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成人の私、年齢の呪いと母のお守り。

99年生まれの私は、今年の8月に無事成人の日を迎えた。

 まぁほんとに、自他ともに認める無計画バカ娘なので、誕生日当日(その日は大型台風が接近してテレビはそれで持ち切りだった)に東京の舞台を観に行く計画を立て、ぎりぎりまで運行するかわからなかった高速バスで名古屋から東京に向かい、昔からの友達と舞台を観て、夜行バスで次の日の早朝に地元に戻って一日中寝て、その次の日の朝には4か月の留学のためにアメリカに飛び立ったので、何も誕生日らしいことしてないんですけどね。
20年生きてきたのにスケジュール管理能力が全く育たなかったみたい。

今考えると、両親はもしかしたら私の成人の誕生日をきちんとお祝いしたかったのかもしれないな、と思って少し反省したりしなかったり。

特に父親は記念日とかを大切にするタイプの人だし、毎年誕生日は母親が手作りのケーキを焼いて、私の好きなメニューでテーブルをいっぱいにしてお祝いしてくれていたから、わたしが無茶な予定を立てなければきっと今年も同じ形でお祝いしてくれたんだろうなと思う。ごめんね。

ここまで読んでいただければわかる通り、私はかなり甘やかされて育った箱入り娘でして。

別に特別裕福だとか何でも買ってもらえたというわけではないけど、お父さんも毎日お仕事を頑張ってくれて、とことん娘には甘い人だったし、お母さんはその時代の人では珍しく四年制の大学を出て勉強をして海外をあちこち飛び回ってきた自由な人なので、比較的穏やかな性格で子供にも自由を教えてくれる人だった。

そんな両親の程々な放任主義と2人が学生時代に身につけた知識に随分と助けられて生きてきました。本当にありがたいなぁ。

今回はそんな私のお母さんの話を少しします。

「犬と猫、どっちが好き?」

「生まれ変わるなら男と女、どっちがいい?」

と同じ類の質問に「タイムマシーンがあったら何歳の時代に戻りたい?」というタイムマシーン系の質問ってあるじゃない?

小さいころ私は一度お母さんにその類の質問をした。なんとなく自分の母親の『一番楽しかった時代』について知りたかったんだと思う。

私のお母さんはその質問に対して「どこにも行きたくない。今が一番楽しいから」と答えた。

お母さんは30代で私を産んだから、いくらでも楽しい時代は過去に合ったはずなのに、頑なに「今が一番」とこの人は答えるのだ。

そんな私が大学の志望校に迷っていた時、私は何度もお母さんに相談した。

大学の相談の流れでお母さんの大学時代の話を聞くことが何度かあって、まぁとにかく『楽しかった』の言葉ばかりが出てきた。

「勉強も楽しかった」

「一人でヨーロッパ一周して」

「景気が良かったからレストランでいつも知らない人がおごってくれて」

「友達としたバイトも楽しかった」

「ちょっとおかしな友達に卒業旅行で連れていかれた国がもうとんでもないところで死にかけてさ」

も~出るわ出るわ。どんどんと母の思い出話が出る。一つのエピソードが終わるたびに「本当に楽しかった」の言葉で締めるくらいにはたくさんの楽しかった思い出話を話してくれた。

だから私は、何の意図もなく本当に思い付きで「大学時代に戻りたい?」とお母さんに聞いた。

けれどこの人は迷うことなくこう言うのだ。

「戻りたくない。今が一番楽しいから」と。

私の人生の先輩であり、一番尊敬する存在である母は、決して年を重ねることに対してマイナスな言葉を使わない。

むしろ「年を重ねれば昔ほど小さなことを気にしなくて済むからとても楽」だとか「今は今の楽しみがあるから、私は今が一番楽しいと思っている」と何度も言うのだ。

勿論母の元来の性格がスーパーポジティブであるためそういう発想になるのかもしれないけれど、実際に自分が成人した今、その加齢に対するポジティブな言葉は『母』として私に捧げられた一種のお守りなのかもしれないと思うようになった。

TVや新聞、SNSに限らず、世間一般では『加齢』という言葉があまりにもマイナスな意味を含みすぎているように思う。高校生の女の子が『JKブランド』の喪失を恐れ、中年女性が若い女性を妬み僻む関係性がフィクションの世界で多用されている。

きっと私は母のお守りがなければ、この加齢の呪縛に苦しめられ年を重ねるごとに自分を嫌いになっていただろう。若さなんて限りあるものに自分の価値を見出し、それを失った瞬間に自分のことを好きになる手段を一つ失って泥沼のような地獄を歩むのだろう。

この人の娘でよかったと思う。

私の母はとても魅力的な人なのでこの人から与えられたものはこの言葉のお守りだけではないけれど、書いたらキリがなくなっちゃうので今回はここでおしまい。

あと2週間で私は留学を終えて日本に帰国する。

きっと父親は母と私の3人でご飯に行きたがると思う。私の父はそういうチャーミングな人。

そして母は私の20歳としての一年の幸福を願ってくれる。私の母はそういう誠実な人。


#日記 #母