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オタクは『窮鼠はチーズの夢を見る』の夢を見る

見てきたよ。
後半ネタバレするよ。

はやくマティアス&マキシムも見たいなあ。

【ネタバレ無】

事前情報

私はおそらく6年ほど前に初めて原作を履修し、その後何度か読み返した記憶がある。
映画を見る前にもう一度読むか迷ったのだが、結局直前に読み返した。

どうでもいいのだけど、窮鼠の原作っていくら読んでも内容忘れてしまうの私だけ?
実写で見たことによって、この記憶喪失に終止符を打てるのだろうか……。

実写映画化が発表されたのは2019年2月。
BL作品と茶化す表現もなく、実力派と呼ばれる役者のキャスティング、ベルリン国際映画祭で評価されている監督。
日本の役者や映画監督に詳しくないので一抹の不安はあったものの、本気でやるつもりなんだな、となんとくなく感じたことを覚えている。

感染症の影響により公開日を2020年6月から延期し、9月に公開。

見るべきか、見ざるべきか

おそらく、誰もが一番最初に感じる率直な感想は「これ、本当にR15でいいのか?」だと思う。
特に今ヶ瀬渉役・成田凌さんの体当たりな演技が光る。
とにかくえっちなヤツを見せろ!というタイプの方は迷いなく見るべきだ。

では、それだけかと言われるとそうではない。

LGBTQの生きづらさ、恋愛の苦しいところ、うまくいかない現実。
決して明るい映画ではないが、暗いばかりでもない、気がする。

原作ファンはもちろん、興味がある方は見て損はないと思う。

原作読んでおくべき?

必ず読むべきとは思わないが、もし興味があるなら読んでおいたほうがいいのかもしれない。

一番は、やはり映画では諸般の事情により描けない部分が補われている、というのは大きいと思う。
またえっちい話か!って? まぁそのへんが一番大きいんだけど。
その他にも、時間的制約でカットせざるを得なかったであろうシーンが色々と補完されている。

そして、映画のラストシーンと原作のラストシーンでは解釈が変わるであろうこと。
あぁ、そう来たか、と思った。
映画のラストシーンに対して様々な解釈があるだろうが、原作を読むと少しだけ彼らの行く末が垣間見えるかもしれない。

【以降ネタバレ有】

原作忠実度80%

全体のストーリーや台詞がかなり原作に忠実。

残りの20%はと言うと、
・大伴のクズ度合いが増してた
・今ヶ瀬の属性に”萌え”が追加され、より私の性癖に刺さった
・原作にはないシーン、若干のストーリー改変
・前述したラストシーン
といった具合だ。

大伴は初手知らん女の家に出向いてるし(あのえっちシーンいらんくね?)、(映画の都合上だろうが)夏生とたまきとの微妙な関係も同時進行で進んでいくし、見てるこっちがヒェッとなるクズ具合。
流され侍、自ら濁流に飲まれにいってる感が少し増している。

もう一方の今ヶ瀬は後述。

原作にはないシーンで一番刺さったのは、大友がゲイバーに行くシーン。
店内に入った瞬間、大伴の「これじゃない」「俺が求めてるのはお前じゃない」「ここにはいられない」という気持ちが表情から滲み出ていた。

でも、自分は今確かにこの場にいる。
その行動こそが、「ここ」への一歩を踏み出したのかもしれないし、今ヶ瀬への気持ちが彼らと同じ感情なのかと言われれば、わからない。
一つだけ確かなことは、今ヶ瀬が忘れられないってこと。

あの涙の意味は、なんだったのだろうか。
映画版の大伴は確かに女性関係はゴミクズだけど、今ヶ瀬に対する内に秘めた想いは確実に育っている。

いちいち可愛い今ヶ瀬

成田凌さんの不意に出る台詞回しがとにかく甘えた口調で、今ヶ瀬の可愛さが際立つ。

下から大伴を覗く仕草や、夜中に大伴のスマホを探るメンヘラさ、不敵な笑み。
何もかもがカワイイ。

でも、女性的なわけではない。ちゃんと成人男性。
なのだけど、なんとなく放っておけなくさせる雰囲気を出すのが上手い。
今ヶ瀬はそれを素でやっているのか、計算でやっているのか。
その掴めない感じがまた可愛いのだ。

彼の魅力は、大伴がいなくても生きていけるであろう強さと、些細なきっかけで一瞬にして崩れ去ってしまいそうな弱さ。
反対なように見えてそれらが混在する儚さ、それが今ヶ瀬なのだと思った。

なにより目で語る演技が最高。
目から溢れ出る「あなたが好き」の感情。

そして、ハイチェアやソファの上で丸くなって座る姿が印象的。

今までも、これからも、彼はそうやって自分を守って自分を抱きしめて、大丈夫だと言いながら生きていくのだろう。

ラストシーンの解釈

たまきと別れる、と宣言し部屋を出る大伴。
その間大伴の部屋にいた今ヶ瀬は耐えられずに逃走する。

原作では大伴が今ヶ瀬を近くのバス停まで迎えに行き、自分の覚悟をぶつけ、最終的に「指輪を買うよ」と呟く。
一方の映画では、たまきに「今帰ったらもういなくなってるかもしれない。でも待ちたいんだ」と宣言する。その言葉通りいなくなっていた今ヶ瀬。現状を把握した大伴は今ヶ瀬がよく座っていたハイチェアに腰掛けている、そのシーンでエンディングとなる。

映画版では、今ヶ瀬が戻ってくるのか、こないのか、大伴がその後行動を起こすのか、起こさないのか、わからない。

私は原作のエンディングを知っていたが、映画を見た限りだと、大伴はそのまま待ち続けるんだろうな、と思った。
今ヶ瀬はその日のうちにふらっと戻ってきそうな気もするし、何か月も経って耐えられなくなって戻ってくる気もする。

絶妙な均衡を保ちながら進んでいく二人の関係が、この先幸せを産むのかはわからない。
同棲してみたり、何年も会わずに離れてみたり、そんなことを繰り返しながら今後も生きていくんだろうな。

総評

ここまで色々書いておいて厳しいことを言うが、「それ、いるか?」みたいなシーンがちょこちょこあったのが残念。

女性とのえっちシーンとか。ケツ丸出しとか。
別にあるのは構わないけれど、あるならあるでその意味をちゃんとこちら側に伝えて欲しい。
必要性がわからなかった。

そして、心理描写が甘い。
私は原作を読んでいるので大体察したが、原作を知らない人からすると大伴の葛藤はかなり伝わりにくかったと思う。
あぁ、だからこそあのゲイバーのシーンを入れたのか、と今更ながら納得。一方の今ヶ瀬は視線や仕草から感情が伝わってくる。
成田凌さんが実力派と呼ばれる所以が少しだけわかった気がした。

全体的には画が綺麗だし、ストーリーも原作に忠実だし、見て損はないという意見は変わらずだ。

上手くいかない現実と向き合いながら、彼らのラブストーリーを楽しんで欲しい。

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