老父母の住まいについて

私の両親は10年前、父の定年を機に、60代で大手ハウスメーカーの注文住宅で家を建てた。

老後を迎えるにあたり、それまで住んでいた築30年以上経った古い家から離れ、新たに田舎に土地を購入して家を建てて移り住むことを決めたのだった。

それまで住んでいた家は1970年代に当時新築建売で購入した4LDKの一戸建て。
私鉄の駅から徒歩10分程の郊外にあった。

新築建売で購入したのに、実は両親はその家に5年も住んでいない。新築で購入して間もなく、父が遠方に転勤になったからだ。
最初は父だけが単身赴任をしていたが、数年後には母と兄と私も父の単身赴任先へ引っ越して、新築の家は借家として他の人に貸すことになった。

転勤を伴った父のサラリーマン生活はその後20年以上続き、私達一家は父が別の場所に転勤になるたびに一緒についていった。
その間、私たちはずっと賃貸暮らし。新築の家はずっと他人に貸し続けたままだった。

「せっかく家を買ったのに~!!」と、当時、母はよく悔やんでいた。

今思えば、マイホーム購入時点で転勤族になるという予測がつかなかったのだろうか?と不思議でならないが、購入した我が家で両親が再び暮らせたのは、父が定年退職した後だ。
その頃には、兄も私も進学や就職で独立してしまっていた。

結局、新築でピカピカだった我が家で一家4人が食卓を囲んだのは数えるほど。
再び両親だけで我が家に戻った頃には家はすっかり古ぼけてしまっていたのだ。

そんな経緯があったから、リベンジしたかったのだろうか…。
老後を前にして再び両親は新築で家を建ててしまった。
木造2階建てで、延べ床120㎡ほどの4LDK。
費用は建物のみ(外構含まず)で2300万円ほど。
全国規模の大手ハウスメーカーにしてはまぁまぁ、どちらかというと安い方なのかな??

そんな積年の想いが詰まった父母の家にイチャモンを付けるわけではないが、4LDKの間取りは老夫婦2人の住まいにしては大きすぎる。

「一から間取りを設計するとオプション費として高くなる」と、営業マンに言われたため、提示された数種類の既定プランの中から間取りを選んだという。

所々に段差があり、細い廊下もあってバリアフリー仕様というわけでもないし、断熱皆無?と感じるほど夏暑くて冬寒い。老夫婦の終の棲家にしてはちょっと残念な造りのような気がしてならない。

依頼先は大手ハウスメーカーだが、実際に家を作ったのは地元の工務店の大工さん達だ。

建築中、母が現場を見に行くと、老齢の大工さん達が図面を広げながら、「なんだーこれ?ワカンネーナァー」と、頭を抱えながら四苦八苦していたという。
現場は工具や資材が散乱し、とても汚かったと母は愚痴をこぼしていた。

完成して間もなく、モルタルの外壁にヒビが入った。
すぐに修繕はしてもらえたものの10年経った今ではすっかり汚れてしまっている。
モニエル瓦の屋根にも苔が生えており、見栄えは良くない。

最近、両親ともに足腰が弱くなってしまったせいか、2階に行くことは滅多になく、寝食ともすべて1階で済ませている。

ヤッパリ間取りが悪いような...

「広くて掃除が追い付かない」と、母は言う。
軽量の掃除機を購入したものの、1階も2階も掃除するのは大変な様子。
リビングの吹き抜け部分に幾つもあるダウンライトは、私が指摘するまで電球が切れていることさえ気づかなかった。意味無いジャン!もちろん自分達で交換できるはずもない。

吹き抜けの窓は脚立を使っても全く届かないので、一度も掃除したことは無いらしい。階段上の換気口も、階段に脚立が置けないから、触ることができない。他にもあちこちに不具合が発生しており、リフォームを考えているという。

そして最近、気になったのが母のこの一言。

「この間ね~、玄関に小さなカニがいたのよ~コンニチワーってしてて~可愛かったワ~」
「カニ?!カニってあのチョキチョキのカニ?浜辺でもないのにナンデ・・・?」

両親の家の土地は、近くに川も田んぼも無いし、ましてや海があるわけでもない。

「もしかしたら床下は水浸しなんじゃ…」

可愛いカニの訪問者が来たと、おとぎ話のようなほんわかエピソードとして教えてくれた母には残酷な告知であるから、その想像はまだ口に出せないでいる。

両親の家はご近所とやや離れており、周囲に目隠しとなるようなものがないため、家が完成した当初、両親はせっせとホームセンターの苗木売り場に通い、様々な木の苗を家の周囲に植えた。

時が経ち、今それらがどうなっているかというと、老夫婦の手に追えないほど立派にスクスク育っている。

元気すぎて建物をすっかり外部の目から覆い隠し、日光を遮り、2階のベランダまで侵食している。
枯葉がうず高く積もったベランダに両親が立つことはもう、無い。

「よく来たね~。今日もヨロシク!」
夫と実家へ行くと、いつも父母からお願いされるのが庭の木々の枝の剪定だ。

「木なんて植えなきゃ良かったのに!庭も草でボウボウだし、管理もできない広い庭なんていらないじゃない!」
ブーブー文句を言う私とは反対に、義理の息子という立場の夫は、真夏のギラギラした太陽が照り付ける中でも、黙々と鋸でギコギコと木の枝を伐採する。

本当は幹ごと、いや根本から木を抜いてしまいたい。
でも、10年ほどですっかり太くしっかり根付いた木を切るのはプロじゃないと無理だ。

コマメに枝を切り続けている(夫が)。


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