三題噺③

練習をしてみる。多分やり方間違ってるよって話もある。つづけることが多分大事なので,やってみる。

※ ライトレというアプリを使ってお題を決めています。

お題:意識不明 将棋 吸血鬼


危篤だというお爺ちゃんの病室に駆け付けると,既におじいちゃんは管だらけになっていた。

青白い顔をしたお爺ちゃんを覗き込むと,お爺ちゃんはまだかすかに息をしていることが分かった。あと20分もすれば母さんも駆けつけるだろう。

爺ちゃんは平屋の縁側で,将棋盤にうつぶせて倒れているところを発見された。診断は熱中症で,発見されたのが若干遅くて,ほぼほぼ手遅れだった。

医者曰く今夜が峠だという。

私はお爺ちゃんの生ぬるい手を握った。

「おじいちゃん」と呼びかけるが,応えない。

「また,将棋したいよ」

私は遊びに行く度,お爺ちゃんと何度も将棋を指した。1回も勝てなかったけど,楽しかった。

お爺ちゃんは将棋が大好きだった。おばあちゃんに先立たれてからは特に熱中していた。倒れたのもきっと,暑いのに縁側で延々将棋をしていたのだろう。

その時,お爺ちゃんの目がゆっくりと開いた。驚いて駆け寄ると,お爺ちゃんの口元がかすかに動いた。

口元に耳を近づけてよく聞くと,お爺ちゃんはしきりに

「飛車を,助けてやってくれ」

と言っていた。飛車を助ける?

理解に苦しんでいると,お爺ちゃんの目は閉じていった。その後お爺ちゃんはお母さんが来てから急変して,あっさりと逝ってしまった。

お爺ちゃんの遺言の意味が分からないまま,母さんと遺品の整理をしにお爺ちゃんの家へ行った。

縁側にはお爺ちゃんの将棋盤がまだ置かれていた。

私は傍に腰を下ろして,将棋盤を見つめた。将棋盤の端に追いやられた飛車が目に入る。

手に取るがどこをどう見ても普通の飛車だ。助けが必要には見えない。そう思った瞬間,飛車の表面がぱかっと開いて,何か落っこちた。

それはどこからどう見ても,とても小さな吸血鬼だった。

この出会いが,私の将棋人生の始まりであった。

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