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37. 奇妙な夢と娘の写真

調停でもらった写真を部屋に飾ろうかと思ったけど、裕太の実家にいる可奈の姿を見るのがどうしても辛くて、引き出しにしまった。

私の部屋は、一面、可奈の写真だらけだった。何かに集中していて一瞬でも可奈のことを忘れてしまうことがとても怖かった。忘れたら永遠に失ってしまうような、そんな気がしていた。

母が泣きそうな顔で私の部屋に入ってきて言った。

「紗英、この写真外して。見てると悲しいよ・・。」

確かにこの部屋は、少し狂っているように見えるかもしれない。そういえば夏生も、何も言わなかったけど、私の部屋に入った時、驚いた顔をしていたっけ。

母が「これを使って」と、4枚の写真をまとめて飾れるフレームを持ってきた。私は特にかわいく映っている写真を選び、飾った。部屋にいるときはずっとその写真を眺めていた。

あまりの苦しさに心療内科に駆け込もうとしたことが何度かあったけど、心療内科に行ったことは調べればわかるそうで、調停での攻撃材料にもなると当事者の方から聞き、結局一度も行けなかった。
内科で睡眠導入剤がもらえると知り、何度か薬を飲んだだけだった。
体重はがくんと減って、30キロ台になってしまった。

ある日夢を見た。 

裕太と義母が、ゴキブリやムカデの大群に襲われるという、気持ちの悪い夢だ。
夜中に目を覚まし、あまりの不気味さに冷や汗をかいていた。

きっと彼らは、罪悪感と恐怖につままれている、そう直感した。
やはり、幸せではないんだろう。それどころか、今度はいつ自分が可奈を失うか怖がっているのではないか。

浜田先生が言っていた言葉を思い出す。「自分が娘さんを奪ったから、、そういう人は、他人も同じことをすると思うんですよ。」

そういうものなのかもしれない。だって私は、こんなことをされても可奈と裕太と引き離すなんて、どうしても想像できなかったから。

あまりにも進まない調停にしびれを切らし、浜田先生が裕太の弁護士に直接、事務所で施行面会をしてみないかと提案してくれたけど答えは「ノー」だった。
相変わらず、『可奈が会いたいというまで会わせない』と突っぱねる。

このまま時間がたてばたつほど片親疎外が酷くなり、会いたいと言わないまま成人する可能性だって充分あるのに、それでいいと思っているのだろうか。
そして、可奈は、母親に捨てられたと思いながら生きていくのだろうか。
世界で一番愛してくれるはずの親を恨みながら。 

そうなってしまったら、裕太や義母、弁護士たちはどうやって責任を取るつもりなのだろう。

自分たちの身勝手な判断で、一人の人間の人生を、精神を破壊するかもしれない。あの人達は、そのことを自覚しているのだろうか?

弁護士費用や意見書など、2人合わせてかなりの金額を既に費やしている。審判に移行したらさらに追加でかかる。こんな大金、可奈の教育費に充てたほうがよっぽど有意義ではないか。
なんて愚かなんだ。

可奈が成長して全てを知った時、今起きている事をどう思う?
大人を軽蔑するようになってしまわないか?
自身のトラウマから、愛着障害を抱えてしまうのでは?

裕太のしていることは、可奈にとっていいことは何もない。早く自分が何をしているのか、可奈の心に何が起こっているのか、気づいてほしいと私は毎晩祈った。

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