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2回目の調停が終わり数週間して、裕太の弁護士から私の弁護士事務所を介して精神科の診断書と書面が送られてきた。

裕太は昔から事あるごとに「精神科に行け」と誰に対しても言う人だったので、可奈が精神科に連れて行かれたのは予想出来た事だったのかもしれない。

出産数週間前に仕事を辞めたて、何をするでもなく数か月、一日中家でネットゲームをする裕太に、育児を手伝って欲しいと泣いた時。養育についての考え方の違いで口論になった時。冷静に話し合えば済む話なのに、裕太はいつも「お前は頭がおかしい。精神科に行け」と罵るだけだった。

診断書には、当事者の友人から「よく出される」と聞いていた『母親の虐待によるPTSD』なんてものが出てくるかと思っていたけど、2枚程あった診断書に書いてあった病名は、予想に反して『分離不安』と書いてあった。

分離不安?

説明欄には要約すると以下のようなことが綴られていた。

・環境が突然変わったことへの不安からくる分離不安を起こし、常に父親の側から離れない。

・母親に会いたいと言わない異常な状態。

不安で裕太から離れない可奈を想像すると、悲しくて悲しくて泣けてきた。今すぐにでも、飛んで行って抱きしめてあげたかった。

この状況で出される診断が「分離不安」だなんて、専門家ではない私が見てもおかしい、妙な診断だった。
可奈が分離不安を起こすのは当たり前だ。そんなの、誰の目から見ても明らかではないか。

無理矢理母親と引き離し日本に連れ去り、ほとんど初対面の祖父母の実家で暮らしているのだ。何らかの症状が出ないほうがおかしい。
「母親に会いたいと言わない」のは、片親疎外が始まっているのかもしれないし、賢い可奈が気を遣っているのかもれない。裕太が先生に嘘を言っている可能性だってある。

なんて卑怯なんだ。

だけどもしかしたら、裕太の中ではそれが真実なのかもしれない。
同じ現実を生きているのに、見ている世界が全く違う。実際、彼との暮らしでそう感じることは沢山あった。これが価値観の違いというものなのか。

言いたいことをうまく表現できない時もあれば、残酷なほどストレートな時もある裕太の本心はいつも私には分からない。

だけどこれは「解決の糸口」が一筋見えた瞬間でもあった。

苛々しながら読み進めると、診断書の末尾に「母親との面会は患者の様子を見ながら慎重に行うべし」と書いてあり、目の前が真っ暗になった

これで、「調停をすればすぐに会える」という希望が絶たれてしまったのだ。いや、むしろ調停をした事によって、可奈を精神科に行かせたり、医師の診断書を書くことにさせてしまったので、悪化させてしまったのかもしれない。つまり『いつ会えるか分からない』状況に、「医師の診断書」という太鼓判が押されてしまったのだ。

診断書を見た母が、「お母さん、もう可奈ちゃんには会えないんだ・・。」と、叫ぶように泣いていた。私は力なく立ちすくむ事しか出来なかった。

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