築40年以上の空き家 境界杭と接道義務の問題

空き家となった父所有の木造一軒家(築40年以上)。
長らく、処分を拒否していた父の気持ちがようやく前向きになり、売却に向けて動き出すことになった。

リフォーム代金460万円の見積もりを突きつけてきたA不動産には、売却依頼はしたくない、と言う父。
長らく、この家の賃貸管理をお願いし、たびたびA不動産からくる修理見積にも何の疑いもなく対応してきたのに、ひとたび目が覚めると一気に手のひら返しだ。

では先ず、A不動産に出向いて、家の鍵を返却してもらい、別れを告げなければならない。
両親と一緒に、車で2時間ほどの場所にあるA不動産を訪ねた。

その街で古くから、家族で不動産業を営むA不動産。
ウェブサイトは無く、父より高齢の社長が昔ながらの地域密着のやり方で営業している老舗不動産屋だ。

リフォーム代460万円の見積もりも、高齢の社長が作成してくれた。

古い平屋のA不動産の建物入口を入ると、薄暗い部屋で高齢の女性事務員さん(社長の奥さん?)が1人、雑多と書類が積まれた部屋で机に向かっていた。
他にお客さんはいなかった。
入ってすぐの机の山積みとなった書類の上に、「地面師(森功著、講談社発行)」というタイトルの本が無造作に置かれていた。

なんか、怖い…。

「あのーースミマセン…」
と、声を掛けようとしたその時、私達の後ろから別のお客さん(高齢の女性)がツカツカと入ってきて、威勢の良い声で女性事務員さんに呼びかけた。
「ちょっとー!!まーた、あの車が止まってて、ジャマなのよ!早くどかしてちょーだい!!」

「あぁ、ハイハイ、分かりましたよ。言っておきます」
女性事務員さんは、慣れた様子で対応している。
「よろしくね!早くどかしてよ!」
バタン!勢いよくドアを閉めて、お客さんは帰っていった。

どうやら、そのお客さんの敷地(近く?)に、車が止まっていてジャマらしい。
その車はいつもジャマな場所に止まっているようだ。

クレーム対応に一息ついた、女性事務員さんは私達に気づくと声をかけてきた。
「何か、ご用?」
「あっ、スミマセン、あのー、〇丁目〇番地の戸建てでリフォームの見積もりをもらった△△ですけど、リフォームはせずに、売りに出したいんですよ。ただ、(言いづらい)こちらにその仲介をお願いするかどうかは分からないので、、、とりあえず鍵を返していただけないかな?、と思いまして…」

「あぁ…△△さんね。鍵、ハイ、返しますよ」
「あのー、社長にもお伝えいただけますか?」
「ハイハイ、伝えておきますよ。来年から法律が変わって賃貸運用が大変になるから、ウチの社長もやりたくないって言ってたのよ。かえって、良かったワー」

渋られるのでは、という予想に反して、あっさりと女性事務員さんが鍵を返してくれた。

A不動産との話はついたので、新たな不動産屋さんに売却依頼をすることにした。

ウェブサイトを見て良さそうな、空き家からも程近い地域密着型のB不動産に電話をした。
空き家の住所を告げると、B不動産のその地域を担当する営業担当者が後日、現地を見に行って折り返し電話をくれる、ということになった。

スムーズ!♪

空き家の所有者は父だが、最近耳が遠くなってしまい、電話での会話がままならないため、私が電話を受けることになった。
既に所有者である父の売却の意思は固まっているのだから、私が直接B不動産と話をして進めれば良いのだ。

スムーズ!♪

数日後、B不動産の営業担当Cさんから電話があった。
「お父様の空き家なのですが、建物は相当古いので、建物としての資産価値は無いです」
「ウンウン、そうでしょうね(それは予想してましたヨ)」

「更地にして売りに出すにしても、問題がありまして…」
「エッ?何でしょう?」
「敷地が2メートル以上、道路に接していなければ新たな建物が建てられないのですが、測ってみたところ、やや接道の幅が足りなさそうです。きちんと測量して、本当に足りなければ隣地の所有者と交渉して土地を譲ってもらう必要があります。それと、私が見たところ境界杭が見当たらないので、測量士に探してもらうか、新たに杭を打つ必要もあります」

.........。

40年以上前、新築建売分譲地に10件ほどの家が売りに出されていた。
その中で「最も安い」という理由で、旗竿地の戸建てを購入したのが父だった。
以前から、「竿」の部分の駐車場に車を停めても幅が狭くて車のドアが開けられない、とは思っていたが…。

2メートルを満たしてないから、新たな建物が建てらないとは…。

Cさんが続けて言う。
「新たな建物が建てられなくても、例えば資材置き場として売りにだす、なんてことも出来なくもないですけどね…。ただ、誰が資材置き場のための土地をわざわざ買うの?っていうことですからね…」

そりゃそうだ。

境界杭も実際、無いのかもしれない。
否、最初は有ったのかもしれないが、40年以上、様々な住人が住む間にどこかに行ってしまったのかもしれない…。
当時、建売を販売した会社も今は無く、確認しようにもできない。

「それと、、もう1つありまして…」
「まだ、何かありましたか?」

「私が、家の外にいましたら、お隣の方から『庭の草が伸び放題だから、刈って欲しい』と言われまして・・・お隣の土地まで草が伸びて結構、迷惑しているそうで、凄く怒っていらっしゃいました」
「そうでしたか…。庭の草を…遠いのでなかなか行けないんですよね…(つい反射的に言い訳)」

「ご事情は分かりますけどね、今後を考えると、お隣とは良好な関係を築いておいたほうがいいですよ。境界杭はお隣の同意が必要になりますし、接道幅の足りない分をお隣から譲っていただく必要もあるかもしれません。菓子折りの一つでも持って行って、早めに草刈りの対応をしないと、今後問題になるかもしれませんよ」
「……分かりました。父に伝えておきます」

「境界杭を探したり、きちんと測量をするための費用についてはお見積もりを後日、お送りしますね」
「…ハイ…...」

……め、面倒くさっ!…全然スムーズじゃない…
こうして、また新たに1軒草刈り案件が追加された。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?