三題噺⑪

練習をしてみる。多分やり方間違ってるよって話もある。つづけることが多分大事なので,やってみる。

※ ライトレというアプリを使ってお題を決めています。

お題:強い 拘束 真夜中


真夜中の僕はいつも少しだけ,昼間の僕よりも正直だ。

言ってはいけない事も言ってしまうし,諦めていた告白も簡単にやってのける。心を込めて育てている花を全部むしって風呂に浮かべたり,窓を全開にして大声で叫んだりする。

正直すぎる僕は午前3時15分に40分だけ出てきて,午前3時55分ぴったりに消えてしまう。その時間までに寝てしまえば出てこない。コントロールするのは簡単だ。

だが今夜はそうはいかない。卒業論文の締め切りは明日,提出するにはまだ書く必要のある大きなトピックが2つ程残っている。朝まで寝ずに書けば,提出までに確実にまとまるだろう。しかし3時15分になれば僕はどうなるか分からない,いや,残りの時間までに取り戻せないくらいのことをやれる限りやるにきまっている。

僕は僕を縛るために,友人に僕を縛ってもらうよう事前に頼んでいた。同じアパートに友人がいてよかった。夜中に頼みごとをするなんて申し訳ないが,背に腹は代えられない。

僕は2時45分になると彼の家を訪ねた。

彼はまだ僕の言う事を信じていないようだったが,怪訝ながらも気の毒そうな顔をして僕を迎え入れ,僕の差し出したロープを受け取った。

彼は僕の手足を強く縛った。「これでいいか?」と尋ねられたが,僕は不安だった。

「このままコンビニまで連れてってくれ,それで,もっと身動きが取れないくらいに拘束して,駐車場の端に転がしておいてくれないか」

と頼んだ。彼はえーっと言い,困惑を隠そうともしなかったが,あまりにも俺の顔が真剣なので,しぶしぶ承諾してくれた。

「せめて女の子だったらなぁ」なんて文句を言いつつ,友人は簡単には動けないくらいに僕を縛り,コンビニの建物とフェンスの間の丁度良いところに僕を挟み込んだ。

僕が丁寧に感謝の意を伝えると,彼は気持ちわりぃよと笑い,凍え死ぬなよと部屋に戻っていった。彼には55分になったらまた助けに来てくれるよう頼んである。論文を書き終わったら,高い焼肉でも奢らなければいけないと思った。

流石に1月の真夜中は寒い。早速垂れてきた鼻水もぬぐえないまま,僕はじっとしていた。そしてその時間がやってきた。頭の奥がぐっと締め付けられるような感覚,そして全てが愛おしいような,憎らしいようなこの強い感情。間違いなく僕自身なのに,一切をコントロールできない。

僕は大声を出そうとした。しかし口にはガムテープを3重に貼ってもらっている。鼻の穴からウンウン言う声が漏れる程度で声は発せない。手足を振り回したいがそれもできない。体をよじらせても,友人が上手くフェンスの隙間に挟み込んでくれたおかげで移動もできない。

沸きあがる友人を殺してやりたい感情と,単純に暖かい場所に行きたいという気持ちが頭の中でぐちゃぐちゃになっておかしくなりそうだった。

その時,自分のアパートの2件隣の建物から小さく叫び声が聞こえてきた。

鳥か犬が鳴いたかと思ったが,その正体はすぐに分かった。女だった。暗くて良く見えないが,厚着はしていないようだ。おぼつかない足取りでこちらに向かってくる。そしてその女を追う影がもう一人。こっちは男か。野太い怒鳴り声が聞こえてくる。

男は女に追いつき張り倒す。そして殴る,蹴る。女はわめくが,それでも男は殴る,殴る,蹴る,殴る,罵る。幸いにも僕にはドエスの性癖はなかったようで,見ていて心の底から女が可哀そうになった。

なんとか女を助けてやろうという気持ちと,あわよくば男を一発殴ってこの体の自由を奪われたうっぷんを晴らしたい気持ちが爆発的に生まれた。

僕はあらん限りの力を絞って,ウンウンとうなった。距離としては5mも離れていない。体も力の限り動かすとフェンスがシャンシャンと鳴る。その音で男はこちらに気づき,近づいてきた。

一切ひるむことなく僕は暴れ続けた。男は俺を見つけるや否や,ひどく驚いた顔をしたが「見たのか」と低い声で尋ねる。僕はにらみつけながらなおも暴れ続けた。男はその僕の様子を見て顔面に一発,きついのをぶち込んだ。僕の記憶はそこで途切れた。

目が覚めると視界一杯,知らない天井だった。強い日差しが部屋に差し込み,決して早朝ではない事が分かる。終わったと直感した。

しばらく呆然としていると,部屋に指導教員が入ってきた。論文の事を謝ると,指導教員は「君の論文は提出されている」と言う。

指導教員曰く,昨夜僕は男に殴られた後気絶したものの,駆け付けた友人に助けられ,論文を書き上げた上で男を通報し女性を助けたそうだ。

友人に電話をして話を聞くと「あの時のお前,かっこよかったぜ」と言う。どうやら僕は正直なまま,やるべきことをやって眠っていたようだ。僕もやればできるじゃないか…そう思いまた眠りについた。

論文中のデータの改ざんを指導教員に指摘されたのは,また別の話。


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