じ操作を表している。

例えば、$${5}$$を$${2}$$にする操作は、$${5}$$に$${(2-5)}$$を加えたと見なせるし、あるいは$${5}$$から$${5-2}$$つまり$${3}$$を取り除いたとも見なせる。これらは同じ操作を表すから、式で書くと、

$$
5+(2-5)=5-3
$$

ということである。違うところだけを取り出して書くと、

$$
+(2-5)=-3
$$

となるから、これをそのまま流用し、$${(2-5)}$$という数を$${-3}$$と書くことにしよう。

$${-3}$$を足すことは$${3}$$を引くことと同じである。

今度は数字を入れ替えて、$${2}$$を$${5}$$にする操作を考えてみよう。

これは、$${2}$$に$${5-2}$$つまり$${3}$$を加えたと見なすこともできるし、$${2}$$から$${(2-5)}$$を取り除いたと見なすこともできる。式で書くと、

$$
2+3=2-(2-5)
$$

$${2-5=-3}$$として書き直すと、

$$
2+3=2-(-3)
$$

違いを取り出して書くと、

$$
+3=-(-3)
$$

したがって、$${-3}$$を引くことは$${3}$$を足すことと同じである。

このような数を利用すると、必要な操作を求める計算が一種類で済む。足し算の逆だけを考えればよく、操作後の数からもとの数を引いた結果が「+」なら加える操作、「-」なら取り除く操作ということがわかる。

「+」の数を正の数、「-」の数を負の数という。ある数を別の数と同じにするのに必要な操作を表す数として定義できる。操作の種類を「+」と「-」の符号で示し、その後ろに数を置くという書き方である。

この新しい数(正負の数)は、操作を表す数として定義されているから、従来の数(集まりの多さを表す数)とは別物である。小石が$${-5}$$個ある、という文は意味をなさない。小石を$${-5}$$個加える、または取り除く、という文ならきちんと意味がとれる。

正負の数は、ある数を別の数と同じにするのに必要な操作を表す数である。そして、それは二つの数の差として求められる。したがって、正負の数は、差を表す数としても捉えられる。

また、ある数を別の数と同じにする操作は、ある数から別の数への変化を表すとも見なせる。したがって、正負の数は、変化を表す数としても用いられる。

相対値

ある一定の数に対して、様々な操作を加えることを考えよう。このとき、操作後の数は、加えた操作に応じて一意に決まる。つまり、加える操作と操作後の数の間には、一対一の対応がある。そうすると、加える操作を示せば操作後の数がわかるので、加える操作によって操作後の数を表すことができる。

$${5}$$に対して$${2}$$という数を考える。$${2}$$は、$${5}$$から$${3}$$を引いた数であるから、$${5}$$を基準とすると、$${2}$$には$${-3}$$という操作が対応する。つまり、$${5}$$という数からしてみれば、$${2}$$という数と$${-3}$$という操作は同じものを表すと見なせるのである。

このように、ある数を基準としたとき、別の数を、基準の数に加える操作を用いて表すことができる。このとき、操作を表す数を、基準に対する相対値という。相対値は正負の数で表される。

$${2}$$を、$${5}$$に対する相対値で表すと、$${-3}$$となる。

ちなみに、ここでは加減操作に対して相対値を定義しているが、乗除操作に対して相対値が定義される場合もある。乗法に対して定義される相対値が「比」である。

絶対値

正負の数で表される相対値に対して、従来の数(集まりの多さを表す数)を絶対値という。絶対値は操作を表さず、従来通り、ものの多さだけを表す。

相対値、すなわち正負の数は、操作の種類を示す記号と操作に用いる数の組み合わせで表される。ここで、操作に用いる数は、集まりの多さを表す数(従来の数)であるから、相対値や正負の数から符号を取り除けば、多さを表す数(絶対値)が得られる。これを正負の数の絶対値として定義する。

$${-3}$$の絶対値は$${3}$$であり、$${+5}$$の絶対値は$${5}$$である。

正負の数の計算

最後に、正負の数同士の足し算と引き算について書いて、この記事の締めくくりとする。

数の世界での足し算、引き算は、いくらでも適当に定義できるが、現実世界との対応を考えると、適当に決めた計算は現実世界では無意味なものとなってしまう。まずは現実世界で意味のあることを考えよう。

現実世界で操作を足し合わせることは、自然に考えれば、二つの操作を続けて行うことだろう。また、同じ結果をもたらす操作を同じ操作と見なせば、二つの操作の足し算は、二つの操作を続けて行うのと同じ結果をもたらす一つの操作を求める計算として定義できる。

ある集まりを加えた後、続いて別の集まりを加える操作は、先に二つの集まりを合わせた集まりを加えるのと同じ操作である。

例えば、$${1}$$を加えた後に続けて$${2}$$を加える操作は$${3}$$すなわち$${(1+2)}$$を加える操作に等しい。式で表すと、

$$
(+1)+(+2)=+(1+2)
$$

である。同じ記号を使いすぎて何をしているんだかわかりにくくなっているから、数の足し算を「+」で、操作の足し算を「&」で、正符号を「☆」で書くと、

$$
(☆1)\&(☆2)=☆(1+2)
$$

ということである。負の数同士の足し算も同様である。続けて取り除くのと、合わせたものを取り除くのとは、どちらも同じことである。

$$
(-1)+(-2)=-(1+2)
$$

負の符号を「★」と書けば、

$$
(★1)\&(★2)=★(1+2)
$$

では、取り除いてから加える、または、加えてから取り除く、という場合はどうだろう。

操作の順序を入れ替えても結果は変わらないので、ここでは加えてから取り除く場合だけ考える。

例えば、一個加えて二個取り除く操作は、一個だけ取り除く操作と結果が同じになるから、

$$
(+1)+(-2)=-1
$$

一般の場合も考えてみよう。$${a}$$個加えてから$${b}$$個取り除くのと同じ結果になる操作はどんな操作だろうか。$${b}$$個のものに上の操作を加えると$${a}$$個になるから、これは$${b}$$を$${a}$$にする操作と同じである。

この操作を足し算の逆として求めれば、

$$
(+a)+(-b)=+(a-b)
$$

$$
(☆a)\&(★b)=☆(a-b)
$$

引き算の逆として求めれば、

$$
(+a)+(-b)=-(b-a)
$$

$$
(☆a)\&(★b)=★(b-a)
$$

となる。要は、逆の操作をすると互いに相殺して、最終的に操作する量が減るということである。

引き算は、足し算の逆として定義できる。

つまり、引き算は、特定の操作をした後に未知の操作を加えたら、既知の操作と同じになったときの、未知の操作を求める計算である。

負の数の導入と同様に、二つの操作の関係について、引き算の逆として求めたものと足し算の逆として求めたものが同じになることから、

$${+5}$$を$${+2}$$にすることを考えると、

$$
-(+3)=+(-3)
$$

$${+2}$$を$${+5}$$にすることを考えると、

$$
-(-3)=+(+3)
$$

という性質が得られる。よって、引き算を足し算として解釈し直すことができる。

まとめ

二つの数の変化に対応する操作を表す数として、正負の数を導入した。

正負の数は、二つの数の変化や差異を表すのに用いられる。

互いに打ち消し合う性質をもつ二種類の操作があり、その種類を符号によって示す。

正負の数は、互いに打ち消し合う性質をもつ二種類の量を表すことができる。

操作の足し算を、操作を続けて行うことと解釈すれば、正負の数の足し算を、操作の同一性に基づいて自然に定義できる。

引き算は、足し算の逆として定義できる。

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