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『心臓の王国』ってね、幸せなところなんだって。

ふとインターネットを徘徊していると、竹宮ゆゆこさんが新作を出すとの情報を見かけた。

しかも、その内容はブロマンス。私の得意ジャンルだ。

ネットギャラリーというサイトで、書店や本の製作に関わっていない人でも発売前にゲラを読むことが出来ると知り、今回初めて使ってみた。

【あらすじ】
十七歳の鬼島鋼太郎は、夏休みのある日、白いワンピースのような服に身を包む美青年と橋の上で出会う。
「アストラル神威」と名乗るその青年は、『せいしゅん』をするために橋の上から川に飛び込んで溺れそうになるなど、予測不能な行動ばかりをとり、鋼太郎を困惑させた。

鋼太郎と友達になりたいと言う神威に対し、面倒に巻き込まれたくない鋼太郎は、悪い奴ではないと感じつつも、そのままその場を後にした。

しかし数日後、アストラル神威が鋼太郎の通う高校へ転入してくる。
青春を謳歌しようとする神威に巻き込まれながら、鋼太郎もともに高校生活を送るが、そのうちに神威が抱える「恐ろしい秘密」を知り——。

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以下ネタバレなしの感想文

竹宮ゆゆこさんとわたし

私はいまだに「好きなアニメは何?」と聞かれると『とらドラ!』と答えるくらい、放送当時から今までずっと『とらドラ!』の虜だ。

そんな『とらドラ!』の作者がまさに、『心臓の王国』を書いた竹宮ゆゆこさん。

最近はすっかりラノベよりも一般文芸の方で書いているらしいが、なかなか他の作品に出会う機会はなく。

まさか10年越しに再会することになるとは思わなかった。

前評判が良すぎるのも問題では?

この作品を読みたいと思った時、ものすごい量の絶賛の嵐で、さぞかし凄い作品なんだろうな……と若干引き気味になってしまったところもある。

最近の映画の感想なんかはまさにこれで、前評判があまりにもいいから期待しすぎてしまって……という意見を見かけることも少なくない。

読んでみると、確かに熱い文章を書きたくなる気持ちがわかった。

でも、それは次の項に取っておくとして、一旦少し、ここはどうかなぁと思った部分も書いていこうと思う。

いいところばかりを書いている商品より、弱点も正直に書いたほうが信用が出来ると判断されて売上が伸びるらしい。

私にとって一番きつかったのは”ノリ”。

青春モノなので二人の会話だけでなく、学生生活や友人、家族とのやり取りなんかが主軸になってくるが、とにかくノリが若い。

箸が転がっても面白い年代の子たちだから、日常の些細な行動、ふとした言葉、何だって面白の種になる。

そんなテンションの高さが、私にとっては胃がもたれる思いだった。

あと、少々ご都合主義っぽい感じもあった。

私はどちらかというと、ご都合を真っ向からへし折っていくタイプの作品が好みなので、そこは好みが合わない場面もあったかも。

心臓の王国

この作品は、ぜひ主人公の彼らと同い年くらいの高校生、17歳に憧れる中学生には特に読んでほしい。

17歳というかけがえのない瞬間をどう過ごすのか、何を感じ何を考えるのか、彼らと同じ視点で見て欲しいから。

でも、おとなになってからだって遅くはない。

何もかもが輝いて見えたあの17歳の頃、そんな青春を今過ごしている若者たちと街ですれ違いながら、ふと彼らのこと、過去の自分のことを思い出してみてほしい。

ホモソーシャルな関係性の中で、自分たちも周りも少しずつ変わって行き、何気ない1日が最高にも最低にもなる。

この物語を、彼らが過ごした青春を、命を、美しいと評することが果たして正しいのか。

私達には、それぞれの人生があって、考え方がある。

生きること、食べること、笑うこと、愛すること、信じること。

この本を読むと、もう一度その意味について、考えてみたくなるかも。

余談・読んでいる時のBGM

ライネス -theme of TRUMP-

Hozier -Take Me To Church

Elias - Holy

The Irrepressibles - The Most Beautiful Boy

坂本龍一 - Merry Christmas Mr.Lawrence

坂本龍一 - Sowing The Seed

〇〇が好きな人におすすめ

私は毎回作品紹介を書く時、どんなジャンルやストーリーが好きな人におすすめかを書くようにしている。

まずやっぱり青春ブロマンスが好きな人。

17歳のふたりの奇妙な出会いから始まり、周りの人達も巻き込んだ高校生活を送っていく姿、当初との心境や環境の変化など、読み応えあり。

そして、シリアスストーリーが好きな人。

あらすじに「恐ろしい秘密」と書いてある通り、ただの青春モノで終わらないのがこの作品。

私は1話しか読んでないけど、『光が死んだ夏』が好きな人とか、日本を代表するブロマンス漫画『BANANA FISH』が好きな人とかはきっと楽しめる作品だと思う。

同じくちょっとシリアスさや暗めの人間関係があるブロマンス作品『青空の卵』とかその辺が好きな人にもぜひ。

最後に忘れてはいけないのが、表紙のイラスト担当、はらださん。

『カラーレシピ』『ワンルームエンジェル』『よるとあさの歌』『にいちゃん』……一筋縄ではいかないロマンスと仄暗い闇の部分も見える作品が得意なはらださんが表紙のイラストを飾っているのは、まさにぴったり。

そんなはらださんの作品が好きな人にも、ぜひ読んでみてほしい。



『心臓の王国』ってね、幸せなところなんだって。

行ってみる?


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