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【連載】あなたはなぜピルコンに?#6

ピルコンのフェロー3年目になりました、あかねえです!(写真は女医教育創設者吉岡彌生先生像と)
博士後期課程の大学院生で、日本における「女性の健康」(Women’s Health)についての歴史的な変遷について研究をしています。
修士課程の頃に、戦前期の日本での性教育が、女性たちを対象とした純潔教育に重きが置かれていたことを知り、現代ではどうなっているのだろう?と思ったことがきっかけでピルコンに参加させていただくことになりました。

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画像:ピルコンMEETUPで開催した、「歴史的な資料から「性教育」について考えてみよう!」

明治時代における性道徳観

みなさんは明治時代と聞くと、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?明治維新や文明化など、新たな時代の幕開けというイメージがあるかと思います。私が専門とする社会学という学問では、近代以降の社会を研究対象にしています。日本ではおおまかに、江戸時代までが近世、明治時代以降が近代なります。明治時代の日本では、江戸時代までの性をめぐる慣習を変えていこうと試みていました。現代のような性をめぐる道徳観が生まれたのが、明治時代なんですね。愛情を基盤とした一夫一妻制が目指され、性は親密なカップル間の営みとなっていったわけです。恋愛を経た結婚というのも、実はこの時期から徐々に普及していくようになりました。

誰が性教育をするの?

はじめの頃は性欲教育や性病教育を目的とした性教育が、男子学生を対象に学校で行われていました。一方で女性に対しては、結婚するまで処女でいることが理想とされる、純潔教育が行われていました。加えて、家庭での性教育も重要視され、母親による性教育が求められるようになりました。では母親たちは、どのように性教育に関する知識を得ていたのだろうと思い、私は戦前期の性教育に関心を持つようになりました。

婦人雑誌における性教育に関する記事

戦前期の女性たちが読む雑誌には、ファッションや美容に加え、生活に関する情報もたくさん掲載されていました。当時の女性たちは、雑誌などのメディアを通して様々な知識を得ていました。現代の日本ではあまり考えられないことかもしれませんが、性教育に関する情報も雑誌から得ることが多かったんですね!調査を続けるなか、そのなかでも性をめぐる情報を提供する中心を担っていたのが医師たちであることを知りました。

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ロシアでの女医に関する調査の様子


女医さんによる性教育

戦前期の婦人雑誌における性教育的な記事は、おもに女医さんたちが書いていました。結婚前の女性たちに「秘密」で教える性的知識についてだったり、結婚初夜や新婚旅行の過ごし方など、医師としての知識と、自分の結婚生活なども踏まえながら記事を書いていました。女医さんたちが結婚や性についての座談会を開催するような記事や、女医さんの診療所に女性たちがお話を聞きにいくような記事もありました。戦前の日本では、「女性たちの味方」として女医さんたちが想定されていることを婦人雑誌の記事を通して知ることができました。

明治時代における女医さんの誕生

私は戦前の婦人雑誌で出会った女医さんたちに関心を持ち、彼女たちの歴史を詳しく調べることにしました。色々調べてみて驚くことがたくさんありました。例えば、明治時代の日本では、江戸時代までの漢医学中心から、西洋医学中心の医学が導入されるようになりました。そこで医学の担い手として考えられていたのは男性のみで、女性たちは教育や免許をとるためのシステムに含まれていなかったんですね。「女性のお医者さんがいれば」と思う女性たちのうち、荻野吟子さんという女性が一念発起し、女医になるため男性に交じって医学教育を受け、医師免許をとるために大変な苦労をされ、女子の医術開業試験の受験が認められるようになりました。荻野吟子さんは、明治時代の後期である1880年代に公許女医第一号として、現在の東京都湯島に産婦人科医院を開業されました。

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「性と生殖に関する健康と権利」の大切さ

実は荻野吟子さんのように女医の必要性を感じていたのは、日本だけにみられる現象ではありません。このような現象は世界各国でも生じており、近代社会において「女性の健康」(Women’s Health)は、女性医師を中心として考えられるようになっていきました。現代でも「性と生殖に関する健康と権利」(Sexual and Reproductive Health and Rights:通称SRHR)として、その問題意識は継承されています。ピルコンでの活動を通して、現代の性教育やSRHRをめぐる問題に触れる機会が増えました。このように性教育の問題など、私が研究している100年以上の前の女医さんたちが考えてきた問題が、いまだに解決されないまま存在し続けています。ピルコンは、女医さんのようなお医者さんだけでなく、当事者である若者たちが中心となって性をめぐる問題を考えていける社会のプラットフォームをつくるうえで重要な役割を担っていると思います。今後もピルコンの活動を通して、日本の性について考えていければと思います!

この記事を書いた人:あかねえ
社会学を専門とする博士後期課程の院生。「女性の健康」をめぐる歴史に関心があり、日本だけでなく他の国や地域との比較も検討中。趣味は様々な国や地域での散歩。ピルコンではおもに中学校や高校での性教育講座に参加させていただいています!性教育講座では性についての知識だけでなく自分の経験なども含めて、身近なものとしての性を一緒に考えられたらなと思って活動しています。


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