ボージャックホースマン、苦すぎる大人のアニメ〜目が眩む様なニヒルを〜

ボージャックホースマン

正直このアニメを初めて見た時、イマイチだと思った。
ミッドナイトゴスペルやアドベンチャータイムの様な底知れない狂気も、サウスパークやパラダイス警察の様な振り切れた下品さも、スティーブンユニバースやマイリトルポニーの様な暖かい救いも、そう、特筆すべき特徴の無いカートゥーンアニメだと思った。

カートゥーンアニメ無法地帯、Netflixの中では霞んでしまう様なアニメだと。

が、それは大きな間違いだった

ボージャックホースマン、それはカテゴライズするのも難しいあまりにも渋過ぎる、苦味でむせ返る様な真の意味で大人向けカートゥーンアニメだったのだ…

◆大人のカートゥーンアニメとは

大人向けカートゥーンアニメといえばセックスだとかドラッグだとか、とにかく下品な事を盛り込んだアニメといったイメージがチラつくが、ボージャックホースマンはそうじゃない。

イヤ、まあそういったシーンもいくらでもあるのだがそういった類の描写は他のカートゥーン作品の方が比較にならないほど過激だしそういった場面に関してはこの作品はパンチが弱い。

苦い。とにかく苦いのだ。

皆さんは大人だろうか？
Netflixに入り浸って動画を漁っているのならばきっと熟れたくたびれた大人だろう。
大人になるまでに何があった？
楽しくて綺麗な思い出ばかりか？

そんなことはあるまい。

思い出しただけで握り締めた手から血が滲む様な苦い挫折や、うなだれたきり後悔にもたれる様な渋い悲しみを幾重も重ねてそこに辿り着いたはずだ。

気付いたはずだ。
生きれば生きるほど傷だらけになる事に。

このアニメはオシャレでも大人の華やかさやエモさを描いた作品などではない。
酒やセックス（笑）
わかるわかるこれが大人だョネ（笑）
なんて薄寒い自己陶酔に浸れる様なものではない。
酔いも覚める様な、泥水を啜る様な、あまりにも泥臭い作品である。

◆ろくでなしボージャックホースマン

主人公はボージャックホースマン。
1990年代にドラマでブレイクし時の人となった人気俳優。
がしかし今現在はロクに仕事も無く、落ちぶれて過去の栄光に縋り付く中年。
そんな彼が自叙伝を描くためにゴーストライターを雇い自分の半生に向き合う…

といったストーリーなのだがとにかくボージャックが酷い。
自己中心的で過去を延々と引きずり続け他人の足を引っ張るとんでもないろくでなしで、しかしそれでも何よりも自分を愛せず己の人生から逃げ続けるどうしようもない大人。
馬でありながら悲しいほどに人間くさい。
無残なまでに擦り切れた大人。

そんな彼が中心となる物語はひどくリアルだ。あまりにも生々しすぎる。
本当にアニメなんだろうか？誰かの半生を馬として描いているのではないかと勘繰るほどにリアルだ。

後悔だらけの人生でそれでも幸せになろうと足掻き続けるも失敗する。
何度も何度も。
普通のアニメならここもっとどうにかなるだろ…と言った場面でもボージャックは最悪な選択をし、容赦無く、そしてこれまた最悪の結末が待っている。

仲違いしたままの友人は仲違いしたまま、恋愛感情を抱いた相手に素直にアプローチも出来ない、ずっと追い続けていた夢を叶えたにも関わらず背負い込むのは虚しさ。
そしてまたアルコールと愛の無いセックスに逃げて思考を麻痺させ己から目を逸らす。
　　　
自分の人生から目を背け続けた、逃げ続けて大人になった人間の末路を描いた作品と言っていい。

このアニメを楽しむのに知識は要るまい。
必要なのは経験だ。
しかしその経験も特別なものでなくていい。
誰もが、生きれば行き遭ってしまうような苦い経験、挫折。　
つまりは大人になるために負った傷の数々。

ボージャックホースマンが逃げ続けた先で行き遭う人間関係の数々と後悔の日々は自分の人生と思わず重ねてしまうだろう。

本当に苦い。渋い。つらい。
ボージャックを通して己の後悔と向き合うこととなる。
マイリトルポニーならぬ気が滅入るポニーなのである。

このアニメはめちゃくちゃ笑えるわけでも見終わった後に教訓を学べる様なものではない。
だがしかし見てしまう。不思議だ。
決して気持ちの良い作品ではないのに。
ボージャックホースマンの行く末を。
彼はどうなってしまうのだろうか？
実に魅力的な作品だ。

貴方がもしもそれなりに傷を負ってきた大人で、いや、憧れていた大人になれないまま歳を重ねただけの子どもだと思っているのなら、抱えきれない後悔をボージャックに重ねてみてはいかがだろうか？

非常に苦い。
目が眩むくらいニヒルでコミカルな作品だ。

是非。