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35. 「片親疎外」という児童虐待

まるで嫌がらせのように、追加の書面が調停直前に届いた。書面は1回の調停につき何回出してもいい事を私は初めて知った。
次の調停は週明けなので、反論書類を書いている時間は浜田先生が休みの週末しかなかった。

戦略的に札を出す・・まるで、勝つか負けるかのゲームをしている様だ。
家裁で話し合うことは親権と監護権であり、係争なのだけど、今後の可奈の人生に大きく関わるものであり、取り合いをするゲームではない筈だ。

お子さんが生まれたばかりの貴重な週末に、浜田さんは有難いことに追加の反論書面を書いてくれると言った。
そして、片親疎外の研究をされている臨床心理士であり大学教授でもある赤木先生にコンタクトをとり、意見書を急いで書いてもらうようにと言った。

それは、ちょうど池袋にある赤木先生のクリニックに可奈の診断書を持参して見解を聞きに行ったからだった。

調停で協力してもらうためではなく、可奈の状態が心配だったから意見を伺いたく足を運んだのだけど、浜田先生はいつか意見書を頼むことになるかもしれない、と思っていたようだ。

メールをすると赤木先生はすぐに返信をくれた。

赤木先生は「色んな当事者の方に頼まれるけど、このタイミングで出してもあまり効果はないし、私の意見書は高額だからやめたほうがいい。」と、善意あふれる忠告をしてくれた。

だけど浜田先生は、「医師の診断書が提出された以上、片親疎外の意見書を書いてもらわないと、勝てない。どうしても依頼してください!」と、とても強く言ってきたので、無理を言って作成をお願することになった。
急なお願いにも関わらず、赤木先生は「それなら」と、快く受けてくださった。

調停の結果には関係ないかもしれないけど、心理学に多少なりとも興味のある裕太の心には、もしかしたら響くかもしれない・・という期待は少なからずあった。
裕太と直接コンタクトをとることは弁護士をつけた時から禁止されているので、気持ちを伝えられるのは書面上だけだった。

裕太が義母に促されて、悩みながらも可奈を連れ去ったのは友人から聞いて知っていた。だから私は、少しでも残っている彼の良心に、書面での説得を試みたのだった。

赤木先生の意見書には要約すると以下の事が書かれていた。

「分離不安は母親から引き離されているから生じているものであり、母親に会えれば解消される。よって、一刻も早く2人を会わせること。また、子どもが会いたくないと言っているのは片親疎外によるものであり、早急な再会が必要である。そうでないと子どもの心に一生の傷を残すことになる。」

説得力のある力強い言葉をいただき、私はとても嬉しかった。意見書は、可奈と離れて自信を無くした私へのセラピーにもなったのだった。

「これなら裕太の心に響くかもしれない。片親疎外の事はきっと知らないだろうから、意見書を読んで思い直してほしい。私の言うことは聞かなくても、専門家の先生の言うことだったら聞いてくれるかも。。」

そんな淡い期待を抱いた。
裕太は、表現の仕方は違えど可奈のことを愛している。いろんな要素が重なって、おかしな方向に動いてしまっているので、軌道修正出来ればいいとは常々思っていた。

それはまるで、言い方は悪いけど、暴走して子どもを人質に取ってしまった誘拐犯を説得するような気分だった。人質はまさかの、実の娘なんだけど。



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