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ニュージーランド パイロットとしてのキャリアアップ 3

NZで全く飛行経験を持っていない人たちがどのようにしてパイロットキャリアを積んでいくのか説明していきます。

ニュージーランドの航空会社には自社養成ってものが存在しない。エアラインもそうであるし、小型機を使った使用事業も同じである。KIWIたちがエアラインパイロットになるには、自分でフライトスクールを探し、自家用、事業用操縦士免許と取得してまず、プロのパイロットとしての資格を取得しなくてはいけない。基本的にKIWIたちは国の学資融資(student loan)を利用して取得するのが,最近では普通だ。私がが始めたころの2000年以前にはそのような学資融資は存在せず、皆働きながら何年もかけて資格を取得していった。そのためこの世代の人たちはとにかく色んな飛行機以外の社会経験をしてきているのでものすごく飛行機に対する情熱が強い。また一緒に飛んでいて色んな話を聞けるので楽しいのだ。 エアフォースから来る人もいるがNZのそれはとても小さいのでまれなケースだと感じる。ここ最近増えているのは、オーストラリアからのパイロットである。ご存知の通り、オーストラリア ニュージーランドは密接な経済関係があり、パイロットの免許も唯一 ストレートでの書き換えを認めている国である。Trans-Tasman Mutual Recognition Act 1997 (TTMRA)

しかし、事業用免許取得後いきなり、エアラインに応募しても応募用紙すら受け付けてもらえないのが通常だ。各航空会社からの最低募集条件をクリアしないといけないのだが、最低限500時間の飛行経験は必要だ。ただし、条件がクリアしているだけで面接に呼ばれるか?というのは違うのである(これもよくある質問で応募条件を満たしているのに面接に呼ばれない!なんて憤慨してる方もいます。)その会社に応募用紙を受け取ってもらうと、採用候補者のpoolにまず入り、航空会社がパイロットを雇う際、そのpoolから採用担当者が候補者のなかで良いと思われる人だけに面接の招待をするのだ。だから例えば5人雇うつもりであれば、7人。10人雇うつもりなら12人と採用したい数より若干多い候補者を呼ぶのだ。だから、NZの面接は落とすために呼ぶことはしないのである。採用担当者は候補者全員を雇う方向で面接する。ただし、実際の面接(インタビュー)は事前に準備が必要で最低でも1か月前くらいから始めたほうが良い。一番最初の英語での面接は英語に自信のないパイロットには極めて難しいハードルになるのは間違いない。海外へ目指そうと考え始めたときに同時に少しづつ練習したりするのが一番良い。ただでさえ少ないチャンスを掴むには準備が必要なのだ。

NZでのキャリアアップとは単純に書くと以下のステップになる。

1、各社応募条件を満たすために飛行時間、経験を貯める。

2、航空会社のウェブサイトから応募する。

3、採用担当者に選んでもらえるように努力する。

この繰り返しなのだ。NZ以外の航空会社も同じだと思う。条件の良い会社に移行、入社するにも同じように行う。基本的には、セスナなどを使った使用事業から始まり、アイランダー等の小型双発機を使った使用事業、その後エアラインでターボプロップ機、ジェット機の順で条件が良くなるのが普通でキャリアアップして行くのである。(もちろんそうでないパイロットもたくさんいるが、、。)NZ国内線であれば65才過ぎてもメディカルが維持できれば引き続き乗務することができるので、国際線を飛んでいたパイロットが定年近くになると、国内線に移動することもある。とにかくそういう連中はとても健康でタフなパイロットが多い!

いざ免許を取得してパイロットキャリアを始めると、一番最初の仕事を得るのが一番難しい。それはまだ、免許取得後すぐではパイロットとしての信用度が低いからだ。簡単に言えば、自動車免許取りたての初心者をタクシー会社が雇うようなものだ(?)。だから通常は卒業した学校で信用されていれば教官としての職を得やすいのだ。若しくは教えてくれた教官に紹介してもらう方法もある(私はこの手を使った。)NZ国内には非常にたくさんのフライトスクール、フライトクラブが存在しているのでパイロットキャリアの最初の段階で飛行経験を貯めるにはポピュラーな方法である。

教官や、遊覧飛行のパイロットなどを経験して2年ほどすると1000時間くらいの飛行経験になりようやくステップ2に行けるのだ。ただし、既にNZ以外の国でフライト時間があればNZで飛行時間を稼ぐ必要はない。KIWIたちの多くは、むしろパプアニューギニアとか南アフリカとかNZ以外で飛行時間を貯める人が多く、NZ国内で最初の仕事を探すよりチャンスが多いようなのだ。こういった国では自国のパイロットが少なく外国のパイロットに門戸を開けているからだ。うまくいけば1年ほどで条件をクリアできる人もいる。

では、飛行経験がたまってきた次に考えることは、ステップ3である。NZでは

1、双発飛行機の時間 (約300時間)

2, 旅客運送の経験(Part 135, 125,121 OPS)

3,  IFR(計器飛行方式)でPICの時間 

4、ATPL(定期運送操縦士免許)の有無、若しくはNZ国内で既にATPL学科試験(7教科)合格していること。

が採用担当者に見られる傾向がある。これらの要件を得られるようにキャリアアップさせるのだ。

私が知る限り、ICAO加盟国でのATPL取得飛行要件を満たしたパイロットであれば十分にNZでのエアラインの募集要件は満たしていると思う。

日本やNZ以外の外国で既にパイロットとして仕事をされている方であればそんなに難しい要件ではないのだが、ゼロの経験から面接に呼ばれるまでの道のりはとても大変である。パイロット景気の時はすんなりと事が進むが、そうでない場合は時間が非常にかかるのである。だからNZのような海外でパイロットを目指す場合は、かなりのロングターム(私は10年で計画をしていた)でキャリアステップを計画する必要があり、その間、自分のモチベーションをいかに保つかが問題になるのだ。KIWIも皆同じように時間をかけてエアラインに入社していく。途中でモチベーションがなくなった人は、パイロットとしてのキャリアが終わってしまうのだ。特にこのモチベーションについては重要だと私は考えている。必ずと言っていいほど、海外の面接では聞かれるし、これを面接官に納得してもらわないとあまり良い印象は持ってもらえない。なんのためにエアラインパイロットになりたいのか?正直な気持ちで振り返ってみることが重要だと思える。

以上のことから、KIWIパイロットたちのキャリアステップはとても長い期間で行われているのである。パイロット不景気の時は 飛行経験を沢山持ったエキスパートたちが市場にあふれ、新参者にはなかなかチャンスがもらえず苦しい思いをすることになるが、いったん歯車に乗り出すとスイスイと行くことができる。また、自身のキャリア、ライフスタイルで会社を選ぶので、同じ会社に10年以上いる人は珍しい。常にキャリアに対して流動的で、人によってはまた元の会社に戻ってくるなんて人もたくさんいて、それを寛大に許せる文化がある。また先に書いた通り年齢制限は無い。よくよく考えてみるといろいろな経験をしたパイロットを雇った方が会社にとってはプラスになるだろう。特にニュージーランド航空には出戻りパイロットがたくさんいるのだ。ただし、NZ航空界は非常に強い労働組合があり、seniority (入社順位)でキャリアステップのチャンスが来るので、KIWIパイロットたちの最終キャリアゴール AIRNZ で大型機のキャプテンになるにはそれこそ何十年とかかる。でも、やっぱりそういうキャプテンはとてもかっこよく、私もいつの日か一緒に飛んでみたいと強く心にあるのだ。



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